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お使いクエスト

海に釣糸を垂らし、私は今日も今日とて釣りをしている。


釣り上げた魚は全部気持ちが悪くてリリースしてるから、成果はなし。


私は世界で一番お寿司が好きなんだけど、今日も食べる事は出来なさそうだった。


見た目が気持ち悪くても、美味しい魚はいるだろって?


私はほら、保守派だから。

みんなが安全だよって、踏み踏みしてくれた道以外進まないのです。


就活戦士だった頃も、新進気鋭なIT企業には面接にも行かなかったもん。


将来性よりも、既に過去から今という将来を築き上げた実績に惹かれるのです。


私の将来性が無かったから、詰んじゃいましたけどね。


私もまさか自分がここまで、社内ニートに特性を持ってるなんて、思ってもみませんでしたからね。


だから私を採用した面接官の目は節穴じゃない。私でさえ分からなかった私の事を、一時間そこらで見抜ける優秀な面接官なんて、髪をどれだけ犠牲にしようと企業には生えてこないのだ。



「木陰見よこの杖を。格好良いであろ?」

「んー。そだね」


私を採用した面接官は、立派にお禿になられていたな。そんな事を思っていると一緒に釣りをしてくれなくなったアビスが、変な形の杖を自慢気に見せていた。


「であろ。どうじゃ?羨ましいであろ」

「あー。そだね」


格好良くも羨ましくもなかったけど、取り敢えず頷いておいた。適度に頷きながら「素敵、可愛い、いいなー」とでも言っておけば、女子との会話はすべて丸く収まる。


わざわざ本音を言う必要なんてないのだ。


アビスみたいに可愛くて、スペックもヤバい女子は、裏で叩かれまくる事になるんだけど、幸いここにはSNSはないし、仮にあったとしても、私は友達を裏でこき下ろすタイプではなかった。


「ならば木陰も創って貰うがよい」

「えっ?」


すごく、いらないです。


「妾は少し考えたのじゃ。相手が道具ありきで強くなるなら、こちらも道具ありきで強くなってしまえば良いのではないかとな。さすれば種族値の差で、木陰は永遠に人族に対して優位を取る事ができる」

「それは、そうかもだけど…」



人族と魔族とでは種族値の差が大きく、同じ個体でも魔族の方がより強い傾向がある。


魔王と勇者にも種族値は適応されており、同レベルであっても100倍近いステータス差が存在していた。


魔王が早熟型に対して勇者は晩成型だから、最後までこの差があり続ける事はないものの、最低でも10倍以上のステータス差は、種族の壁としてあり続ける事になる。


そしてその差を埋めるのが、勇者の武具一式だった。


つまり、勇者の武具一式と同性能の武具を魔王が手に入れたなら、10倍差という圧倒的な隔たりが、魔王と勇者との間にあり続ける事となる。


約束された安息。魔王の安泰。


でも、そんな都合のいい武具一式を簡単に創る事なんて出来るのだろうか?


「簡単には無理であろうが、この杖と同じで創れる可能性はある。狂ったアルケミストがここにはおるからの」

「その杖、ヤバいね」


今更だけど、私はアビスが持つダサい杖を鑑定してみた。


アビスの杖が持つ効能は、所持者の魔力を無制限に吸収し、吸収した魔力を使用した魔術に上乗せするというものだった。


杖の使い手がそれなりの魔術師であっても、効果は得られないどころか、魔術の発動すら困難になるピーキーさを杖は持っているのだが、アビスが持つと話は大きく変わる。


魔力を無制限に吸収するという効果が、文字通り桁違いの魔力を持つアビスと、相性が良過ぎるのである。


アビスは桁違いの魔力を持ち、桁違いの魔力を常に自動回復もさせてもいる。


アビスの持つ無限の魔力を無限に吸収し続ける杖。ヤバいなんてものじゃない。


杖単体で魔力100万を超えてるし、まだまだ上昇もしている。鑑定の故障を疑いたくなっちまうよこんなの。


てか、所有者の魔力を無制限に吸収するって、まじで無制限なの?無制限(有限)だよね?いつかは壊れるよね?


「格好良いであろ?」

「えー。うん」


格好良くはない。

そういえば、エルの鎧も魔王のハイパーパワーで潰し尽くしても翌日には元に戻ったし、エフ製作の武具は耐久力がイッちゃってるのかな。


勇者の武具一式もおかしな耐久してたけど、まさかエフが創ってたりして…。


「エフよ。やはり木陰も創って欲しいそうじゃぞ」

『…』

「その辺りは木陰と話し合って決めればよい」

『…』

「知らん。じゃが…」


念話を使ってエフと会話をしているのだろう。アビスがエフと会話を始める。


創って欲しいなんて言った覚えはないけど、話は勝手に進んでいるようだった。


「鍛冶仕事はあまり得意ではないのですがな…」

「これほどのモノを創れるくせにかえ?」

「その杖、少々歪んでおります」


「別に歪んではおらんぞ」

「エルの鎧も足の造形が今一でしたな」


転移によって強制的に連れてこられたエフは「はぁ」と大きくため息を付く。私やアビスにはさっぱり分からないけど、エフには職人ならではの拘りがあるようだった。


こういう気質もまさに職人向きって感じがするけど、納得のいく作品を創れていないからこそ、得意ではないと考えるエフの思考も分からなくはなかった。


…嘘、ごめん。まったく分からない。


私なら自分スゲーとか思っちゃうもん。就活無双してた時もちゃんと思ってたし、お陰様で分不相応な会社に入社して、五分で詰みましたもん。



「ならば次の作品こそ、満足のゆく仕上がりにしてみせれ良い」

「それは、確かに」

「言いくるめられるのはや」


「では木陰殿。オリハルコンを持ってきてくだされ。さすれば、木陰殿にぴったりな武具一式を創ってみせましょうぞ」

「オリハルコン?」


何それ?


「神が創ったとされる、伝説の鉱石の名前じゃ。ふふっ。世界樹の枝の次はオリハルコンか。鍛冶仕事を苦手とほざくヤツが、求める品ではないの。存分に技術を振るう気満々ではないか」

「無茶な要求が、通ってしまいますからな」

「普通であれば一生を費やした所で手に入る品ではないしの。通れば儲けもの。通らなければ創らないという魂胆か」

「そんなところです」


「ふん。さっさと準備しておくがよい。木陰であればすぐに見付けてくるであろうからな」

「えっ?探しに行けって事?」


私に?そんな謎の鉱石を?


「容易い事じゃろ。木陰には鑑定も転移もある。何より、山から鉱石を削り取るパワーだってある」

「でも、それをするガッツが備わってない」

怠惰ですしおすし。

拾ってきてよアビスちゃん。


「物事を遂行するのに、やる気やガッツは必要ないぞ。やる気やガッツというのは、行動を起こして初めて出てくるものであるからな。備えておく必要などないのじゃ」

「つまり?」

「ぶーたれてないで、さっさと動けという事じゃ」


アビスはそういうと私の背中を叩いた。

ぺちんと一発。


その一撃で体が動いたからか、びくびくっと竿が揺れ魚が掛かった。


例によって気持ち悪かったので、そのままリリースしましたとさ。


おしまい。







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