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ドラゴン戦記③

ゲフリと咳をし、口から煙を吐く。

こんな現象、人体では早々起こる事はないのだが、ドラゴンの体では頻繁に起こるようになっていた。


理由は、世界最高の魔術師に毎度毎度瀕死のダメージを負わされているからである。


口だけでなく、目や鼻や耳からも煙が出た事はある。普通なら死んでいるし、普通でないドラゴンであっても死んでいる。


ドラゴンが死なないのは、勇者の防具がそれを赦さないからだった。


「少し、慣れてきた…」


口から煙を吐きながら、ドラゴンは呟いた。

呟いた声はガサガサで、ドラゴン自身もまともには聞こえてはいなかったが、意識を保つ為にドラゴンは、ぼそぼそと呟き続けた。


勇者の防具を身に付けている限り死ぬ事はない。

それでも、死が確定するダメージを負った肉体で、意識をと切らせるのは恐ろしい。


慣れたのは少しだけであり、怖いものは怖いし、痛いものは痛い。


「次は、あの魔法の対策だな…」


痛みと恐怖に襲われながら、ドラゴンは今後について呟く。


こんな状態に何度も晒されているにも関わらず、何度も立ち向かっていくドラゴンは、頭のネジが100本はぶっ飛んでいた。


「取り敢えず、回復魔法を覚えている人物をさがさないと」


ドラゴンは自身を回復する術を持っていなかった。回復アイテム幾つか持ってはいたが、それもリーズの魔法によって、跡形もなく蒸発している。


「というか、アイテムの一つくらい、置いていけよ。クソジジイ」


最初の頃は手加減もされたし、歩ける程度の回復魔法もかけてくれた。アイテムを置いていてくれた事もある。


しかし、今はそれもない。


本当に死なないと分かってからは、全力で鳥籠を使ってくるようになったし、何の手ほどきもせず去っていくようにもなった。


手心を加えた相手がすぐに殺しに掛かってくる以上、リーズが正しくはあるのだが。


にしても動けない。


普通なら死んでいる攻撃を受けた為、すぐに動けるわけはないのだが、動けないとなると、回復魔法を修めた僧侶も魔法使いも探せない。


魔術師達には、ここを一般通過してもらうしかなかった。



「こいつは中々高そうな鎧だぞ兄貴」

「確かにこいつは中々高そうな鎧だな弟よ」


一般通過魔術師を待つ事三日。

腹が減ったなぁ。とドラゴンが考えていると、いかにも魔術なんて修めていませんといった風貌の男が現れた。


趣味の悪い魔物の毛皮を誇示するように身に付けている所や、アホそうな顔からいって、十中八九野盗か何かだろう。


「おっ。今この死体動かなかったか兄貴?」

「死体が動くわけないだろ?弟よ」

「それはそうだね」

「ああ。それはそうだ」

「・・・」


アホ兄弟のアホな会話が、頭上で展開される。ドラゴンの体は見た目死体で、三日が経過した今も指一つ動かせないでいた。


「じゃあ、鎧を剥ぎ取るぞ兄貴」

「頼んだぞ弟」


アホ兄弟の弟が鎧に手を掛ける。この鎧は他者が外せない呪いの鎧でもある。例え弟が世界一の怪力を持っていたとしても、ドラゴンから鎧を剥ぎ取る事は不可能だった。


「取れないぞ兄貴」

「本当か?弟よ」

「どうしよう兄貴」

「どうしようか弟よ」


アホな会話をしていないで、死体ごと鎧を運べばいい。

ドラゴンは声にならない声を出しそうになったが、なんとか我慢し、死体に徹する事にした。


こういった輩は、目の前にある宝をけして諦める事なく、何とかして金に変えようとする。


そうなれば、呪われた鎧を装備するドラゴンは、必然的に人里に連れていかれる事になり、鎧と共に鑑定を受ける事になる。


表であれ裏であれ、多くの金品をやり取りする連中は一流の鑑定士を雇っている場合が多いからだ。


ここまできたら、後は回復治療を待つだけ。英雄ドラゴンを復活させたとなれば、鎧を売るよりも多額の金を期待できるし、恩だって売れる。


事実ドラゴンは復活した際、かなりの額を発見者に与えていた。


こうする事で、瀕死状態になったドラゴンを発見し、回復させるまでの工程がスムーズに行われるようになると考えたからだ。


「ん?待って兄貴。これ、もしかしてドラゴンじゃないか?」

「おいおい。弟よ。ドラゴンはこんなにも小さくないぞ。もっと巨大で馬鹿でかい」

「違うよ兄貴。英雄ドラゴンだよ」

「なるほどそっちか弟よ」

「もしそうなら、早く回復させないと」

「死んでいるのではないのか?弟よ」

「回復させてみれば、分かるよ兄貴」

「そうか。では、回復させてみようか。弟よ」

「頼んだよ兄貴」

「ぬんぬーん」


アホ兄弟がアホっぽい会話をした後、兄の方がドラゴンの頭上でぬんぬんと祈り、踊り始めた。


魔法力を奪われたり、行動力を奪われそうな奇妙で気味の悪い踊りだったが、アホ兄が踊りだして暫くすると、ドラゴンの体は淡い光に包み込また。


回復魔法が発動した時特有の淡い光。途端、致命傷だった全身の傷は、みるみるうちに回復していった。


「いや、そのなりで回復魔法使えるのかよ!」

「うおっ、本当に生きていたぞ。弟よ」

「うわっ、本当に生きていたね。兄貴」


「なんであれ、助かった」

アホ兄弟と心の中で、罵倒してすまんと、こちらも心の中で謝罪をしつつ、ドラゴンはアホ兄弟に感謝した。


はっきりとした視界の中で映る、兄弟はとんまな顔をしていて、やはりどう見てもアホそうだった。


「ドラゴンは金を配り歩いてるって聞いたぞ。勿論兄貴や僕にもくれるんだよね?」

「えっ、ああ」


配り歩いてはいないのだが、否定するのも面倒なのでドラゴンは頷いた。ただ、生憎と今は持ち合わせがない。


リーズの攻撃によって、勇者の防具以外すべて溶けてしまったからだ。


「よこせよこせ」

アホ兄が、変な踊りをする。

相変わらず魔法力を吸い取ってきそうな動きだ。いや、実際に吸われている。


ドラゴンは直感した。


「近くの村に連れていってくれ。そこで渡す」

「それは駄目だ。僕達の村は余所者を入れない。ここで貰う」

「よこせよこせ」


「生憎と今は持ち合わせがなくて」

「だったらどうして、村では渡せるんだい?怪しいな」


アホ弟がじっとドラゴンの顔を覗き込んでくる。虚空の瞳は薄暗く不気味で、すべてを見透かされているような気さえした。


回復魔法を使える事といい、普通の野盗じゃない。なんだ?この兄弟?


「こいつ怪しいのか?弟よ」

「怪しいよ兄貴」

「わかった。なら今から金を持ってくる。少し待ってろ」


回復して貰った以上、怪しまれた所でドラゴンにはどうでもいい事だったが、変な噂を流されては、今後のゾンビアタックに支障をきたす恐れもある。


ドラゴンは大地を蹴り、金策に向かった。


ドラゴンは一生を100回やり直してもお釣りがくる位の金を持ち、その金は世界中のあらゆる所に隠してあった。


生憎と財宝のありかを示した宝の地図は、描いていないのだが、これは老後の楽しみに取っていた。


そして、描いた宝の地図を投げ捨てながら言うのだ。


俺の財宝か?欲しけりゃくれてやる。この世のどこかに何かを置いてきた。と。


ドラゴンは生きて英雄。死して伝説になるつもりだった。


それにしても、体が軽い。

あの短時間で、瀕死状態からここまでの回復をさせるなんて、アホなくせにリーズより凄いのではないか?


今なら空だって飛べ…。


「は?」


すっとんきょうな声が口から漏れる。

ドラゴンは空を飛んでいた。

というより、天に翔昇っていた。



「しまった。ついつい翼を授けてしまったぞ。弟よ」

「やっちゃったね兄貴」

「しかし、やってしまったものは仕方無い。諦めよう弟よ」

「何事も諦めは肝心だね兄貴」


空高く翔けていったドラゴンを眺めながら、アホ兄弟はドラゴンから金を受け取る事は諦め、その場を後にした。


アホ兄弟は何事にも執着しない生き方をしていた。



一方、空高く翔け上がっていたドラゴンはというと、どうしようかと真剣に悩んでいた。


足を止めれば、重力によって体が落下しそうなものの、まったくもって落ちる気配がない。


それどころか体は、更に天高く上昇していく。

背中に翼を授かっているせいである。


ドラゴンの背中に生えた翼は、ドラゴンの意思とは関係なしに羽ばき、天へ天へと体を押し上げていた。


「これは本当にまずいか…」


空気が薄くなってきているせいか息苦しく、そして寒い。


優雅に羽ばたき続ける翼とは異なり、ドラゴンの体は少しずつ凍り始めていた。


このまま氷の彫刻になって、永遠に天を彷徨い続けるなんて事、ないよな?


勇者の武具を装備している以上死ぬ事はないのだろうが、こんな所で氷像になってしまえば、野盗にさえ、見付けて貰う事はできなくなる。


「龍炎は、使えないか」


炎の噴射を利用した下降や、全身に炎を纏う事で暖を取ろうとしたドラゴンだったが、炎は出なかった。


龍炎は、戦士であるドラゴンが唯一魔法力を利用して使用する技であり、魔法力がなければ発動しない技でもある。


アホ兄の踊りを見た時、魔法力を奪っていると直感したが、直感した通り本当に奪われていたらしい。


一つの行動で三つも効果を与えるとか、聞いた事がないぞ。あのアホ兄は一体…いや、今はそんな事よりも。


「龍斬」


ドラゴンは自身の口から犬歯を抜き取り、武器とすると、背中に生えた翼に向かって斬撃を放った。


しかし龍斬が、翼にヒットする事はなく、翼は何事も無かったように天に向かって翼を羽ばたかせ続けた。


見えていて、効果もあるのに壊せない。


一呼吸ごとに意識が遠のき、体が凍る。

天も地も気が付けば何も見えなくなっていた。


『…まさかこのような方法で天に昇ってくるとは想定外です。氷像となって意識もない以上、ゴミと大差ありませんが、ゴミとして天を彷徨われるのは少々困ります…そうですね。ここは一つ面白い嫌がらせをする事にしましょう。貴方にも木陰ちゃんにも…』









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