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アビスの首飾り

こんにちは。現場の木陰ちゃんです。

魔王城にて、しばし魔王を遂行していた私は今、美少女形態に戻り大国ワルドーを歩いていたりします。


「ご覧ください」と、大きな声を出しながらテレビの前の皆様に話し掛けたい位、ワルドーは絶賛大混乱中。


それもそのはず、ワルドーの隣国であり、人族の最前線であったアルミリアは陥落。そこに魔王城が建立されてしまったのだから、混乱するなという方が無理な話だった。


アルミリアが落ちた今、魔族の標的がワルドーとなるのは、誰の目から見ても明らかという点も大きい。


海を挟んでいる事が、唯一幸いな点であるとはいえ、アルミリアとワルドーは目と鼻の先、聳え立つ魔王城が見えてしまう所も、人族の恐怖を助長させた。


アレは、精神衛生上よくないもんね。


なぜあんな所に魔王城を急ピッチで作ったのか意味不明だったけど。人族の立場から見ればよく分かる。


あの城は、人族の戦意を削ぐには十分な効果がある。


魔族って、もしかして頭良かったりする?


「この石ころ、めっちゃくちゃ綺麗じゃの」

「それは石ころじゃねーべ。アビスはダイヤも知らねぇべか?」

「知っておるわ。炭素の塊じゃろ」

「炭素?」

「エルはそんな事も知らんのか?相変わらずお馬鹿じゃのう」

「しっ、知ってるべさ。空気になんかそんなのが入ってるて聞いたべ」

「それは酸素じゃ」

「服とパンツとか仕舞う家具だべ」

「それは箪笥じゃ」

「シャルウィー」

「ダ〜ンス」


「緊張感無」


鑑定で得たばかりの知識で、マウントを取るアビスと、ぐぬぐぬしながらもふざけているエルが、手を取り合い踊り始めた所で私は呟いた。


ワルドーは明日世界が滅亡するかもって、雰囲気なのに、二人は世界平和を謳歌しているようだった。


まぁ、真っ黒なローブで身を隠したエルフと、怪しい鎧で全身を隠した美少女は、平和な世界とも不釣り合いな気もするけど。


このダンスも中身が美少女って知らなければ、気味の悪い呪いのダンスにしか見えないしね。



アビスは私と違って変身のスキルは持っていないから、耳を隠し、エルフである事をバレないようにしていた。


アビスがなんで付いてきてるかは知らない。

気が付けば当たり前のように、私とエルに同行していた。


理由を考えるなら、退屈だから付いてきたって感じだろうか。


レベル100のエルフ女王が同伴とか、魔族全滅不可避。

御愁傷様です。


「モ、モロゾフさんお久し振りです」

「…誰?」

モロゾフって?という意味と、お前は?って意味も含めて、私は唐突に話し掛けてきた青年に質問する。


なんか、体凄いボロボロだけど大丈夫なのかな。

小指で小突いた、だけで死にそう。

まっ、私クラスになれば、四天王だって小指で殺せちゃうんだけどね。



「ははっ…武道大会で決勝を戦ったドラゴンです」

「あぁ」

言われて思い出したというよりは、鑑定して思い出した。

あの攻撃で本当に死んでないとか凄すぎる。傷は全然治ってないし、動けてるのが不思議なくらいではあるけど。


僧侶とか、パーティに入れてないのかな。


「こんな姿では、分からないのも無理ありませんね」

「うん」


どうしたの?とか、白々しく聞いた方が良いのだろうか?理由も原因も知っているのに?


ん〜。やめておこう。


顔見知り程度の相手とは挨拶をしてすれちがう。見つかってしまった場合それがマナーで、深入りなんてしないのだ。


バイト先の先輩を外で見付けても、顔は逸らすものでしょ?


という事でさようなら。


「この傷は…」

挨拶もしたしすれちがおうとしたら、ドラゴンが語り始めた。こいつ、まさかマナーを知らない?


異世界ないわ〜。

バイト先のおばさん位ぺちゃくちゃと話し始めたドラゴンの言葉を、私は右から左に聞き流した。


今日はハンバーグが食べたいな。

オムライスでもいいかも。いや、敢えてのグラタンだろうか…やはやそれとも…。


「というわけです。どうかお願いします」

「うん」

夕ご飯をもんもんと浮かべていたら、謎に頭を下げられたので、頷いておいた。

「ありがとうございます」

お礼を言い残し、ドラゴンは足を引き摺りながら帰っていく。


誰かに話を聞いて貰いたい御年頃というやつかな。全然聞いてなくてごめんね。



「木陰見よ。ダイヤモンドを安値で手に入れたぞ。値切りに値切ったのじゃ」

「おらの金で買った癖にエラそうだべ」

「しがない金で三つも手に入れたのは、妾の手腕じゃぞ」

「おらもいい感じに、ヤジを飛ばしたべ」

「確かにあのヤジは、良いヤジであった」

「でも、最終的にはアビスのお陰だべな」


二人はパチリとハイタッチを交わしあった。

仲いいな。


「という事でこれが木陰の分じゃ。ネックレスにしたから付けておくが良い。エルフの加護があるぞ」

「ありがと」


アビスの加護とか、凄い効果がありそうだ。私はダイヤのネックレスを装備した。

ただでさえ美しいのに、よりエレガントになった気がした。


「おらの分も勿論あるべよな?」

「鎧越しでは、妾の加護は届かぬが、そのまま付けるかえ?」

「う〜」

「引き剥がしてあげようか?しばらくはすっぴん状態になるけど」


エルが装備する呪いの鎧は、バキバキに引き裂いたとしても勝手に修復されるのだが、流石に即時修復というわけではなかった。


鎧としての機能を取り戻すのに二時間くらいは掛かる。二時間で直る方がどうかしてるんだけどね。


「おらにもローブを寄越すべ。人前では顔をさらせねーべ」

「人族のくせに難儀なやつじゃ。同じので良いかの?」

「うん。木陰、よろしく頼むべ」

「OK。そいっ!」


私はエルが装備する呪いの鎧を引き裂き、中からエルを引きずり出した。

毎回の事だけど、この瞬間はサナギから蝶が脱皮する瞬間を彷彿とさせる。


しかも、かなりいい匂いがするし、キラキラもしてるんだよな。


魔王クラスの嗅覚と動体視力がないと分からない事かもだけど。


鎧の中から美少女が飛び出した瞬間、アビスが美少女にローブを被せた為、私でなきゃ見逃しちゃう位の速度でエルの姿は隠されていた。



「これでおらもネックレスを装備できるべ。やったべ」

「ダイヤはエルにとっても綺麗なの?」

ブスは美人で、美人はブスなのに。

素朴な疑問である。


「当たり前だべ。木陰は何を言ってるべか?」

「そっ」


馬鹿を見る目で見られた事にちょっと腹が立ったので、私は手の中にあった呪いの鎧をぐしゃりと入念に握り潰しておいた。精神さんがすぐに中和してくれるけど、私だって、イラ付く時はイラ付くのである。


アンガーマネジメントでイラッとしたら6秒数えるって方法があるけど、数えらる余裕なんてねーからって、私は常々思っている。


アンガーとは違うけど、数えられる余裕があったら、魔族大虐殺も起きなかったわけだしね。


でも、何事も余裕は大事だ。

6秒、6秒っと。


「そういえば良かったのか木陰。あんな約束をして」

「約束?」

約束なんて、何かしただろうか?

まったく記憶にない。


「大怪我を負った男に、稽古をつける約束をしておったではないか」

「そうなの?」


初耳なんだが。

いつ約束したっけ?そもそも大怪我を負った男と会話をした記憶が…さっきじゃん。


ついさっきしてたじゃん。

最後に頭を下げてお礼を言ってきたのは、そういう事?


全然話聞いとらんかった。


だって、いきなり聞いてもない事語り出されたら、適当に合図を打ちをしながら空想に耽るものじゃん。


ギャバ嬢だってそうやって時間が過ぎるのを待っている(偏見)

あの子等の笑顔は、話が楽しいからじゃなくて自分の妄想にニヤついてるだけだもん(予想)


…って、実務経験豊富な日向ちゃんが言ってた(責任転換)





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