魔王とスリの少女①
ワルドーは当たり前のように活気がない。
旅商人や旅芸人、冒険者といった者達は既にワルドーから引き上げているし、国王が逃げ出した事で、貴族階級の者達もほとんどが逃げ出してしまっている。
今やワルドーに残っているのは、艦隊の乗組員として出撃した者達と、ここを終のすみかとして半ば諦めている者達だけだった。
人の不幸で食べている、火事場泥棒だけはやたらと活気付いていそうではあるけど。
何かにつけて鑑定する事が癖付いてしまった私は、泥棒が活気づいている姿を目の当たりにしていた。
泥棒と分かっている以上、勇者としては見逃せないので、手足に拘束を掛けてはおく。
誰かに見付かったら、良く回りそうな口で誤魔化せばいいし、誰にも見付からないなら、叫べばいい。
ただ、拘束した足と腕には、この国では罪人の印となる跡はしっかりと付けておいた。
他のステータスと比べると不器用でも、一般人と比べれば、私ってば実は器用な部類なのだ。
ヤバい魔法を精密に操作する事はまだ出来ないけど、拘束さんに小細工を労する事は簡単簡単。
印を刻んだ際に腕が吹っ飛んだ泥棒もいたって?
まぁ、うん。しゃーない。
「あっ」
「えっ…!」
たまのミスは見ないフリをしつつ、泥棒を拘束しながら町を歩いていると、一人の少女とぶつかりそうになった。
人にぶつかるなんてドジを踏む事なく華麗に躱すと、少女はとても驚いたように私を見て、またぶつかろうとしてきた。
なんだ、このガキ。
てことで回避をしつう鑑定をする。
アイル・リリ
村娘
レベル1
HP100
MP100
TP100
力100
魔力100
素早さ100
防御力100
器用さ100
EXスキル
天の加護
光の加護
不幸
剣の才能
魔法の才能
十一人兄弟の末っ子。
家を飛び出し、現在はスリで生計を立てている。
強い加護を受けてるのに不幸持ちとか、何この神様のおもちゃみたいな感じ。しかもレベル1なのに、ステータスオール100とか地味に強い。
剣と魔法の才能を持っているのも破格である。あくまで人族にしてはだけど。
てか、スリで生計を立ててるから、私に二度もぶつかろうとしてきたんだ。
なんだか闇を感じるけど、まさか私が親殺ししちゃってるとかないよね?
怖いから、これ以上鑑定はしないでおこう。
特に理由なんてないけど、ちょっと位ならお金、あげちゃおうかな。
私は、スリの少女アイルを見た。アイルもじっと私を見つめ返してきた。
「何よオバサン」
そして、とてつもなく失礼な事を口にした。
私はまだ二十…違う違う。ん?あれ?私って今何歳なんだろう?
前世は22歳の若者だったけど、こっちでは10歳にもなってない気がする。
怠惰が順調にレベルアップするくらい動いてなかったとはいえ、多分そんな感じ。
つまり、お前より私は若い。
肌だってピチピチ。
アイルの年齢は11歳だった。
「ガキは家に帰って寝てろ。勿論お金もあげないから」
私はじゃらじゃらと、お金の入った袋を鳴らしてみせた。私の方が若いし、オバサンなどでは断じてないが、何かムカついたので言葉と態度で応酬しておいた。大人げない?ノンノン私は10歳児なのだ。
「言われなくてもそうするよ。オバサン」
クソガキが再びぶつかろうとしてきたので、私はそれを躱す。
お前に金はやらん。
絶対にだ。
「なんで避けんのよ!」
「スリだから」
「スリじゃないし、ただの可愛い少女だし」
「ただの可愛い少女は人にぶつからないし、暴言も吐きませんから」
危ないし、危険だもの。
駅とかでもぶつかってくるのは、変なおじさんだけだった。
あれ、ほんとやめて欲しい。私、それで多分死にましたしね。
「財布がねぇと思ったら、やっぱ犯人はてめぇか、クソガキ」
私が再びアイルの突進を躱した所で、私達の話し声が聞こえていたのか、一人の男が怒髪天を絵に描いたような顔で現れた。
加害者みたいな顔だが、クソガキの被害者らしい。警察に言っても信じてもらえなさそー。
「げげげっ…」
「オレ様から財布を奪うとは、いい度胸してんじゃあねぇか」
「このオバサンに命令された。この人が胴元。アイルは悪くない」
「と、言ってますが?綺麗なお姉さん」
「ただの嘘」
綺麗なお姉さんとは、中々見る目がある。と思いながら私は答えた。
でもこの男、鑑定さん曰くスリや泥棒より質が悪いんだよな。アイルの被害者ではあるけど、バリバリの加害者側です。
お巡りさんこっちです。
まっ、お巡りさんが機能してないから、こんなヤツが跋扈してるんだけどね。
「だそうだクソガキ。ただじゃ済まさねえぞ」
「うるせえバーカ」
アイルは逃げ出した。
「あっ、待てクソガキ」
「待つわけないじゃん、ハーゲ」
アイルはこちらに向かってあかんべーをする。そして、ハーゲの仲間とおぼしき人物にぶつかった。
なるほど、不幸である。
「ハイド、こんなガキにナメられてんじゃねーよ」
「うるせーよロイド」
「離せバカ。痴漢」
「見た目は悪くねぇな。一番の変態に売ってやるよ。きっといい具合に調教してくれる」
「その前にロイド。そのガキ一発殴らせろ」
「顔はやめろよ」
「分かってる。ボディに一発だ」
「ふん」
ロイドは鼻で笑うと、首根っこを捕まえているアイルをハイドに向かって投げ捨てた。
「きゃっ!」
「…」
自業自得とはいえ、さすがに子供が大人に殴られる姿を鑑賞する趣味はない私は、飛んできたアイルをハイドより先にキャッチした。
「おい、なにしやがる」
「私はほら、この子の胴元だから」
「お姉さん、下手な正義感見せると、痛い目みちゃうよ?」
「私もどうせ、見逃す気ないでしょ?」
鑑定さんは丸っとお見通し。
こいつは私で楽しむ気満々なのだ。
「なんだよ。分かってんじゃねえかよ!」
ハイドが襲いかかってくる。
子供の目の前で、殺人を犯すわけにもいかないので、足を拘束で絡めとり、腕と口を拘束する。
こいつは、ちょっと痛い目にあった方がいいタイプなので、足と腕は曲がらない方向に折り畳んでおいた。
「ハイド!」
ついでにロイドもハイドと同じような状態にしておく。
「すごっ。あんた何者なの?」
「ただの美少女」
魔王様だグハハとは、勿論言わない。
「アイルには、あんな事しないよね?」
「悪人はお仕置きしないと」
「ごめんなさい。なんでもするから許して」
「ん?今なんでもって?」
こいつは、ぐへへ案件ですよ。
「嘘。なんでもはしない」
「そう。残念」
私はアイルを地面に下ろした。
私は魔王だけど、性別は多分女なので、少女をぐへへする事には、あまり興味はなかった。
「行っていいよ。バイバイ」
私はアイルに手を振った。
火事場泥棒は軒並み拘束してきたけど、私は子供には優しいのだ。
一度二度の悪さくらいは見逃してやろう。




