魔王とエルフの女王
到着しました。
森の都エルフリア
ミントの村じゃないのかって?
うん。どうやら違うみたい。
しかも、名前と場所から分かる通り、人族の村じゃなくてエルフの村。そして私達は今、百以上の弓と槍を向けられていたりする。
「人族風情が、エルフレアになんのようだ」
「そうだ、一体どうやって入り込んだ魔の者め」
普通に歩いてきただけです。
これ、本当。
「魔の者」
「魔の者」
「木陰は嫌われてるねべな」
「エルも」
「おらは鎧を装備してるべ」
出ました鎧無敵説。
エルは顔さえ見せなければ、誰からも嫌われないと信じていた。そういう意味でも、エルにとって鎧は無敵の装備だった。
「おい、勝手に話すな」
「もう殺してしまいましょう。災いの種を生かしておく必要なんてありません」
「よさぬか。人族にこの場所が知られた可能性がある以上、まずは鑑定じゃ。強欲な種族に交渉など無意味であろうが、我々から火種を作る必要はあるまいて」
「おい。鑑定士をここに呼んでこい」
「はっ!」
あーこれはマズイ。
エルはスパイ専用スキルである念話を所持しているし、私は鑑定不能ときたもんだ。
ただ道に迷っただけなのに、怪しさ億万長者である。
なんのスキルも持ってなかったら持ってないで、殺されちゃうんだろうけど。
臭いものには蓋をしろ。的な。まぁ、私はとっても良い匂いですけどね。
「木陰、なんとかするべ」
「諦めましょう」
別に捕まっても、適当に脱獄したらいいだけだしね。
鑑定した限り、エルフのステータスは大したことないし、スキルだって特別なものはない。
逃げるのなんて、超余裕です、
「村長…」
「なっ!そうか。この者達を牢に入れるのじゃ、賢者達は広場へ。会議を行う」
「はい」
「おい、付いてこい」
鑑定士が村長に耳打ちをし、エルフ達が世話しなく動き始める。
そして、私とエルは連行され、魔力の蔦によって作られた牢屋に閉じ込められる事となった。
「捕まってしまったべ」
「うん」
いつでも脱出はできるけどね。
でも、少し面白いので、しばらくはこのままでいようと思います。
私無敵だから、例え処刑の判定を受けたとしても、余裕なんですわ。寧ろ殺れるもんなら殺ってみろの精神で、経験してみたいまである。
「あーあ、お腹空いたべ。木陰なんか出して」
「私はドラえもんじゃない」
「それは美味しいべか?」
「多分その鎧と同じ味」
アレも鉄の塊だと思うし。
「これ、うまいべか?」
「今度齧ってみたら」
「試してみるべ」
「おい。五月蝿いぞ!」
「怒られちゃったべ」
「ね」
てか、エルは糞雑魚のくせに緊張感皆無過ぎ。
貴方死刑なら多分死にますよ。
…いや、案外そうでもないか。エルは無敵の鎧を装備してるもんね。
「おい。出ろ」
「もう?」
怒られたので、話す事なくぼけ~っとしていたら、蔦が開き、外に出るよう指示をされた。
閉じ込めたばかりだというのに、エルフという種族は辛抱がない。後三日くらいゆっくりさせてよね。
「ようやく出られるべ。長かったべな木陰」
「え?」
「えっ?」
私はエルと顔を見合わせた。
エルと私とでは、時間の感覚が違うらしい。
これが相対性理論ってやつ?
知らんけど。
「ワシに付いてきて下され。我らが女王が直接お会いになるそうです」
「素敵なディナーへのお誘いべか?」
「…」
エルの質問に村長は答える事なく進んでいく。ディナーの誘いではなさそうだった。
緑豊かという言葉がぴたりと当てはまり、神聖という言葉もぴたりと当てはまるエルフレアの都を村長に連れられて歩く事10分。
私とエルは都の中心にある大きな湖の前までやってきた。
「女王はこの中です」
村長は言う。
中と言ってもあるのは湖だけで建物はない。つまりここに飛び込めって事?
私泳げないんですけど。
水の中とか無理なんですけど。
「お入り下さい」
「わっぷっ」
私とエルは村長に背中を押され、エルは湖の中に落ち、私はその場から微動だにしなかった。
私のステータスをなめるなよ村長。
そんな不意打ち効かんのだよ。
「…中にお入りくだされ」
エルに触れたからか、村長は片ひざを付きながら私に言う。めっちゃ苦しそうだった。
「無理」
「女王を、怒らせない方がよろしいかと」
「無理なものは無理」
「そう、ですか…」
村長は小さく呟いたが、何かをしてくる事はなかった。なにも出来ないっていうのが、本当のところだけど。
呪の鎧。マジで凄い効果だわ。
てか、エルをどうしよう。
水の中だけは本当にむ…。
「えっ!!」
エルをどう助けようか思考を巡らせた所で、私の体は突如湖から現れた水の手に捕まれ、湖の中に無理矢理引き摺りこまれた。
「わぷっ」
私を無理矢理引っ張りこむとか、まじ?
私は目を閉じ、息を止めた。
幼少期に海で溺れた記憶が、甦みがえってくる。
「助けてお父さん…」
「妾はお父さんではない。どちらかといえばお母さんじゃぞ。小娘」
「…小娘」
腕を掻き分け、はっと目を開けると小さな小娘がいた。小娘は長い耳をぴくつかせながら、退屈そうに玉座に座り、あくびを噛み締めている。
ここはエルフの都だから当たり前だけど、小娘は当然エルフの見た目をしていた。可愛いけどなんか生意気そうなエルフ。
てか、息ができる。辺りは水中のような水色をしているけど水はない。私の体も濡れてはいなかった。
例えるなら全面ガラス張りの水族館って感じ。
「水が苦手なのかえ?」
「…」
私はエルフの小娘に何も答える事なく、いつものように鑑定を発動させた。パニック状態からすぐに復帰できる、精神さんにも感謝です。
精神のスキル、地味に一番役に立ってるんじゃなかろうか。鑑定スキルも凄いけど、情報ってのは冷静な頭があってこそ役立つものだしね。
てことで、履歴書拝見拝見。
アビス・エルフレア
エルフの女王
レベル100
HP89000
MP2500000
TP35000
力29000
魔力2850000
素早さ42000
防御力63000
器用さ2690000
スキル
風魔法レベル10
水魔法レベル10
地魔法レベル10
光魔法レベル10
蘇生魔法レベル10
治療魔法レベル10
魔眼レベル10
拘束レベル10
召喚レベル10
風の衣レベル10
鑑定レベル10
支配レベル10
念話レベル10
パッシブスキル
看破レベル10
抑制レベル10
精神レベル10
阻害レベル10
隠匿レベル10
魔力自動回復レベル10
詠唱破棄レベル10
魔力超解放レベル10
魔力超節約レベル10
オート魔法レベル10
EXスキル
魔術の秘宝
魔術の才能
魔術の奇跡
15000年の時を生きるエルフの始祖。
あらゆる知識を持ち、あらゆる魔法を使いこなす。
彼女に見抜けないものはなく、彼女が見抜かれる事もない。
やばい、やばい、やばい、やばいのきた。
まずい、まずい、まずい、まずいのきた。
これ、魔王の私でも勝てないヤツ。
殺されちゃうヤツ。
魔力2000000超えもヤバいけど、全部のスキルがカンストしてるのがもっとヤバい。
てか、レベル100ですしおすし。
今からでも、入れる保険はありますか?
足位なら喜んで舐めます。いえ、あなた様は可愛いので全身舐めます女王様。寧ろ舐めさせて下さい。
「お主、何者じゃ?」
「ただの一般市民」
べろぺろ。
「妾に鑑定できぬ存在が、ただの一般市民のわけなかろう?」
「確かに」
それはそう。看破と鑑定のコンボでなんも見れないとか普通ないと思うし、チート阻害君大活躍です。
「くくくっ、今の返答小娘、妾を覗きよったな?」
「え?」
「鑑定したのであろう?妾を」
「…」
しましたね。
阻害と隠匿のコンボを掻い潜って覗き見るとか、チート鑑定君大活躍です。
見てしまったせいで、絶賛ビビり散らかし中ですけど。まぁ、チート鑑定で見れなかったら、それはそれでビビり散らかしてたとは思うけど。
だって、カンスト超えの鑑定で見れないとか、得体が知れなさ過ぎるもん。
あれ、でもそう考えると、エルフの女王さん、私にビビっちゃってたりする?
ちっちゃい癖にでかい態度を取りながら、ガタガタと震えてたりする?
化物女王がチワワのように可愛く見え、てか、普通に可愛い過ぎないかこの女王?変身のスキル持ってないし、素の状態でこれとかやばない?
変身スキルでロリを選ばなくて良かった。私の想像より可愛いとか発狂物ですわ。しかもこれで、一万と五千年生きてるとか、我が祖国にいたら、ロリババアとか言われて気持ちの悪いおじさん達に、合法的に色々とされちゃいますよ?
「して、妾を覗き見た感想はどうじゃ?」
「凄く強いです」
アホみたいな回答である。
でも、これ以外にアビスを表現する事はできなかった。
あのじじぃみたいに、裏で姑息に魔法を回してはいないみたいだけど、魔力の物量で押されたら絶対殺されます。はい。
「アホみたいな感想じゃな」
「うん」
私もちゃんとそう思ってるので、安心して下さい。
「小娘、名は?」
「森山木陰」
「ほう。良い名前じゃ。まるで我等エルフを表しているようではないか」
「確かに」
言われてみると、森に隠れすむエルフっぽいかも。
「して木陰。エルフの森に何をしにきた?領地争いになど興味はないが、森を汚すとなれば、妾達とて黙っておらぬぞ?」
「迷い込んだだけ」
これ、本当。
「人避けの結界が施されておる場所じゃぞ?その言い訳は通らぬな」
人じゃないですし。
魔王ですし。
「アビス。疑ったら対話は出来ない」
「つまり、信じろと?」
「うん。嘘じゃないし」
「ならば、誠意を見せろ。木陰が妨害スキルをすべてオフにするのであれば、鑑定をもって木陰を信じてやるぞ」
「ま?」
滅茶苦茶不利な条件じゃん。敗戦国が結ばされる条約並みに不条理じゃん。
今の私は見えないから強いのであって、手札オープンにしたら、対策取られて敗北確定じゃん。
「木陰、疑っては対話はできぬぞ?」
ブーメランきたこれ。
「分かった。見せたら、信じて見逃して」
「妾を信じたなら、見合った対価は当然支払う」
「…」
うまい言い回しだな。と思いながらも私はチート阻害をオフにした。完全オート発動に加えノートに書き込んだチートスキルでもあるから、オフに出来ない可能性もあったけど、全然そんな事はなかった。
「はい、オフにした」
「どれどれ」
アビスが私を鑑定する。
アビスが鑑定している間、私もじっとアビスを鑑定する。
普通の鑑定とは違い、我が鑑定さんの恐ろしい所は、心の機微ややろうとしている事まで分かる点にある。
話し合いなどしなくても、私は相手の事が手に取るように分かるのである。
つまり、私が万能阻害君をオフにしたのは、アビスが私に何もするつもりはないと分かっていたから。
ただ、魔王の称号を見られたら心変わりもするかもなので、転移の準備はバッチリ整えてあります。
今からでも入れる保険はあったのだ。
「感想は?」
「凄く強いの」
「バカみたいな感想」
「だな。じゃが、妾の方が間違いなく強い」
「知ってる」
「くっくく。今代の魔王は随分と変わり者じゃな。面白い。互いに鑑定しあった所で腹を割って話そうではないか」
アビスは楽しそうに笑うと、何もない空間に手を突っ込み、中から赤い液体の入ったボトルとカップを取り出した。
そして、玉座から立ち上がり、私のすぐ目の前に腰を下ろした。
対等な目線で一杯やろうという事らしい。
私はなみなみと注がれたカップを受け取り、アビスと乾杯を交わす。
アビスが入れた酒は、臭みや苦味もなく、のど越し爽やかで、かなり飲みやすかった。
後味もスッキリと甘い。これは、ぐびぐびと飲んでぶっ倒れるタイプのヤバい酒だ。
「うまいであろ?」
「うん」
「素直じゃな。さて木陰よ。エルフの森には本当に迷い込んだのか?」
「うん。本当に迷い込んだ」
半分眠りながら適当に歩いていたら、キモい森に入っていて、そこを抜けたらエルフレアだった。
エルが起きて道案内してくれてたら迷わなかったんだろうけど、こいつ、一日16時間は寝てるんだよな。
今も女王の御前なのに床ペロしてるし。
全然動かないけど、寝てるだけだよね?
…死んで、ないよね?
鑑定するの怖いから、取り敢えず見なかった事にして、お酒を一杯。
このお酒、本当に美味しい。
「木陰がそう言うのであれば、信じるとしようかの」
「ありがと」
空になったカップに酒を注がれた、私はお礼を言う。
そして、ごくりと飲んだ後、お返しとばかりに、アビスのカップに酒を注いだ。
「気が利くではないか」
「社会人の嗜み」
一回も披露された事はないけどね。
「よく分からぬな」
「人のしがらみみたいなもの」
面倒この上ない伝統ともいえる。
この可愛らしい生物ならともかく、気持ち悪いだけのおじさんのグラスに酒を酌みたいヤツなんて、世の中にいるのかな。
いや、いない。反語。
「魔王が人を語るのか。面白い。して木陰よ貴様はなぜ、人族の真似ごとなどしておるのじゃ?これには、理由があるのであろ?」
「ない」
うん。まじでない。
勇者に殺されるのは嫌だなとは思ってるし、勇者になろうとはしたけど、別に人族の真似事に拘っているわけではなかった。
強いて言うなら、人族が前世と一番近い人種だからだろうか。
前世がエルフだったら、私は多分エルフになっていたと思う。
「つまり、特に理由もなく、人族として人族の子供と共に、世界を旅しておると?」
「一応、魔王討伐が目的にはなってる」
「なんじゃ?自殺する場所でも探しておるのかえ?」
「だから、目的を達成しない為に、ゆっくり旅してる」
旅の目的があるとしたら多分これ。
私は戦いに興味はないし、世界征服には更に興味がない。
幸いと言っていいのか、魔族と人族は魔王が誕生する以前から、争いながらも均衡は保っているみたいだし、ゆっくり命を使って旅をすればいい。
私に課せられた使命は世界征服とか、魔王軍の討伐だけど、私の目的はのらりくらりと楽しく生きる事だ。
うん。これがいいし、これにしよう。
私は今、目的を手に入れた!
「名だけでなく、考え方までエルフのようじゃな」
「アビスも戦いには興味ない?」
「みな、妾よりも弱いし命も短い。故に戦いには発展せぬよ。妾が介入すれば、それは蹂躙じゃ」
「確かに」
例え戦いに興味があっても、戦う相手がいないんじゃ意味ないもんね。
戦いはある程度実力が拮抗してないと面白くないって、漫画のボスも言ってたし。
「じゃが木陰とであれば或いは、戦いと呼べるものになるやもしれぬな」
「無理。やめて」
じじぃに魔法を当て逃げされた時でさえ、痛くて泣きそうだったのに、アビスの魔法を喰らったら、例え死ななくても死ぬ程痛いに決まってる。
そんなの勘弁して欲しい。
「なんじゃ。つまらん」
「私、平和主義」
「例えばそこの小娘を、妾が殺したとしてもかえ?」
「さあ。だって、アビスはしないでしょ」
鑑定さんを見ればモロバレ。だから、起こらない事をとやかく考えても仕方ない。
てか、この口振りからしてエルは生きているようだ。良かった。
エルが死んでも、チーターズブックで蘇生を取得すればいいだけとはいえ、魔力消失量のエグさと、アビスみたいなのに今後出会う可能性を考えると、使わないか、使うにしてもかなり厳選したいんだよね。
「くっくく。木陰はつまらんなぁ」
アビスは楽しそうに笑うと、私が注いだ酒をゴクリと煽った。




