魔王単独になる
魔王城をぶっ壊す。
という事で、木陰ちゃんです。
私クラスになると移動に手段はいらないし、アビスクラスになれば、お前から移動して来いってもんだけど、転移で魔王城に行く事は勿論、魔王城を移動させる事もしません。
勇者たるもの移動は徒歩を使うものだし、海を渡るのなら当然船を使うものだからだ。
船、無いんですけどね。
アルミリアが魔族に奪われた事で、ワルドー港に停泊していた船は他国に逃げ、港はkeepoutと言わんばかりに閉鎖されていた。
ただの閉鎖というよりは、魔族の進軍に備えての閉鎖なのだが、港を守る兵士達の士気は低い。
国王がいの一番に逃げたのだから、高い士気を保てという方が無理な話だった。
国民を残して逃げるとは、王の風上にもおけぬ。ありったけの不幸をプレゼントしてやらねばならぬな。とは、アビス談である。
私なんて、国民百万人を大虐殺したあげく、新しく出来た城まで壊そうとしてるけど、私にありったけの不幸をプレゼントしたりしないよね?
「なんじゃ木陰。妾の顔をじっと見て」
「船がないから、どうしようかなと思って」
アビスを疑っているとはとても言えないので、私は適当をほざいておいた。気になるといえば、気になる事でもあるけどね。
転移なし船なしとなれば、魔王城には行けませんもの。
「海上に停泊している軍艦を奪えばよい」
「私、一応勇者なんですけど?」
港は閉鎖され、漁船や客船は勿論、手漕きのボートすら一隻も残されていなかったが、ワルドーが誇る艦船は、何隻も海の上に浮かんではいた。
この艦船は、魔族が海越えを果たす際の防波堤の役割を果たすと共に、まず間違いなく戦死する事となるのだが、船に乗っているのは総じて。自ら志願した者ばかりだった。
王が失墜させた国への信頼を、前線で体を張る事でワルドー軍は取り戻そうとしていた。
実際、この艦船が海にある事で、逃げずに国に残った国民もいたし、大混乱は起きても人族同士の醜い争いが起こる事はなかった。
トップは終わっているが、ワルドーは国として優秀だった。
流石は長きに渡ってアルミリアの前線を支え続けた国である。
で、そんな立派に兵士をしている者から船を一隻奪えば良いとアビスさんは仰ってるわけだけど、勇者はそんな事しない。
勇者行為というのは、箪笥とか壺だから許されるのであって、船一隻はちょっとやり過ぎ。人様の箪笥を漁る行為の方が、矮小で浅ましい気もしなくもないけど、そこはほら、ね。
「言葉が悪かったの。一隻拝借すればよい」
「それ、一緒だから」
借りてくぜは貰ってくぜと同義なの。
私から漫画を借りパクしたかつての友人の顔が、一瞬脳裏を過った。
私あれから、デジタル書籍派になったんだよね。
「では、どうするのじゃ?海を凍らせてゆっくり歩いていくかえ?」
「それもなし」
だって、海を凍らせて歩いて登場とか、それ絶対勇者の所業じゃないじゃん。
なんか、悪人がしそうな手口じゃん。
くれぐれもモーセさんの悪口じゃないからね。
「我が儘じゃのう」
「アビスは楽な道を選びすぎ。魔王城は苦労してたどり着くものなんだから」
「そういうものかえ?」
「そういうものなの」
「木陰、アビス、船をこっちに寄越すって言ってるべ」
「誰が?」
「国王だべ」
エルはぐっと親指を突き立てた。
こいつ、そう言えばスパイだったわ。
念話で情報流してるんだったわ。
すっかり忘れてたわ。
仕事してないように見えて、してるんだね。
偉い。
「いつ頃到着するのじゃ?」
「明日らしいべ」
「早い」
エルはAmazonのプライム会員なのかな。
「では、それまでは町をぶらつくかのう。飢えておる子供に、餌付けしてやらねばならぬしな」
「おらも手伝うべ」
「木陰はどうするのじゃ?」
「私はやめとく」
「そうか。では夕刻にあそこの宿でおちあうとしよう」
「うん」
私が頷くと、アビスはエルと共に私の下から去っていった。
エルフの子供と触れ合って分かった事だけど、私は子供が好きらしい。でもだからこそ、人族の子供とは関わり合いたくはなかった。
私は魔王で、魔王は人族にとって最大の敵だから。なにより、アルミリアでの大虐殺が原因で子供達が飢えているのだとしたら、結構しんどい。
てか、関わっていないと考える方が、あまりに都合が良過ぎる。
あそこにいたのは大人達で、飢えているのは子供達なのだから。




