ドラゴン戦記②
ドラゴンは抜きん出た才能を持つ天才戦士である。
その強さは、人族の領域にない龍や魔族とも対等に戦えるものであり、一対一に限るなら、ドラゴンは全種族の中で、最上位に位置する強さを誇っていた。
リーズがドラゴンとまともに戦う事なく逃げに徹するのは、ドラゴンの牙がリーズにも、容易に届き得るからだった。
そしてその事は、ドラゴン自身も感じていた。リーズからゾラという存在に限界値が更新された事で、止まっていた成長のリミッターが解除されたからである。
ドラゴンは並外れた才能を持っているだけでなく、努力する事を厭わない。
そして、一度定めた目標には、なにがなんでも到達しようとする意地とプライドも持っていた。
「さて、師匠次はどうくる?」
ドラゴンは大地を蹴り、リーズの元に駆た。ドラゴンはリーズとの追いかけっこを楽しんでいた。
ドラゴン自身は気が付いていないが、ドラゴンは相手も自分も互いに死ぬかもしれないギリギリの戦いになって初めて、エクスタシーを感じる。
龍を屠り経験値を得たとしても、成長が頭打ちになっていたのは、これ以上強くなった場合、リーズと命の取り合いが出来ないと本能で理解していたからだった。
そして何より、リーズを倒してしまったら、目指すべき目標も無くなってしまう。
才能があり努力を惜しまないからこそ、ドラゴンは目標を失う事を恐れていた。
強くなったとて、戦う相手がいなければつまらない。ドラゴンは戦闘狂だった。
「わしを完全に獲物と認識しよったの。少しは師匠として敬ってはどうじゃ?」
「敬ってます。だからこうして、何度も会いにきている。お土産まで持ってね」
ドラコンの手には酒瓶が持たれていた。
これは、追い掛けっこの最中に立ち寄った村で手に入れたものだった。
リーズはドラコンと戦って負けるとは微塵も思ってはいないものの、男との戦いに興じる程、暇ではなかった。
こうして、手土産の一つ二つを持っていかないと、そそくさと遠くに転移してしまうのである。
ドラゴンはグラスに酒を注ぎ、リーズに差し出した。
「それに、師匠は人望がないから、こうして自らの意思で会いに来てくれる人もいないでしょう?」
「馬鹿抜かせ。人望ならあるわ。この前も可愛いソフィアちゃんが、会いに来てくれた」
「この前って、どれくらい前ですか?」
どうせ、3、4年も昔の事だろう。
リーズがどれだけ生きているのか知らないが、リーズの時間感覚はかなりトチ狂っていた。
「…20年前…」
「は?俺の人生並に昔じゃねーか」
ついつい、強い口調でツッコミを入れてしまう。
「わし位人生を極めると、1年なんぞあっという間、若かりし頃の3日4日に圧縮されるんじゃ。2、3ヶ月前であれば、つい最近であろ?」
「つまり、2、3ヶ月に一度会ってる俺とは、師匠的には、毎日会ってる感覚ですか。それはウンザリしますね」
「分かっておるなら帰れ」
「だから帰ってきました。師匠がいる所が俺の家だから」
「キモッ」
「ここは感動して泣く所だろ。じじい」
「ただただキモいわ。その言葉を使うなら、せめて女になってからにせい」
「あんた、オカマまでイケるのかよ」
「わしの思想は多様に適応しておる」
「多様性とか言ってれば、護られると思うなよ。その思考は普通に気持ち悪いからな」
「世界を敵に回しよったの?ドラゴン」
「いや、あんたが敵だろ。女の、女になろうとしている奴の敵。俺が排除してやるよ」
「やれやれ。たまには教育してやるかのう」
ドラゴンが槍を構え、リーズが杖を構える。
戦士と魔法使いがよーいどんで戦いを始めた場合、魔法使いは圧倒的に不利である。
魔法を詠唱する時間、魔法を発動する時間、魔法が具象化する時間。剣の一振りがされる間にこれらを完了できる魔法使いは、世界の何処にも存在しない。
だからこそ、魔法使いはよーいどんで戦う事ない。一流の魔法使いであればある程、先手を打てるよう策を巡らせるし、超一流であればある程、既に先手を打っている。
そしてリーズは超一流の中の超一流であり、先手の中に千手の仕掛けを打っていた。
ドラゴンがリーズを倒すには、この千手を突破しなければならない。
槍の一振りよりも遥か早くに、魔法の槍がドラゴンに襲い掛かる。
「相変わらず、小賢しいじじいだ」
「小ではなく、大じゃ」
「確かに、小より大の方が臭くて汚い。あんたにピッタリだ」
四方八方から飛んでくる魔法を回避し、受け止めながらドラゴンは言う。
リーズが得意とする必勝の戦術、魔法の鳥籠。この鳥籠を抜け出す事がドラゴンの課題であり、この鳥籠が発動している中、リーズを倒す事がドラゴンの命題だった。
鳥籠をただ突破しただけだと、リーズは転移を使って逃げるからである。
安全圏からのヒットアンドアウェイ。リーズはこの方法で、今まで生き抜いてきた。
生き抜くという一点においてリーズは、世界の最高地点にいた。




