女王旧友と会う
東とはさて、どれくらい東なのか。
魔族領に到達するまでの間なのか、それとも魔族領に入って更に東に向うのか。
エルフの拠点は魔族領にも存在している為、魔族領に入る事に問題はないが、エルにとっての東が、エルから見て右だった事を考えると、アビスには百抹の不安しかなかった。
最東まで進んだ結果、西だったという事は高確率であり得るからだ。
エルの予言なんて関係なく最東の地に辿り着く頃には、求める鉱石の100や1000見付かると思いたいが…。
「不安じゃ」
今の今まで一つも見付かっていない事を考えると、不安な事この上なかった。
エルと別れて、既に一月時間が過ぎようとしていた。
そしてアビスは鉱石探しをしている一月の間に、自身に宝探しの才能がない事を痛感していた。
宝に対して直感が働かない事もそうなのだが、徹底的に飽きてしまっているのである。
なのでアビスは鉱石探しだけをする事はなく、木陰と釣りをしたり、自室に帰って本を読んだり、可愛い魔物のお尻を追い掛けて、魔物の住み家に迷い混んだりしていた。
幸い、方向感覚には優れているので、道に迷う事はないのだが、鉱石探しの方向性は、ストレスを与え続けたおじさをの頭くらいとっ散らかっていた。
すべてを諦めてスキンヘッドにしたら、可能性が見えてくるというのに…。
「お主もそう思うじゃろ?」
「グルグルグルグルッ」
「かわゆい奴じゃ」
牙を剥き出しにしながらも、グルグルと喉を鳴らす猫型魔獣の腹をアビスはわしゃわしゃと撫でた。
腹を一撫でする每にパチパチと魔法が放たれたが、アビスにとっては静電気で髪が逆立つ程度の事だった。
「わしゃわしゃわしゃ」
「グルガルグルッ」
「よしゃよしゃよしゃ」
「おい。我が子を放せ。外道」
「わしゃわしゃよしゃ」
「おいっ。無視するな。外道」
「わしゃしゃしゃ」
「このっ、外道が!」
声に気付く事なく、アビスがわしゃわしゃと魔獣を撫でていると、アビスが常時展開していり魔術結界が激しく振動した。
結界に三つの爪痕が付けられ、修復されていく。
「ほぅ。妾の結界に傷を付けるとは中々やるではないか」
「外道が。何者だ!名乗れ」
「人に名を聞く時は自分から自己紹介せよと。お主のパパはそんな事も教えてくれなんだのかえ?」
名乗られるよりも前に鑑定を終えていたアビスは、竜族の男に質問した。
バルトロ・ドラ・デニア
竜族の戦士
バルトロという名に覚えはないが、ドラ・デニアという名に、アビスは覚えがあった。
かつて共に旅した仲間の名である。
「騒ぎがあって駆け付けてみれば、君は相も変わらずだねアビス」
「デニス!久し振りじゃの。お主は些か老けたかえ?」
そして、かつて共に旅した仲間は騒ぎを聞き付け、今は目の前にいた。
顔の造形は変わっていないものの、肌には皺が増え、瑞々しさはない。
竜族を知らない者が見たとしても、老人と表現するのではないだろうか。
ステータスも全盛期とは比較にならない位落ちている。
「1000年2000年と経てば老けるよ。君のように若作りはしていないからね」
「妾はナチュラルじゃ。若作りなどしておらん」
「確かに。君はどちらかというと背伸びをしていた方だった」
アビスの身長は低く、見た目も幼い。エルフは長命で若い時間が長いとはいえ、アビスはその中であってもかなり幼い部類だった。
人族や竜族の目から見ると、ただの子供にしか見えない程に。
だからこそアビスは話す際、声を無理矢理低くし、ババァのような口調を使う。
これは幼子として扱われる事に不服を覚えたアビスがする、必死の背伸びだった。
「こら、頭を撫でるでない」
「おっとすまない。丁度良い位置に頭があったのでつい」
「この外道…面妖な女はじじ様の知り合いですか?」
「旧友だよ。だから僕の顔に免じて、この子がした事は許してあげて欲しい。この子は可愛いものが好きなんだ」
「だから子供扱いするでない」
「じじ様が言うのであれば」
「因みに、君も幼い頃は、それはもうこの子にわしゃわしゃと撫で回されていたんだよ。バルトロ」
「はあ?妾がこんな不細工な竜人撫で回すわけなかろう?耄碌しよったか?」
「じじ様、等々ボケが…」
「バルトロ、君は命を喰らう魔女の話を知っているだろ?」
「はい。有名なので」
何処からともなく現れ、竜族の子供の命を啜る魔女。この魔女によってかつては不老長寿の代名詞でもあった竜族は、千年の時を生きれば長寿と呼ばれる程、命が短くなった。
バルトロはその中でも例外ではあったが、自分よりも若い多くの竜族を看取ってきていた。
「それが、この子だ」
「なっ、この外道。よくも我が子を!ぶっ殺してやる!」
「力自慢の竜族と呼ばれておるくせに、相も変わらず陰湿じゃの。耄碌やボケを疑われた事が、そんなにも腹に据えかねたのかえ?」
バルトロの攻撃を結界魔術で防ぎつつ、アビスは質問する。
竜族は頭に血が上りやすく、すぐに手が出る野蛮な種族なのだが、デニスは野蛮な竜族の中にあって、竜族らしからぬキレ方をする。
デニスは頭に登った血を使って、脳ミソの回転力を向上させ、冷静に知的にキレるのである。
凄く簡単にまとめると、自分の手を汚す事なく陰湿な嫌がらせをする、無茶苦茶嫌な奴だった。
「君も相変わらず無茶苦茶な強さだね。かつては本当に幼く、可愛らしい時期もあったのだけど。例えばお…」
「やめよやめよ。メモリータトゥーで妾をセカンドレイプすな」
「僕が耄碌しているのか、記憶を整理して確かめたいのだけど?」
「お主は耄碌しておらん。故に必要ない。妾の鑑定眼が大層優れておる事は、お主とて知っておろう?」
「そうだね。しかし僕としては折角逢ったのだから、昔話に花を咲かせたいな」
「…やめておこう。お主は陰湿じゃからな。いつメモリーレイプを挟んでくるかも分からん」
「それは残念。ところで、君はどうしてここに?もう二度と逢えないと思っていた」
「ちと面白い奴にあっての」
「君がそう言うという事は、さぞ面白いのだろうね」
「お主とは合わぬだろうがな。そやつが切っ掛けで数千年振りに外に出ようと思ったわけじゃ」
「なるほど。しかし君の側にはその面白い奴はいないし、ここに来た理由にもなっていないと思うが?」
「今は探し物をしている最中じゃからな。そうじゃデニスよ、お主は鉱石について詳しかったりするかえ?」
「鉱石?」
「妾は今、ウルツァイトという名の鉱石を探しておる。ここに来たのは、アホっぽい占い師に東に行けと言われたからで、愚直に東に進んだ結果じゃ。お主に会えた事は、嬉しく思っておるがの」
「君が占いとは、槍でも降らないか心配になる」
「望むなら妾が降らしてやるぞ?」
「冗談だよ。しかしそくだね、その占い師が本物かどうかは分からないけど、友人に会わせてくれたお礼もかねて、連れて行ってあげよう」
「あるのか?」
「君は忘れたのかい?僕達は鉱石を食べる種族だよ」
デニスはにかりと笑ってみせた。




