魔王と英雄②
宿を出たら、全身傷だらけの男が立っていた。
いくら人の顔を覚えない私でも、今回ばかりはさすがに分かる。
分かるけど、宿の外にいる理由は分からないのでスルーする事にした。
バッチリ目は合ったけど、私の人見知りスキルがそんな程度で揺らぐ事はないのだ。
「待ってください、モロゾフ様」
「…」
私はモロゾフではないので、無視する。
「話を…」
「木陰に用があるなら、おらを通すべさ」
「あなたは確かロスト国の…」
「エルだべさ」
私がドラゴンを無視すると、エルが護衛として初めて役に立つムーブをした。護られた経験が無さすぎて忘れていたけど、エルって私の護衛として同伴してるんだよね。
正体はただのスパイだけど。
「エル様。モロゾフ様と会話をさせていただけませんか?」
「OKだべ。でも、木陰は木陰で、モロゾフじゃねーべ。大会では偽名を名乗っていたんだべ。だから無視されるんだべさ」
OKじゃないし、無視した理由も違う。
エルは護衛として、やっぱり役に立たないようだった。
「失礼しました」
「分かればいいんだべ」
しかもなんかちょっと偉そう。
「人族とは、面倒な種族じゃのぅ」
「ね」
エルフ女王の言葉に魔王木陰ちゃんは頷いた。
「木陰。ドラゴンが木陰と話したいそうだべ」
「なんの、用?」
エルが中を取り次いでしまったので、無視する事もできなくなった私は、いきなり本題に入った。
要件を言って、さっさと消えて欲しい。
訓練の申請は勿論断る。
「モロ、いえ、木陰様にこちらを渡そうと思って」
ドラゴンは腰に巻かれた布袋の中から何かを取り出し、私に見せてきた。
それは手の平サイズのフィギュアのようにも見えたが、いつもの如く鑑定してみると、勇者の武具一色である事が分かった。
こんな風に持ち運び可能な、便利アイテムだったんた。
「本来であればこれは、大会優勝者である貴女が受け取るはずの物。どうか受け取ってください」
「…」
いらない。
貴重な物である事は分かるし、勇者から没収すれば、ゾンビ戦法から逃れる事もできる。
少なくとも勇者という不安要素の一角を潰す事ができる。冷静に考えれば手に入れて損はなく、大得といった状況なのだが、私はこれがいらなかった。
本能が拒絶しているのである。
「木陰、貰える物は貰っておくべ」
「エル。代わりに受け取って」
「いいべか。ありがとうべ」
「いや、えっと」
貰う気マンマンのエルに、ドラゴンは困惑していた。この女は遠慮を知らないのである。
「おらから木陰に渡せば、何の問題もねぇべ」
「それは、そうですが…」
「ほれほれ」
「では、よろしくお願いしますエル様」
「ありがたく貰っておくべ」
エルは勇者の武具一式を受け取った。
「用は、終わり?」
「えっと…はい。ありがとうございます。魔王の討伐をどうか…」
他にも何かを言いたそうなドラゴンだったが、私には不可能な願いを言うに留まり頭を下げた。
てか、こいつ、勇者に選ばれたのに魔王の討伐諦めてますやん。
心バキバキに折れてますやん。
あんな攻撃受けたら仕方ないけどね。死んでないってだけで、ごらんの有り様だし。
ドラゴンの体は鑑定を通して見ずともボロボロで、正直動けているのが不思議なくらいだった。
「魔王なんて、おら達がちょちょいとやっつけるべさ」
「くくっ。そうじゃな。妾達に任せておくがよい。見付け次第倒してやる。何処におるかは皆目見当も付かんがの」
「…」
アビス、悪ノリすんなし。
あんたが言うと、冗談じゃなくなってしまうんだが。あと、見当は付いてるでしょ。
魔王というのは魔王城にいるもので、アルミリアには、その城が建てられたばかりじゃない。
そこ以外に魔王が何処にいるというのだろうか。
「よろしくお願いします」
ドラゴンは再び頭を下げた。




