表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/119

ドラゴン戦記⑥

ゾラは混乱するワルドーの国にいた。

綺麗で目立つ容姿は健在で、遠くからでも一目でそれと分かった。


「こんにちは」


ドラゴンはゾラに声を掛ける。

ゾラはドラゴンが誰か分かっていないかのようにこちらを見て、首を傾けた。



身なりを整えてこなかったドラゴンは、ここまで誰にも声を掛けられなかった事に思い至り、自己紹介をする。


こんな浮浪者のような姿をしていれば、分からないのも無理はない。


身なり位は整えておくべきだったと少し後悔した。


「…」


自己紹介後、ゾラは何も言う事なくこちらを見てくる。あまりに大怪我を負っているため、気になるが聞けないといった所だろうか。


「この傷は…」


魔王にやられた。たった一言で説明を終わらせる事は可能だったが、ドラゴンはゾラに敗北してから、今までの事を話し始めた。


話す事によって頭と心が整理され、自身のやるべき事が少しずつだが、見え始めてくる。


そして思う。

この刃は今、この人にどのまで届くのだろか?と。


勝てないとは思う。

しかし、まったく届かないとも思わない。


命を賭けて活路を見い出したなら、或いは…。


今の状態で戦ったなら、本当に死ぬかもしれない。しかしそれでも、ドラゴンはやってみたかった。


気が付けばドラゴンは、懇願とばかりに頭を下ろしていた。


「うん」


懇願にゾラは頷いてくれた。

ただ強いだけでなく、心も広い。


ドラゴンはゾラに、本物の英雄を見た気がした。






闘技場の約束の時間。

ゾラは現れた。


挨拶もそこそこに槍を構え、臨戦態勢に入る。

持っているのは槍一本。他は何も装備していない。


ゾラの攻撃が一発でも当たれば致命傷は避けられないだろう。


「行きます」


だが、問題はない。一撃が当たる前に一撃を当てる。倒されるよりも前に倒してしまえばいいだけだ。


ドラゴンは真っ直ぐ、ゾラに向かって突っ込んだ。


ゾラの鋭い手刀が飛んでくる。


それは、ドラゴンの目では捉える事の出来ない速度であったが、ドラゴンの体は致命傷となる攻撃を勝手に回避していた。


目で見て、考えて、回避する。

無駄しかない。


今まで培ってきた経験は、細胞の隅々に限界まで蓄えられている。


限界を超えたいのなら、細胞に従えばいい。


ゾラの攻撃を躱したドラゴンは、最高の技を持って、ゾラの胸元に槍を突き出した。


手応えはあった。

それは、ダメージが入ったという手応え。


このまま全力で突き上げたなら…。

細胞が沸き立ち喝采する。

俺達の勝利だと、高鳴り爆発する。


キィイイインと甲高い音が響き渡った。

この音が武器のあげた悲鳴と気付くには、かなりの時間を必要とした。


細胞の高鳴りが急速に萎んでいく。


「お見事。いい一撃だった」


ゾラが言う。

今のは、伝説の龍すら確実に屠り去る一撃だった。


オリハルコンの鎧でさえ貫いたと、確信もしている。


しかし、ドラゴンの目に映るのは、傷一つない綺麗な肌をしたゾラと、砂糖細工のようにポロポロと崩れ落ちていく槍だった。


「貴方は一体…」


何者なのだ?

神か悪魔か。

少なくとも人ではないとドラゴンは確信した。


しかし、まさかそんな事、あるのだろうか。

分からない。


「…っ」


ドラゴンが錯乱していると、口を封じられ、足を絡め取られた。


自由を奪われたドラゴンは地面を舐め、背中にはずしりとゾラが腰を降ろした。


「私が魔王なら、君はここで死んでいる」


ゾラが言う。


ゾラの言葉に、ドラゴンはまたやり直しだと思う。命を使う覚悟で戦った。


細胞は勝利に向かって確実に作用もした。


しかし結果は…。


ドラゴンは誰もを殺し得る一撃で、誰も殺せなかった場合を想定していなかった。


命は賭けた。だが、そんなのは誰でも出来る無謀な特攻と変わらない。


命を賭けてなお、どんな状態からでも生還する。


勇者の武具を持っていた時と同様、今のドラゴンもまた、命を軽んじていた。


死なないが何も始めない以上に、死んだら何もかもが終わる。


攻撃が不発になった瞬間、ドラゴンは全力で逃げるべきだった。


「じゃあね」


背中が軽くなり、ゾラが姿を消す。

拘束が解かれ、コロシアムで一人になったドラゴンは、静かに涙を流した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ