魔王とエルフの女王④
夕食には見た事もない位、大きなハンバーグが出た。
獣臭増し増しの肉の塊である。
エルフは肉を食べない種族なので、肉の調理法が分からないのは仕方ない。が、これはない。
ただ、肉をミンチにして焼いただけだもん。ハーブとか香草とかって、せめて臭みは取ろうよ。てかこれ、なんの肉よ。
鑑定するのが怖え~。
かといって、鑑定せずに食べるのは、いや、寧ろ食べるのこれ?食べなきゃいけないの?
無理なんですけど。
臭いんですけど。
「木陰の種族を考えて作った妾特性のハンバーグじゃ。遠慮なく食べるが良い」
アビスが嬉しそうに言う。
種族って何?四天王も脳みそや心臓捧げようとしてきたけど、それってあなたの感想ですよね。
魔王への偏見。駄目。絶対。
でも、本当にどうしようこれ。
「エル、食べる?」
ていうか、食べて。
可愛いがブスに切り替わる回路なんだし、ゲテモノが美食に変わる回路だって勿論持ってるよね?
「くせぇし、いらねぇべ」
「ですよね」
あんた、食べる物はいつも普通だったもんね。
「喰わぬのか?」
「ちよっと待って」
心の準備が。
ていうか、あれ?今漢字が違った気がする。食うじゃなく喰うだった気がする。
読みは一緒でも、喰って怖い表現に使われる事多いよね。魔王なら食うより喰うなんだろうけど、これも魔王への偏見ですよね?
騒ぎ出しますよ?魔王を差別するなって、不当に扱うなって、人権派の五月蝿い人々が騒ぎ出しますよ?いいんですか?多様性の大波に飲み込まれちゃいますよ?
「はぁ…頂きます」
でも私の精神は、NOと言えない日本人。
相手の好意はきちんと受け取ります。
だってまだ、人権派の人達騒いでないですもん。
私はハンバーグとはとても呼べない(呼んだらハンバーグが嫌いになる)肉の塊をフォークを使ってすくい取り、口に運んだ。
「はむっ…」
あぁ、持ってて良かった転移さん。
あなたのお陰で、私はこの肉を体に入れずに済みそうです。
「どうじゃ?うまいか?」
「不味い」
臭いがまず駄目。次に見た目が駄目。
糸を引く、腐った豆を好まない私は、料理の見た目と匂いに拘りを持っているのだ。
例え食べずとも、絶対に糞不味いと確信を持って言える。
「ガーン」
「でも、アビスの好意は、嬉しい」
私は糞でかい肉の塊をきちんと全部、口の中に運んだ。アビスの目を誤魔化しながら臭い肉を転移させるのは、中々ヒリつく。
私の食事は完全に別ゲームと化していた。
「木陰の胃袋は宇宙だべ。すげーべ」
「まだまだイケますよ」
感動しているエルに、私は得意気な顔を見せた。
一欠片とて胃には納めてないし、MPを使ったせいで、寧ろお腹が空いたまであるが、まだまだイケるのも事実だった。
「安心せい木陰。実はまだまだあったりするのじゃ」
「え?」
肉を全部転移させ、皿を空にした瞬間アビスはにこりと満面の笑みを浮かべた。
確かにまだまだイケるとは言ったけど、気持ち的にはもう無理なので勘弁して欲しい。これは強がりってヤツ。100%の力で殴ったくせに、私はまだ50%の力しか出してないぞ、みたいな。
「ほれ。持ってくるのじゃ」
アビスがパンパンと手を叩く。
すると、空になった大皿は没収され、かわりに、でかい肉の塊が乗った皿が用意された。
皿を運んできたエルフの顔は、美人が台無しになる位歪んでいた。
そして私に、軽蔑の眼差しを送りつけたきた。
貴女方はお肉食べませんものね。でも私だってこんな肉食べませんよ。
転移を使って、荒野にポイポイっと捨てていますもの。魔物が結構住んでるっぽい荒野を一応は選んであるから、魔王直々の餌付けって感じ。
食べ物を粗末にしてはいけないからね。私は環境には優しいのだ。ほら、魔物の皆さんも喜んどる。
今日は沢山の肉を食べるフリをして魔物に与えた。
アビスの好感度が上がった。エルの好感度が上がった。エルフの好感度が下がった。魔物の好感度が上がった。




