木陰ちゃん労災に遭う⑤
なんとか無事に帰ってきた私を出迎えたのは、腰に両手を当て、仁王立ちをしているアビスだった。
進研ゼミで習ったやつだ!という位私はこの姿に覚えがあった。
今からあなたを叱ります。罪状は勿論お分かりですね?のポーズである。
子供の頃、このポーズの母親に叱られたのも今や懐かしい。
「木陰よ。お主一体何をしでかした?」
「地下労働」
「どうせ、色々と面倒になって、一気に吹き飛ばしたのじゃろ」
「ちょっと違う」
格好いい所を魅せようとして、張り切って吹き飛ばしたのだ。
面倒だなと思いながら、バコバコと直下掘りをしていたのは、一つ前の話。
バコバコと掘る。ちょっとイヤらしい。
私は少し頬を緩めた。
「何を笑っとるのか知らんが、とんでもない事をしでかした自覚はあるのかえ?」
「少しは」
「少しだけとは、呆れたヤツじゃの。良いか木陰、アレを放置したら世界は滅ぶ。目覚めたのが一匹だけというのは、不幸中の幸いであるがの」
一匹だけ?
「アレ、世界中に何匹もいるの?」
鑑定では地龍ってあったから、火龍とか水龍とかいてもおかしくはないけど、アビスといい、魔王より強い奴多くないですか?
まさか大魔王が後ろに控えてないですよね?
私、噛ませ犬じゃないですよね?
「さあ。妾もよく分からん。伝承の龍などという存在、妾とて初めて知ったからの。あくまで推察じゃ」
「あの龍、12000歳以上は確定ですか」
「15000歳以上じゃな。母の知識は妾と同一じゃからな」
「アビスも知らないくらい寝坊助なのに、なんで起きたんでしょうね」
「木陰が叩き起こしたのじゃろうが」
「ちょっと当たっただけだし。あいつきっと敏感肌だ」
肌年齢が気になるお年頃ってヤツなのかもしれない。
「馬鹿を言ってないで対策を練るぞ。幸い、オリハルコンは手に入れたようじゃしな」
「珍しく手伝ってくれるんだ」
「十二分に生きたとはいえ、ぽっとでの変な龍に滅ぼされるなんてごめんじゃからの」
「あっちの方が長生きだけどね」
どちらかと言えばこっちの方がぽっとで。
特に私なんて、こっちじゃ二十歳にも満たない若輩者ですしおすし。
「寝てるだけで何もしとらんヤツなんて、世界にはいないのと同義じゃ」
「悲報。ニート、アビスに認知されない」
「は?」
「声怖っ。可愛い声のままでいて」
ババァ口調でだいぶと薄めているものの、アビスの声帯は幼女そのもので、見た目も幼女そのものなので、怖い声は出さないで欲しい。
「ふん。出てきたなら認知はしてやる。今もあの龍の事は認知しておるしな」
「おー。なるほど。アレが巷で有名な無敵の人か」
何もして来なかった人が、外に出た瞬間世界を無茶苦茶にしようと暴れまわる。赦さないという口癖といい、ニーズヘッグの行動や思考はニートヘッドしていた。
ニーズ君のステータスは、凡そ引き込もっていたヤツのそれじゃないけどね。
「は?」
「声怖っ」
「意味の分からん事を言っとらんで、それをエフに渡して来い。お使いクエストがそれだけとは限らんしの」
「はーい」
返事をし、私はエフのいる船に向かった。




