魔王の誕生
神託が届き、世界が慌ただしくも何も変わらない日常を送る中、ベルフェルは魔族の意思を既に統一させ、取りまとめる事に成功していた。
魔王を信仰し、魔王の誕生を心待ちにしている一部魔族を政治からは排斥した事と、日頃から多くの裏工作をしてきた事が功を成した僥倖といえた。
魔族を力ではなく薬で支配するベリルトや、想像した通りの動きをしてくれた脳筋武人ベリアルが、意思の統一に率先して動いてくれた事も大きい。
そして今、ベルフェル達魔族軍の精鋭は、誕生した魔王を誕生して瞬間に葬る為、深淵の大地に大集結していた。
深淵の大地に魔王が誕生するという神託はなく、誕生する詳しい日付も分からない。
しかし、深淵の大地で魔王が誕生する確率は、限り無く高かった。
なぜなら、記録に残されている魔王は一人の例外もなく、深淵の大地で誕生しているからだ。
「問題はいつ、どのタイミングでという事ですね」
「神託があった以上、10年、100年後という事はあるまい」
「しかし、神託は神の言葉でもあります」
「そうか。そう考えると確かに、あてにはならぬな」
ベルオールからのもっともな意見にベルフェルはにやりと笑みを浮かべた。
神という存在は魔族よりも気紛れで、魔族よりもあてにならない。
生きてきた年月が違うと言われればそれまでだが、神の10年が我々にとっての明日くらい、近い感覚である可能性は十分あった。
「10年、この状況を続けられますかね?」
「無理だろうな。我々魔族は飽き性でもある」
精々三月程度が限界だろうか。それ以上長引けば、士気は落ちるし数も減る。
「誕生するなら、さっさと誕生しろって事ですね」
「であるな…」
ベルフェルは頷き、ふと空を見た。
見上げたのは偶然か、或いは脳が世界に誕生した違和感を拾い上げたからか、ベルフェルはそこに、深い闇を発見した。
深い闇を見つめながら、ベルフェルは何がどう起こるのか瞬時に予測を立てていく。
そして、予測を立てていくと同時に、吐き気がする程の嫌な予感に駆り立てられた。
「ベルフェル様?」
「魔王が誕生する。位置はここだ!!」
ベルフェルは深い闇に向かって魔法を放った。
「ぐおおおおおおおおおおっ!!!」
ベルフェルの魔法が弾けると同時に、大地を揺るがす獣の咆哮が響き渡った。
その咆哮はベルフェルに明確な死を予感させ、予感としてあった死は現実となって、深淵の大地を覆い尽くした。
咆哮と同時におぞましい魔力が放出されたからだった。
「これが、魔王…」
大地の中心に誕生したおぞましい存在を見て、ベルフェルは呟いた。
魔王
レベル不明
HP581000
MP581000
TP581000
力581000
魔力581000
素早さ581000
防御力581000
器用さ5810
スキル
魔衝撃レベル4
魔炎撃レベル4
魔氷撃レベル4
魔風撃レベル4
魔雷撃レベル4
魔振撃レベル4
拘束レベル4
万里眼レベル4
召喚レベル4
闇の衣レベル7
闇の波動レベル4
闇の鼓動レベル4
絶対王政レベル8
パッシブスキル不明
EXスキル不明
鑑定結果も馬鹿げている。
誕生したばかりだというのに、魔王の強さは狂っているとしかいいようがなかった。
これが、世界を滅ぼす魔王。
魔族の精鋭を失った今、この魔王をどうこうする事など、到底できはしない。
望み通りベリアル派を物理的に一掃できたところで、肝心の魔王が生きていたなら何の意味もない。
寧ろ魔王信仰派がベリアル派よりも強い力を持つ事が予想出来る為、状況はかつてないくらい最悪だった。
いや、そもそも派閥どうこうなど、考えている場合ではない。
考えなければいけないのは、この場をどう切り抜けるかだった。