英雄の消失②
光を見た。
漆黒に塗り潰された闇の光。
大地が激しく振動し体がよろめく。
魔族や魔物すら足元にも及ばない圧倒的な悪意。
底無しの闇。
「アイカ…アイト…アイル…」
声が掠れる。
ドラゴンの目に映るのは、家族の優しい笑顔ではなく、底無しの絶望だけだった。
絶望の光が、ただひたすらに辺りを呑み込んでいく。
「…っおぇっ…」
生命体である以上スキルを持たなくても分かる絶対的な死の香りに、ドラゴンは嘔吐した。
死の現場というものに、ドラゴンは今まで幾度となく立ち会っては来た。
しかしそれは、ドラゴンにとって赤の他人であり、ドラゴンが標的と相対する前の話だった。
標的と相対した後、誰かが犠牲になった経験をドラゴンはしていない。
その一撃によって確実に屠ってきたからだ。
ドラゴンが敵に情けを掛ける事があるならそれは、敵がまったく悪くない。例えるなら、強者を求めドラゴン自らが、敵の陣地に赴いた場合に限られていた。
人族の領域で悪を成した敵と相対した場合、ドラゴンはたった一度を除き、逃した事がない。
たった一度。
その一度こそ、今この絶望的光景を広げている魔王に他ならなかった。
ドラゴンは魔王を殺し損ね、その魔王は今、ドラゴンが考え得る限り最大の犠牲を作り出した。
魔王の高笑いが聞こえてくる。
ドラゴンは嘔吐し、血の涙を流した。




