激闘②
「ギジャアアアッ」
ニーズヘッグの咆哮によって、大地が振動し世界が揺れる。
昔、声でガラスを割る動画を見た事があるけど、この咆哮だけで世界がパリンと砕けたとしても、おかしくないんじゃないかと思う。
簡単に言うならうるせー。
騒音トラブルもいいところだ。
狂った配信者でもこんな奇声はあげないぞ。
「ギギギギ」
咆哮を終えたニーズヘッグは歯を鳴らし、変容する。
元々黒い塊だったものから、分かりやすく
狼のような顔が形成され、獅子のような四肢が形成される。
サイズは3メートルないくらい。
明らかにスケールダウンしている。
でも、私は知っている。こういうボスっぽいやつは、小さくなればなる程強くなる事を。
ニーズヘッグのどこにあるかも分からない瞳が、私をじっと捉える。明らかに私という存在を観察していた。
なぜ目もないのに分かるのかって?
元OLの女子ですもの。中学からのスカート歴舐めんな。てめえ等のねっちょりとしと視線は、スマホ越しでも分かるんだからな。
とまぁ、こんな感じで分かるんだよね。
例え目がなくても。
「ギルッ」
ニーズヘッグが小さく鳴き、姿を消す。
何処かに立ち去ってくれた。などという淡い期待を抱くよりも前に、側面から急襲してくる。
はやすぎっ。
とはいえ、私の目はニーズヘッグの動きを捉え、私の体はニーズヘッグから放たれた龍爪を受け止めていた。
爪と剣とが激しくぶつかり合い、カーンと大きな音を響かせる。
「…っ」
そのままつばぜり合いが起こる事もなく、私の体は吹き飛ばされた。
体が大地をゴリゴリと削っていく。
ダメージは殆どないものの、力は圧倒的に向こうが上。
達人なら柔よく剛を制すって感じでうまく捌いたり、受け流したりできるんだろうけど、生憎と私には剣の才能がかない。
如何にオーバーロードが世界最高とはいえ、扱う者の技量が追い付いていなかった。
才能もさることながらこれは、努力を怠った結果でもあるんだけど…。
剣の才能なんて持っている方が稀であり、例え才能がなくとも、自身より強い者を倒せる事は多くの人族が証明していた。
曲芸使いも、血の滲む努力の結果だったりするのである。
「ギシャ」
倒れている私を目掛け、龍爪が落ちてくる。
それをオーバーロード(剣)を使って防いだ瞬間、龍爪は軌道を変え、剣を押し潰すのではなく押し払った。
剣がくるくると回転しながら飛んで行く。
器用過ぎるでしょ。この龍。
「…っ」
丸腰となった私の体に、空いていたもう一方の爪が降りかかってくる。
強烈な圧迫に、背中にある大地の方が先に根を上げ、砕け潰れていく。
オーバーロード(鎧)のお陰で、ハスキー犬に馬乗りされてる程度のダメージしかないのは朗報だけど、痛いは痛い。
胸の辺りを圧迫され過ぎて、口から内蔵的な何かが出そうですもん。
「でも、我慢比べなら私が勝っちゃうかもね」
「ギシャアアッ」
ニーズヘッグの指を掴み、私は自分の体目掛けて魔雷撃を落とした。
回避不能の雷攻撃にニーズヘッグは咆哮する。一方私は、電気が走るボールペンをカチっと押した時位の痛みがあった。
二度目はちょっと躊躇う痛みである。
幼少期から電気を浴びていれば、躊躇う事もなかったのにと思いながら、もう一発魔雷撃をお見舞いする。
「ギシャアアッ」
痛いのは嫌だけど、ニーズヘッグが苦しむ姿を見るのは、悪い気がしなかった。
「…」
いや、HP全然減ってねーじゃねーか!
どれ位削れるかと鑑定してみると、ニーズヘッグのHPは5000程度しか変動していなかった。
200万削るのに、一体どれほどの…。
無理ゲーが過ぎる。
4000発も受ける頃には、耐性も付くだろうし、寧ろ快感にすらなりそうなんだけど。
「ギギギギ」
もしかして、もう快感になってる?
全然掴んだ手を振り払ってこないし、心なしか爪に掛かってる圧も弱くなってる気がするし。
「魔雷撃」
私は試しにもう一発だけ魔雷撃を放ってみた。
「ギシャアアッ」
なんだろう。5000しかダメージ通ってないのに、この声とか、もう喜んでるようにしか聞こえないんですけど…。
「キモい」
私は空いているもう一方の手で、オーバーロード(剣)を手招きする。
オーバーロードは私専用の武具であり、例え手から離れたとしても、私の意志で簡単に戻す事が出来た。
快感に悶えている所悪いけど、痛みを知れ、変態。
私は手にしたオーバーロードを振るい、ニーズヘッグの手を切り飛ばした。




