木陰ちゃんOLになる
エフが使っていた工房は、何やら凄い事になっていた。
伝統を重んじるような工房感は僅かに残っているものの、各所各所にファンタジー感のない物が置かれていた。
よく言えばモノリス。普通にいえばただの機械です。コンピューターってやつです。
世界観壊し過ぎでしょ。
運営にバンされちゃうってばよ。
「木陰殿。お久しゅう。ぬぬぬぬぬ。そ、それはもしや!!」
「オリハルコン」
「しゅ、しゅごい。もっと近くで見せておくれ。というより手に。是非手に!!」
「う、うん」
物凄く気持ちの悪い感じで迫られた私は、迫りくるエフから顔を仰け反らせつつ、オリハルコンを手渡した。
「うひゅひゅ。確かに受け取りましたぞ」
オリハルコンを受け取ったエフは、小躍りし、可笑しな笑い声と共に、何処かに駆けていった。
工房はここなのに、一体どこに向かったのだろう。てかオリハルコン、パクられたりしないよね?
そのままどっかに蒸発したりしないよね?
とても心配です。
まぁ、魔王からは逃げられないんですけどね。
「妾の時も、三日三晩踊っておった。気にする事ではない」
「あの顔で三日三晩。気にしないにしてもキモ過ぎない?」
「同意じゃが。キモいから踊るのをやめよとは言えまい」
「多様性ってやつですね」
「多様性というやつじゃな」
心やネットの中で罵声を浴びせつつも、表面上は笑顔で対応する。
認めてない癖に認めてる風を出し、変なヤツはより変になって、ドンドンと人が離れていく。
多様性の盾って無敵だけど、その無敵さって周りに人がいないだけなんだよね。
お前、それ変やでって言葉は傷つくけど、人生単位で見ると結構なターニングポイントになってたりするもん。
ありがとう。名前も忘れたAちゃん。あなたのお陰で、ちょっぴりコミュ症になったけど、立派な会社に就職できました。
今では魔王です。
あれ?私、人生失敗してない?
心の中で悟りを開いた私は、何やら重要な事に気が付きそうになったので、そっと悟りを閉じた。
世の中には、知らない方がいい事が沢山あるのです。
「さて、エフがオリハルコンを使って、勇者の武具を超える武具を練り上げたとして、あの化物を屠り去る妙案はあるかえ?」
「アビスがアビスの杖でドン」
これが一番確実。
てか、完成を待つまでもなくこれでイケる。それ位アビスは規格外だし、アビスの杖もそんなアビスが自由に振る舞える位規格の外にある。
全力の魔法を放てば、化物を永遠の眠りに落とす事も可能だと思う。
「他力本願じゃな」
「自力だと、逃げるのが精一杯」
家康君みたいに、うんこ漏らしながらの敗走じゃなかったけど、なんかちょっと出ましたもん。
敗走兵の気持ち、分かりましたもん。
あんなのに自力で立ち向かうとか、怖いが過ぎる。
「てことでお願いしますアビスさん。やっちゃってください」
「確かにこの杖を使えば、妾に軍配は上がるじゃろうが、アレを屠るのは木陰の役割じゃ。妾に出来るのは手厚いサポートといった所じゃな」
「なぜ?」
why?
「妾のレベルは100じゃ。この状態で膨大な経験値を喰わされば、妾の身は恐らく持たぬ。龍を倒した瞬間にボンじゃ」
「101にはならないって事?」
「恐らくな」
「ん?101になる可能性もなくはないって事?」
「なくもないじゃろうが、ない可能性の方が高い。これはあくまで妾の勘じゃがの。木陰とて目の前に出された食事を見て、これは食べきれないなと、食べる前から予測くらい立てられるじゃろ?妾から見た地龍はそんな感じじゃ。無理矢理詰め込めば、腹を壊すか逆流する」
「でも勘でしょ」
「木陰よ。勘というのは培ってきた経験を元に作られた、根拠のあるものじゃ。故に勘というのはその殆んどが的中する。妾位の年輪を重ねておれば、確率は限り無く100じゃボケ」
説教されて、悪口まで言われました。
でも、勘が経験則ってのは分かる気がする。面接も10社目越えた辺りから、通過したか落選したか、結果を見る前に分かるようになったしね。
受かった気がするっていう、言葉にしたら漠然とした勘でしかないけど、蓄えた経験から予想した、根拠があるものであったのは間違いなかった。
12000年蓄えた経験からアビスは、地龍から得られる経験値は肉体には納められないと、根拠のある予想をしたわけだ。
「OK理解した。でも私はアビスがボンとなっても一向に構わん!」
「ぶっ殺すぞお前」
「ボンってなるよ」
「木陰を喰っても胃もたれ程度で収まる」
「勘ですか?」
「勘じゃ」
「うぅ、戦いたくないでおじゃる」
「戦わねばどの道世界は滅ぶ」
「サポートはしてよ」
一人であんなのに立ち向かうとか、ド◯えもんが未来に帰れなくなっても、私には無理だもん。
「勿論じゃ。さっきもそう言ったではないか。何より妾とて、この杖を使ってみたいからの。腹八分目までは手伝うぞ」
「アビスの立ち位置、なんかズルくない?」
「木陰は狭量じゃの。もっと広い心と視野を持て。さすれば、人をズルいなどとは思わぬ」
アビスはアビスの杖を撫でながら、にやにやと笑みを浮かべた。
新しいおもちゃを手に入れ、早く遊びたい子供のようだと私は思った。
「クソガキ」
思ったから、思ったままを口にした。
私の心と視野はとても狭いのだ。




