魔王討伐部隊出航
おはようございます。
魔王で勇者(笑)の木陰ちゃんです。
今日はとても良い天気です。
雲一つありません。温度もぽかぽか。
まさに散歩日和ってやつですね。
散歩日和と言っても、勿論散歩なんてしません。昨日無茶苦茶歩きましたもん。歩数で言ったら10万歩くらい歩いたんじゃないかな。
アイルの家、アホ程遠かったもん。
アホ程遠かったお陰で、魔雷撃を撃ってもワルドーの損害は軽微で済んだんだけどね。
端っこの方が衝撃でぶっ飛んでるって?
誤差誤差。
町の差分ってやつ。
こんなの、朝日と夕日の違い程度ですよ。
町から更に人が逃げ出した気もするけど、これも誤差です。
気にしたら負け。
宿屋のおやじも居なくなってたけど、タダで泊まれたからラッキーって事で、次に進みましょう。
人は過去ではなく、未来を見て生きねばならんのです。
これ、スティーブ・ジョブズも言ってた。
「木陰、もうすぐ港に船が到着するべ」
「はーい」
めんどくさー。
なんで船は逃げ出してないの?
「いよいよ魔王城というわけか。楽しみじゃな」
「魔王、赦さない」
三者三様の思いを乗せて、私達は港へと向かう。
前回訪れた時と同様、港は船が泊まれないよう封鎖されてはいたが、兵士は一人もいなかった。
やる気がなかったとはいえ、昨日までいた兵士がいなくなった理由が、私にはサッパリこれっぽっちも分からなかった。
集団食中毒にでもかかっちゃったのかな。
「魔王を恐れて逃げおったな」
アビスさん答えを言わない。
「アレを見て、恐れるなと言う方が無理な話であるがな。しかも目の前には魔王城もある。これで奮い立てるヤツの方がどうかしておるわ」
「…」
アビスは魔雷撃で抉られた森や山を見て笑い、奮い立っているであろうアイルは、ただ黙ってその場所を睨んでいた。
犯人がいたら耐えられない、気まずい空気である。
気まずいので、私は遠くの海に視線を落とした。
海からは、一隻の船が近付いてくる所だった。
なんというか、無駄に派手でデカい船だった。
勇者一行が乗る船と言われれば、合ってそうではあるけど、4人を乗せるだけとなれば、途端に不要の大きさに感じる。
てかあの船、どうやってこの港に着港するんだろ?
途中で沈んでもらっても、私は一向に構わんのだけどね。
「あの船だべ。おーい。おーい」
エルが船に向かって手を振る。
「港としてていを成してない以上、このままでは着港できぬな」
「残念だけど帰って貰うしかないね。魔王城はまた後日って事で」
「木陰、隣を見てみろ」
「ん?」
アビスに言われ隣を見てみた。
「…」
隣には無言で圧を放ち続けるアイルの姿があった。
怖っ。先送りできない雰囲気じゃん。
「アビスよろしく。丁重に迎えてあげて」
アビスならなんかこう、うまく出来るでしょって事で、私はアビスに丸投げする。
「仕方ない。手荒く壊すとするかの」
アビスは閉鎖され、船が近づく事もできない港に向かって魔法を行使する。
手荒くとか言った癖に、アビスは糸を紡ぐように丁寧にバリケードやトラップを分解し、港を修復していった。
多くの魔法を複合して使ってるんだろうけど、器用過ぎて引く。
器用さの数値バグってるし、アビスにとっては本当に手荒く壊しただけの可能性があるのが、ますます引く。
「アビスキモい」
「な、なんじゃいきなり。妾、木陰の気分を害すること、何かしたかの?」
「ううん。これは褒め言葉」
私はアビスの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「撫でるなら、もっと丁寧に撫でろ」
「自分、アビスと違って不器用なんで」
これが丁寧さの限界なのだ。
嘘だけど。
アビスが修復し、新たに作成した港に船が着港した。
万里眼によって搭乗員は把握していたので、船の中から降りてきた人物に驚きはない。
「おっとう、久し振りだべ」
「元気にしておったかエルよ」
ツルツルのハゲアタマと顔の火傷が特徴の男は、エルの父、エフ・ロロだった。まったくもって会わない内に、エフはロスト王国軍団長まで昇進していた。
軍団長、会社で言ったら専務クラスかな?
ロストは世界で一番の国って事を考えると、トヨタや任天堂いや、グーグルやアマゾンクラスの専務。
役員報酬、私、気になります!
「超絶に元気だべ。おっとうも元気にしてたべか?」
「今、元気になった」
数年振りの親子の再会に、エルとエフは抱き合い再会を喜び合う。
エルの呪いの鎧とエフの呪いの鎧とがぶつかる音は、鐘の音のように荘厳で美しく響いた。
呪いの鎧も喜んでいるようだ。
うん。本当に喜んでるのが怖い。
大企業で順調に出世してるとはいえ、あんたは独立した方がいいと思う。イーロンとかザッカーバーグみたいに、会社を立ち上げた方がいいと思う。
そして私に株を寄こせ。
「ほう…中々面白いスキルを持っておるな」
「ちょっとキモいけどね」
エフを鑑定したであろうアビスの言葉に、私は素直な感想を口にした。
ちょっとというか、だいぶキモい。
「確かに言えておる」
「木陰殿もお久し振りです。相変わらずお美し、いやいや、相変わらず醜いお姿でございますな。ガッハハ」
「貴方も、お変わりなく」
娘を手前に簡単に口を滑らせそうになるエフを見て、そろそろエルの呪いを解いてあげればいいのに。とは思うものの、私は適当に挨拶を交わす。
歪であったとしても、良好な親子関係を保てている以上、一石を投じてみるような革新派に、私はなれなかった。
私はバリバリに保守派なのである。
「ところで、エルに悪い虫はついておりませんやね?」
「多分」
私の見ている限りでは。
「そうですか。まぁ、鎧がある限り要らぬ心配ではありますが、私も人の子。心配なのです」
「そっ」
私はエルを洗脳したあげく、あんな呪いの装備を渡しているエフの脳みそこそ心配だったが、ここでも私が何かを言う事はなかった。
私は保守派でことなかれ主義なのである。




