魔王降臨②
『怠惰のレベルが8になりました』
今日も今日とて、早寝早起きを実践していると、シーちゃんの声がら聞こえてきた。
シーちゃんの声はシステムボイスとしてかなり聞いているので、いつもの一方通行かと思い、私は寝返りをうった。
『あの、レベル8ですよ木陰ちゃん。そろそろ危機感を持っては如何です?』
「ふえ?」
『ふえではなく』
『本物のシーちゃんじゃん。久し振り』
なんでも鑑定団の称号を得てもおかしくないくらい、物事を鑑定しまくっている私にとって。シーちゃんの声は飽きる程聞いてきたけど、温度感のある問い掛けは、本当に久し振りだった。
シーちゃんと会話するは、はてさて何年振りの事だろうか?
私は目的地を眼下に望みながら、何年もの間エルフレアで怠惰な時間を過ごしていた。
だって、全然追い出されないんだもん。
アビスやエルフ達は勿論、エルすらいつ旅立つのか聞いて来ない。
聞かれたら三日後くらいって、適当に答えるのに、誰も、なーんにも聞いて来ないのだ。
それなのに私から、明日旅立つなんて言えるだろうか?
言えるわけがない。言えてたら社内ニートしとりませんて。それに何より、旅立ちたくない、
だってここ、居心地いいんだもん。
エデンの園はここにあったのだ。
「木陰ちゃんめっけー」
「やっぱりまた寝てたー」
「起きてる。目もギンギン」
「きゃー。起きてた。逃げろー」
「わーわー」
こんな感じでエルフの子達、めっちゃ懐いてくれてるし。
それに、怠惰といっても私だってずっと食っちゃ寝してるわけじゃない。畑で野菜や果物の収穫を手伝ってるし、子供達の遊び相手もしてる。
どっちも力加減が必要だから、超弱行動のスキルを独学で取得もしたし、きようさのステータスも爆上がりした。
レベルアップこそしていないが、私はエルフレアで着実にレベルアップしているのだ。
怠惰なんてとんでもない。
『木陰ちゃんが動かないのであれば、私は勇者側に付くだけです。私であれば魔王の居場所はいつでも分かりますので、効率の良いレベリングも指南できます。ふふっ。怠惰がカンストする前に、きちんと魔王のまま木陰ちゃんを葬ってさしあげますから』
「ちょっと待って、怖い怖い怖い」
突然現れたかと思ったら、とんでもない。ヤンデレムーブかましてくるじゃん。
ドラゴンのステータスは大したことないけど、シーちゃんがバックに付くのはヤバい。チーターズブックみたいなアイテム一つで、戦力差なんて簡単に埋まっちゃうだろうし、シーちゃんならもっとエゲつい方法を考えてもおかしくない。
シーちゃんって、神っぽい何かだから、平気で世界の理とか変えてきそうだし。
『では、動いて下さい。幸い魔王を必要とする戦場が直下にはあります。たまには派手に魔王を演じてください』
「ま?」
『まです』
シーちゃんの気配が消える。
指示待ち人間の私に指示が来た。
でも、やりたくない。
拙者、働きたくないでござる。
「何やら不穏な念波を感知したが、誰かと話しておったのか?」
「上司」
「魔王の上司?それは大魔王か何かかえ?」
「いや、知らない」
私はシーちゃんについて何も知らん。
鑑定受け付けないし、こっちから連絡も取れないし、転移で近付ける感じもしない。
あれ?
シーちゃん、マジで化物じゃない。
魔王である私に、怠惰だ怠惰だって言って仕事を割り振ってくる所とか大魔王そのものじゃん。
シーちゃんは大魔王だった!?
「うん。大魔王かも」
「なるほど、大魔王か。妾や母の手に負えればよいがの」
「戦う気?」
それは勘弁。アビスやユグドラシルは世界征服を完了している位強い。でも、私単体でも、全然届かないわけじゃないし、作戦次第で勝機もある。
こっちには鑑定さんがあるからね。
でも、シーちゃんは違う。
シーちゃんは何というかヤバいのだ。
私やアビスを就活生とするなら、シーちゃんは面接を行う企業側。しかも超大手。
この時点で横並びではないし、シーちゃんのご機嫌次第で簡単にお祈りメールが届くのである。
次の世界で活躍する事を祈っています。
みたいな。
私がシーちゃんに採用される為には、ここでマオチカ(魔王の時力を入れた事)をアピールしないといけないのである。
「ふっふっふ」
考え方を少し変えてみると、中々に面白い。
就活戦士だった私をなめるなよシーちゃん。
私の企業採用力は530000ぞ。
究極のブラック人材だがな。
「おぉ、木陰が気味悪く笑っておるのだ」
「勝ちを確信してると言って欲しい」
魔王なんて、受験や就活時に駆使したロールプレイに比べれば、超イージー。木陰ちゃんによる魔王のロールプレイ、存分に魅せてやりますよ。
「なんだかやる気ではないか」
「昔の血が騒いだ」
受験戦争に就活戦争、あの日私は戦士だった。
私って型にはまるタイプだから、マニュアルがある事得意なんだよね。
型に囚われない、発想力豊かな人材?
知らない言葉ですね。




