魔王の旅立ち
エルが私の護衛を初めて三日後、私は盛大に見送られる形でロストを出る事となった。
いつ出国するのかエルに訪ねられた際、三日後くらいと適当に答えた結果だった。
糞雑魚の癖に私も持っていない念話スキルをエルは持っている為、会話が全部筒抜けてしまうのである。
そう考えると、エルはスパイとして結構優秀かもしれなかった。
うん。今、確信した。
こいつ国からのスパイじゃんって。
糞雑魚護衛を付ける理由は、私をスパイする為じゃんって。
処す?
でも、そんな事したら、多分捕まりそう。
あれ?魔王である私を捕まえられるヤツなんているのかな?
絶対いないよね。
いたらそいつが勇者じゃん。
つまりエルを処しても何の問題もなし。
私は法ですら裁けない存在なのた。がははっ。
まぁ、ぞんな事しないんですけどね。殺人とか怖いし。力は魔王でも心はまだまだ社内ニートのままなのだ。
「木陰、まずは何処へ向かうべ?おら的には、ミントの村辺りがお勧めだべさ」
「じゃあ、そこで」
エルからの提案に私は頷いた。
三日間同じ時間を過ごしたからか、エルは私にめちゃくちゃ気安い感じになっていた。
ミーシャともすぐに仲良くなってたし、そういう気質なのかもしれない。
最後には私にエルの事を託してきたし。
なんか、涙流しながら互いに抱き合ってたし。
私、ちょっと蚊帳の外だったし。
ミーシャと感動のお別れをするのは私のはずだったのに、この鎧野郎め。
「やったべ。ミントの村といえば、ぼたん。おら、一度でいいから食べてみたかったんだべ」
「花を食べるの?」
ミントとか牡丹とか、フラワーフェスティバルな村なのだろうか。
私、花より団子派なんだけどな。あれ?でも花を食べるって事は、このことわざは当てはまらないのか。
「ぼたんは花じゃなくて肉だべさ。おらが花を愛でるような乙女に見えるだべか?」
「見た目だけならね」
こいつ、普段はフルアーマーで護衛っぽい素振りを見せているけど、素顔は金髪碧眼の美少女だったりする。
麦わら帽子に花一輪持たせたら、何処の漫画のヒロインですか?って感じになる。
ミーシャがオチたのは、性格もさることながら見た目も確実に関係していた。
「この見た目でそれはないべ。木陰は変な女だべ」
「あんたもね」
自分が絶世の美少女である事に気付いてないとか、少女漫画のヒロインかよ。
エルが常に全身フルアーム状態でいるのは、見た目にコンプレックスを持っているからだった。
お前は誰よりも醜いから、顔を隠して生きろ。そうやって親に洗脳され続けていたのだから、仕方ないといえば、仕方ないんだけどね。
エルを悪い輩(主に国王)から守りたいって気持ちは分かるけど、エルの父、エフ・ロロの思考は中々に歪んでいた。
国を守る兵士長として、王の悪行を身近て見てきたからとはいえ、娘を醜女としてでっち上げ、娘自身にもそう思わせるとか、毒親極まれりって感じ。
ただ、エフにとって最大値の誤算だったのは、美女以外を女として見ない王が、兵士長に全幅の信頼を置いている点にあった。
念話のスキルを所持している事もあり、エルは私に対するスパイとして、まさに適任だったのである。
信頼している兵長の念話持ちの娘。しかも兵士として役に立たない弱さで不細工でもある。王にとっては失っても痛くも痒くもない、ローリスクハイリターンな物件がエルという少女だった。
実際はどえらい美少女で、くっそ弱いのも溺愛していたが故にって感じなんだけど。
それにしてとあんなに、びっちょびっちょに鼻水と涙を垂れ流しているおっさんの顔、初めて見たよ。
私はエフに呼び出され、土下座され、エルの命だけは護ってくださいと懇願されていた。
誠意が足りないと言って、熱々の鉄板を用意したとしても、あのおっさんなら、土下座を完遂仕切ったのではなかろうか。
それ位なんかこう気持ちが悪、気持ちが伝わってきた。
「つまりおら達は、似た者同士という事だべな」
「私も美少女だしね」
「木陰、鏡を見る事をお勧めするべ。いや、絶対鏡を見ちゃ駄目だべよ」
エフによる教育のせいで私は、顔を隠さないのが不思議な位不細工な女だと、エルに思われていた。
こんな絶世の美女はそういないってのに、失礼な話である。
「ふぅ。はぁ。よし、そろそろ休憩するべ」
「はやっ」
まだ後ろに城も町も見えるし、なんだったらこちらを真剣な顔で見守るエフの姿も見えるんだが?
「オラは疲れたべ」
「そんな鎧、着てるから」
「違うべ。これはオラの体力が純粋にないだけだべ。鎧は全然関係ないべ」
「もっと。ダメじゃん」
仮にも護衛を勤める兵士なのに。
「じゃあ、おぶってけろ」
「私はエルのおもりじゃない」
まぁ、エフからすんごい量の貢ぎ物は貰ったけどね。国王はレプリカの兜と1000ギルしかくれなかったのに、エフは、まほろばの剣に英血の腕輪とかいう、国宝クラスの宝に加え、1000000ギルもくれた。
平和な場所で穏やかに暮らして欲しいという、切実な願いと共に。
「でも、凭れちゃうべ」
「はあ」
エルがガシャリと音を立てて私に寄りかかってくる。
重いとか言ってはね除けたかったが、私がスーパーパワーな持ち主のせいもあって、エルは無茶苦茶軽かった。
ちょっと力を込めてはね除けたら、地平の彼方にぶっ飛んでしまうくらい体重も命も軽い。
私、関西出身じゃなくて良かったよ。
なんでやねんとか言ってツッ込んでたら、今までで結構な数殺しちゃってると思うもん。
「ほえ~楽チンだべ」
「鎧が当たって痛い」
実際は痛くも痒くもないけど、なんというか感触が良くない。
ガシャガシャいう、冷たい鉄の塊を背負って歩くとか、拷問ではなかろうか。
せめて美少女の柔肌を触らせろ。
「おっとう特性の鎧だべ。おらを守る為につよつよなんだべ」
「知ってる」
エルの意思では外せない呪いの装備だし。
男が触れると、虚弱、麻痺、鎮静、恐慌の効果が付与される仕組みにもなっている。
私くらい精神力があると意味ないけど、有象無象から身を守るには、十分な力をエルの鎧は持っていた。
本人はくっそ弱いけど、ドラゴン以外なら鎧の力だけでも大会で勝てたんじゃないかって位には強力だった。
あのおっさん、兵士長なんかやめて武器防具職人になればいいのに。
得能付与や錬成のスキル持ちの癖に、兵士長をしている意味よ。
「木陰は物知りだべ。やっぱりブスが生きるには、強さとか賢さが必要なんだべな」
「私はブスじゃない」
ブスにヘイトも向けるな。
昨今は何かこう、色々とうるさい人がいるんです。ブスじゃなくても、とっても生きにくい世の中になってるんです。
「木陰の強さがおらは羨ましいべ」
「なら、エルも強くなれ」
「おら、疲れる事はしたくないべ」
「この野郎」
自分をブスだと思ってる癖に、べたべたに甘やかされて育った事が分かる位、エルは甘えん坊のお嬢様気質だった。
こいつ、自分が美人だと気付いたら、姫として男共を鼻でこき使いながら、悠々自適に暮らしていくんじゃなかろうか。
ステータス以外エルのポテンシャルは、計り知れないものがあった。




