女王とアルケミスト③
アビスの魔術を持ってすれば、山を丸ごと吹き飛ばす事はできるし、アビスの器用さを持ってすれば、ウルツァイトだけが残るよう、魔術の力を調整する事もできる。
この魔術操作を使って、10の山を壊すか、或いは無人島の一つでも消し去ってしまえば、ウルツァイトを見つける事は恐らく簡単にできるだろう。
しかし、ウルツァイトを見付ける為に、アビスが破壊という行動を取る事はなかった。
あくまで穏便に、山も陸も傷付けない。
派手な行動を起こせば、木陰のように無駄にヘイトを集める事になりかねないし、それこそ神の逆鱗に触れてしまう可能性すらある。
世界のバグを使って世界のバグになろうとしているアビスにとって、それは望む結末ではなかった。
「とはいえ、想定外が過ぎるの。全然見つからんではないか」
適当に石やら岩やらを鑑定すれば見付かると思っていたのに、見付からないし見付かる気配もない。
陸や山に魔力を走らせ、硬度が高そうな部分を切り出した所で、取れるのはウルツァイト以下の硬度しかない鉱石ばかりだった。
この鉱石のお陰で、エフの鍛冶場はあらゆる鉱石を叩き直せる状態になったから、まったくの無駄骨という事はないのだが…。
「もしかして妾、いいように使われておるだけだったり…」
エフはアビスが届けた鉱石を使って、まるで何かに取り付かれたように、武器防具の錬成を開始していた。
それら呪いの道具はすべてエル専用なのだから、アビスが疑いたくなるのも無理のない話だった。
「帰ろ」
鉱石探しに飽きたアビスは、手に入れた鉱石と共に船に転移する。
作業中は話し掛けないで欲しいと言われたので、鉱石だけを適当に置いて船の外に出た。
外では変わらず木陰が釣りをしていた。
「お帰りなさい」
「お主は、本当に飽きぬのじゃな」
「うん。お陰で釣りをして緩やかに過ごすという事が、老後のプランに組み込まれましたよ」
「木陰は既に老い先短いのかえ?」
「えっ、知らない。魔王だし結構生きるんじゃないの?」
「そうであるよな。すまぬ。木陰は出会った頃から、老人より老人らしい生活をしておったからの。一瞬短い余生を楽しんでいるのかと思ったわ」
寝て、子供と遊んで寝る。
寝て、散歩して寝る。
寝て、寝る。
エルフレアでの木陰の生活は基本これで、今は寝て、釣りをして寝るである。
行動から推察するなら、木陰は既に立派な老後に突入していた。
「あれ、もしかして私、こんなに可愛いのに若さが足りてない?」
「妾より考えが老いておるのは、事実じゃな」
「でもほら、エルよりはマシだから」
「そういえばエルの姿を殆んど見ぬが、あやつは何をしておるのじゃ?」
「さぁ、船で寝てるんじゃないの?」
「いや、船にはおらぬぞ」
船は今、一日中エフが鉱石をカンカンして煩い。エルであればこの程度の騒音、苦にする事なく眠りそうだが、船の中にそもそもエルの姿はなかった。
「それは、初耳。どこに行ったんだろ」
「ふむ」
木陰はそう言うと辺りをキョロキョロと見渡し、木陰にならうよう、アビスも辺りをキョロキョロと見渡した。
近くに忘れ物がないか探すような軽い動作だったが、実際は万里眼を使った超広範囲の索敵だった。
「いた」
木陰とアビスが同時に声を出す。
エルはアルミリアより遥か南西にあるネリーシェの町にいた。
「なんで、こんな所にいるんだろ」
「エルの奴、いつの間にやら転移のスキルを覚えておる」
「ほんとだ」
厳密には転移のスキルが付与された呪具を装備しているのだが、エルの意思で呪具を外せないのであれば、エルが覚えていると言って問題ないだろう。
届けた鉱石を使ってカンカンしていた事は知っていたが、あの男はどれだけエルに呪いを掛けるつもりだろうか…。
「久々に会いに行くとするかの。木陰も行くかえ?」
「行かないよ」
「本当に動かぬ奴め」
「魔王はほら、座して動かないものだから」
「やれやれじゃの」
アビスは、座して動かない木陰を残して転移する。確かに歴代の魔王も大半は、魔王城の椅子に腰掛けた状態で勇者を迎えていた。
木陰が怠惰なのは、木陰自身の特性というよりは魔王自体の特性である可能性もあった。




