アビスの未知
アビスはダイヤモンドが嵌め込まれた首飾りを手に取り、じっと眺めていた。
これがダイヤモンドと呼ばれる宝石である事は、鑑定したから知っている。含まれている成分や成り立ちに至るまで、きちんと理解もしている。
しかし、アビスはこのダイヤモンドという存在をさっき知った。
これは、あり得ないと断言しても、なんら問題のない事だった。
エルフは外界との交流を完全に遮断している為、外からの情報は入ってこないし、外に情報が流れないようにもしている。
なので、エルフが外の物や外の常識を知らないというのは当然ともいえる。しかしアビスはエルフであっても並のエルフではない。
エルフとして鎖国はしていても、アビスは外の情報を可能な限り吸い上げていたし、他種族が書いた書物も読み漁ってきた。
アビスが知らないという事は、それすなわち誰も知らないという事であり、新発見を意味していた。
しかし。
「妾はコレを、今は当たり前のように知っている。じゃが、妾はこれを知らなかった」
アビスが知らない事に、問題はないのかもしれない。しかし、エルや商人が当然のように知っていた事は問題だった。
エルのような阿呆や、国が荒れている時に盗品を使って商売をするような低俗民が知っていた事を、アビスが知らないなんて、あり得ないからだ。
何より、心当たりもある。
森下木陰。歴代の魔王とは異質と異能を持った、神と繋がりを持つ魔王。
木陰には、世界を改変しているきらいがあった。
木陰というよりは、その背後にいる神の方かもしれないが…。
「この年輪になって未知とは、長生きはしておくものじゃな」
アビスは「くくく」と笑う。
断りもなく木陰に付いてきたのは、やはり正解だったらしい。




