ドラゴン戦記⑤
暖かな日差しが降り注いでいた。
なぜ、こんな所で眠っているのだろう?
と、ドラゴンは考えた。
体に翼が生え、空高く昇ると同時に凍っていった所までは覚えている。
そこからの記憶はない。
何か強い衝撃を受けた気もしなくもないが、空から落下した影響だろうか?
分からない。
分かるのは、全身がとんでもなく傷付いているという事だった。
ただ、まったく動かせないという事はない。
少し動かすだけで、気が飛びそうになる激痛が走るものの、いつものように野盗の助けを待つ必要は無さそうだった。
『サービスしておきました』
何か声が聞こえた気がしたが、ドラゴンが声の主を意識する前に、意識の中から消えていた。
そして、声が意識から消えたと同時に、一撃の衝撃が肉体と脳内にフラッシュバックした。
全身が総毛立ち、震え始める。
それは、生物なら誰もが持つ根幹の恐怖だった。
「これは、駄目だ。こんなの正当じゃない。正常じゃない…」
ドラゴンは全身を震わせながら呟き、勇者の武具一式を体から外した。
あの一撃は助からない一撃だった。
今生きているのは、勇者の武具があったからだ。
無ければ確実に死んでいた。
死体も魂ですら、跡形も残っていなかった。
今ここに、ドラゴンという存在があるのは、勇者の武具による効果であり、それ以上でもそれ以下でもない。
ドラゴンという存在を護ったのは、今まで培ってきた経験でも、鍛え上げた肉体でもない。
与えられ、身に付けただけの鎧の効果だ。
ドラゴンは剣を手に取り、自身の足に振り下ろした。
刃先はドラゴンの足に命中したが、ドラゴンの皮膚すら傷付ける事はなかった。
ドラゴンが振るう勇者の剣は、なんの攻撃力も持たない。
それはドラゴンが本物の勇者として認められていないからであり、度重なる実験の結果、認めるかない事実だった。
ロスト王に勇者として担がれたが、ドラゴンは勇者ではないのである。
そんな紛い物の勇者が、勇者の武具を装備し、魔王との戦いに挑んで生き残る。
それは、あまりに正当性を欠いていた。
ドラゴンはいつだって不条理に命を奪ってきた。
人族に迷惑を掛けたという理由だけで、一方的に魔物を蹂躙した事もある。
「強くならないわけだ」
ゾラとの戦いで、ドラゴンは限界の更に先を見た。そしてその先に足を踏み入れた事を確信した。
確かに少しは強くなったように思う。
しかし、未だフールーの足元にも及んでおらず、魔王には文字通り手も足も出なかった。
ドラゴンは人族最強となり、英雄となった経緯を思い出す。
いつだって死が身近にあった。
親友のような顔をして、隣を歩いていた。
恐ろしかった。
この恐怖にうち勝つ度にドラゴンは強くなった。
フールーとの戦闘も初めはそうだった。
しかし、いつしか死は身近な親友ではなく、遠くにいる、顔も忘れそうな親戚になっていた。
死なないから、確かに無謀な事は出来た。
技の突破口も見えた。
だがそれは、正当ではない。
たった一度。刹那の判断で全てが終わるからこそ、脳と体はスパークを起こし、自身ですら予期していなかった選択が生まれる。
今度はこうしようなんて生温い方法で、届くわけがない。
次はない。そんな戦闘を100度乗り越えた先に魔王はいる。生き残る事が決定している100度の戦闘など、なんの意味もないのである。
「…こいつは、本来持つべきだった人に返そう」
幸いと言っていいのか、ゾラは今、地上にいた。




