魔王降臨③
私は魔王だけど、人であった前世の時から結構冷たい側の人間だったと思う。
他国で起きている戦争とか、犠牲者が何人出たとか言われても、へぇ~。位にしか思わなかったし、国内で殺人事件が起きたところで、怖いな程度にしか思わなかった。
私は私に関わっていない人達がどこで何をしようが興味はないし、そんな事よりも週刊漫画の続きが気になった。
それは、魔王となった今も変わらない。
ユグドラシルの直下で、人族と魔族が血と血を流し合っていたとしても、まったくといっていい程、どうでも良かった。
そんな事よりも、エルフの子供達と何をして遊ぶかの方が重要だし、野菜や果物の育ち具合の方が気になった。
人族と魔族の戦争なんて、私にとって対岸の火事もいい所だった。だからなのか、そんな場所の当事者になった今、私は冷静に、何をやってんだろうかと考えていた。
就活の際、行くきのない滑り止め企業に対して、嘘八百を並べ、必死に自分をアピールしている時の感覚と少し似ている。
あの時も、何やってんだろ?と冷静に思っていたものだ。そして、そんな気分になった時は、必ず次の面接に進むか、合格通知を貰う事になった。
つまり今回も、魔王として合格を貰えるのかもしれない。いらないけどね。
「…」
「…」
「…」
静寂が辺りを包み込む。
誰も何も言わない。
世界の中心に降り立った私に誰も何も言わない。
世界の中心に降り立った私も何も言わない。
「…」
「…」
静寂が続く。
あの、答えるので、誰か何か言って貰ってもいいですか?面接官さんは、こっちが何も言わなくても色々と質問してきましたよ?
だからペラペラと、嘘八百を並べ立てれたのである。君達の質問内容は、丸っと全部履修済みだったからね。
だから言え。
魔王、なぜここに!?
って言え。それが君達に与えられた役割でしょ。
「魔王様、なぜここに!!」
「フハハハハ」
理想の質問に、思わず笑ってしまったぜ。
さて、ゆっくりと答えるとしましょうか。
ちなみに今の私は、不細工な魔王状態であり、見た目以外でもきちんと魔王と分かるよう、阻害もオフにしてあった。
鑑定不能を理由に、魔王じゃないと思われても面倒だしね。威圧と闇の波動をバリバリに効かせてるし、問題はないとは思うけど。
だからなのか、最前線でまともに話が出来る者は、殆どいなかった。全員が全員私にビビり散らかして恐慌状態となり、会話どころではなくなっていた。
威圧はともかく、闇の波動は少しやり過ぎたかも。
反省。そしてオフ。
私は反省をすぐに活かせるタイプの魔王なのだ。
「魔王、様?」
「おっとすまないなべ…」
べ、べル、ベリ?
いや、お前誰だよ。
ユグドラシルから鑑定はしたものの、名前を忘れてしまった私は、私に話し掛けてきたキモ生物に再度鑑定を掛けた。
今まで一体どれ程の人数を鑑定してきたと思っているのか、履歴書がないと顔と名前が一致しないのです。
ベルアル・アドビアナ・ロゼ
四天王。魔族将軍
レベル77
HP180600
MP0
TP180600
力40250
魔力0
素早さ3200
防御力100500
器用さ300
スキル
防壁レベル8
鉄壁レベル6
透壁レベル8
鼓舞レベル6
能力解放レベル3
パッシブスキル
防衛レベル8
統率レベル4
指揮レベル4
EXスキル
不屈
不滅
カリスマ
魔族四天王の一人。常に戦争の最前線に身を置き続ける不屈の戦士。
仲間の盾になる事を厭わす、部下からは高い信頼を受け信奉されている。
魔王誕生の際、部下を全て喪った事で己を責め、魔王という存在に強い殺意と敵意を抱いた。
護るべき部下がいなければ、今にも斬り掛かっていた。
滅茶苦茶恨まれとる。
身に覚えは…あります。
でもあれは不慮の事故で…。
まことに。
「すまんなベリアル。私がここに来た目的を知りたかったのだな。一言で言うならば、無駄な戦争を終わらせに来た」
何しにここに?
戦争を終わらせに。
一度は言ってみたい台詞である、
そして、今の私にはその力があった。
「どうする人間共。しっぽを巻いて逃げるというのであれば、見逃してやらんでもなたいぞ?」
私は威圧感増々で人族の兵を見た。
「…っ」
「うぐ」
「フフフ。さぁ、存分に逃げるがよい」
笑いながらこんな事を言う魔王は、絶対に逃がす気なんてなさそうだけど、私は逃がす気満々だった。
蟻を踏み潰してはしゃげるのは精々幼稚園児まで。大人になれば、蟻の営みになんて見向きもしないし、潰す事があれば罪悪感だって出る。
「うっ、うぐぅっ」
「がああっ」
「ぎぎ、ぐけっ」
何もしていないのに、人族の兵士が苦痛の声をあげる。
…嘘です。魔王はなんかしてます。
威圧感増々にする為、闇の波動をオンにしたんでした。そして、恐慌状態でもきちんと命令を実行できるよう絶対王政も絶賛発動中。
恐怖で全身が総毛立ち、一歩も動けない中、スキルで無理矢理逃げるよう動かされるんだから、そりゃ変な声も出ますよね。
「さぁ、全力で逃げろ。人族ども」
でも、逃げて貰わないと困る。
逃げ終わった後、色々と後遺症が残りそうな気もするけど、それはまぁ、優秀な治療師にでも治して貰ってください。
私もそこまで面倒は見切れません。
「うぐいげぇあ…」
「ぶいちゅば」
「ぞじゃぐ」
「がきんしなぎぃ」
「みっぐぇ」
人族の兵が苦悩の声を出しながら戦線を放棄し、次々と逃げ出していく。
一人二人は、優秀な兵が残るとも思ったが、誰一人として残らなかった。
魔王によるアルミリア無血開城完。
『木陰ちゃん駄目ですよ。自分が作ったルールは守らないと』
「はい?」
ルール?
ルールなんて作ってませんが?
シーちゃんは一体、何を言ってらっしゃるのでしょうか。
『木陰ちゃんは言いました。魔王からは逃げられない。と』
いや、そんな事言ったけ?
言った気がするな。ふざけて。
だって魔王からは逃げられないものだし。
『と、いう事です』
いや、つまりどういう事だってばよ。
と、心で呟いたのも束の間、魔王から逃げたはずの人族の兵が、まるで何かに引き摺り込まれるようにして、戻ってきた。
「ぐまぐすめ」
「ごんずど」
「ぼろにじ」
「ゔぃばば」
どれだけ足を動かし手を動かしたとしても、魔王からは逃げられないからか、人族の兵が悲鳴の大合唱をあげ始める。
これ、シーちゃんが干渉してないか?
私は吸引してないし、こんな能力持ってもいない。
『干渉なんてしていません。木陰ちゃんが言霊と奇跡のスキルを軽んじているだけです』
「言霊と奇跡?」
言霊は言った事が、実現したりしなかったりするスキルで、奇跡は奇跡が起きたり起きなかったりするスキルだ。
魔王からは逃げられないという言霊が実現し、奇跡によって、言霊がより強化されたと考えたら、この吸引力が変わらないダイソン状態も理解出来なくもないけど…。
いやこれ、シーちゃんが干渉してるでしょ。
私は人族に、しっぽを巻いて逃げるなら見逃すって言ったし、スキルが発動するとしたらここでしょうに。
「人族を使って、遊んでいるのか…」
「あれが、父を殺した魔王のやり方…」
「恐ろしい…」
魔族側からも、風評被害が出始めてるんですが…。
「ぬばずぎい」
「げんでぃ」
「ぐっずぅ」
「ずばじゃ」
「ぐふっ」
何もしていないにも関わらず、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていく。
「こんなのは、戦いではい」
「酷い…」
「恐ろしい…」
「このようにして、我らの父も…」
「悪魔だ…」
「狂っている」
ベリアルや魔族も、滅茶苦茶引いているし、何かちらほらと悪口を言っているヤツもいる。
魔族からしたら、私は私の誕生祝いに集まった同族全てを皆殺しにした、イカれた糞野郎として映ってるだろうから、魔王への当たりが強いのは当然かもしれないけど。
冗談抜きで、100万人単位でぶっ殺したっぽいんだよな。私。
なので、歴代最悪の残虐魔王として魔族に認知されるのは当然で、四天王にばちくそに嫌われた挙げ句、暗殺を企てられてしまうのは、仕方のない事だった。
てか。私なんもしとらんのに、人族の兵士無茶苦茶死んでいっていませんか?
威圧と闇の波動で精神力を削り取ったあげく、絶対王政で逃げろと命令しておいてからの、言霊と奇跡による逃げの封殺。
精神力がない状態で行われたダブルバインドによって、命が握り潰されているようだった。
酷い地獄絵図。
元いた世界なら、放送規制が掛かっている。
精神が無ければ吐いていたかもしれない。
いや、間違いなく吐いていた。
私は血が得意ではないし、人が苦しむ様も好きではなかった。
『経験値が一定に達しました。魔王木陰のレベルが40になりました』
アルミリアに配置された人族の兵士を根こそぎ殺したからか、レベルが一気に10も上昇した。
うれしくないレベルアップだ。
『精神がレベル8になりました』
「恨むぞシーちゃん」
『私には覚えのない事です』
「…魔王様、我々はどうすれば?」
「自分で考えろ」
「ははっ…」
ベリアルが頭を下げる。
ベリアルだけではない。気付けば魔族は皆、私に平伏していた。
人族に起こされた惨状を見れば、当然の行動だろう。こんなのを見せられれば、誰だって恐れおののく。
魔王に対する批判的な意見も、気が付けば何処からも聞こえなくなっていた。




