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英雄の挑戦

敗北から一夜が明け、ドラゴンは城内にある医務室で目を覚ました。


全身の骨がバキバキに折られ、内臓のあちこちを痛めていたが、目覚めたドラゴンの体には傷一つなく、体調も悪くはなかった。


「おはようございますドラゴン様。お身体に違和感はございませんか?」

「大丈夫だ」


話しかけて来た女神官に答え、ドラゴンは軽く頷いた。

どうやらこの神官が、回復魔法を施してくれたらしい。HPも完全回復している事から、若いのに相当の手練れである事が伺えた。


「良かったです。目覚めた事を王様に報告してもよろしいでしょうか?」

「あぁ」

「では、失礼します」


女神官は念話のスキルを使用し、ロスト王とひそひそと会話をする。ドラゴンに聞こえないよう配慮しているようだったが、声をひそめた所で、同じ部屋にいる以上、ドラゴンの耳には筒抜けだった。


話の内容はシンプルな物で、間もなくロスト王自らこの部屋にやってくるらしい。


「ドラゴン様。王様がこの部屋に来るそうです」

「分かった」

「ドラゴン様の荷物はそちらに全て置いてありますので、着替えるようでしたらお使い下さい」

「それは、必要ない」


王と対面する以上、正装するべきなのだろが、ドラゴンが玉座へと向かい、王と対面しに行くわけではないし、敗者が今更着飾った所で、情けなさが際立つだけだった。


そう。ドラゴンは敗北した。

それも、手も足もです完膚無きまでに敗北したのだ。今更英雄面など出来るはずがなかった。


「畏まりました」

女神官はぺこりと頭を下げた。

ドラゴンを回復させ、目覚めの報告もした以上、この場に留まる理由はないはずだが、女神官が部屋を出ていく事はなかった。



「ドラゴンよ、大事ないか?」

「はい。この通りピンピンしています」

「ふむ。しかしまさか、お主が負けるとは、想像すらしていなかった」

「それは、俺自身が一番思っています」


誕生した魔王や、四天王と呼ばれる魔族ならいざ知らず、同じ人族それも女に負けるなんて、想像の外過ぎる出来事だった。


「だろうな。モロゾフ・ゾラ。彼女をどう見た?ドラゴンよ」

「それは、俺が聞きたいです。鑑定石は彼女をどう評価したんです?」


ロスト国には、リーズの鑑定スキルを凌ぐ、国宝の鑑定石が存在する。ドラゴンが龍殺した瞬間を、誰も目撃していないにも関わらず、王が信じ、国民が信じているのは、鑑定石によってそれが事実として鑑定されたからだった。


その国宝が彼女の強さをどう鑑定したのか、ドラゴンは興味津々だった。


「それが、何度やっても鑑定できなかった」

「は?まさか壊れたとかですか?」


道具にはどんな物であっても使用制限がある。百回、千回、万回と使っても壊れない物はあるが、永遠に使い続けられる道具は存在しなかった。


国宝の鑑定石であっても、それは同じであり、使い続ければいつかは壊れるようになっていた。それがこのタイミングというのは、あまりに悪過ぎる気もするが、そうなったのならそれは仕方がなかった。


「壊れてはいない。言った通り何度やっても鑑定できなかったのだ」

「どういう事ですか?」

「それはわしが聞きたい。だから、こうしてお主に質問しているのだ。彼女と対峙し何を感じたのかをな」


王は言う。どうやらゾラは本当に鑑定石による鑑定をレジストしたらしい。阻害スキルを高いレベルで有していれば、鑑定はレジスト出来るらしいが、鑑定石の鑑定レベルは最大のはず。


つまりゾラは阻害を最低でも最大レベルまで極めているという事になる。


あり得ない、とは言い切れない気がした。

あの圧倒的強さは、可能性を否定よりも肯定側に押し留める説得力がある。


「彼女は恐らく、戦闘の素人です。それでもそのステータスは人族や恐らくは魔族の領域にすらない。俺が彼女と対峙した感想は、これ位です」


槍をへし折られた一撃も、場外に吹き飛ばされた一撃も、ステータスに頼った素人の動きそのものだった。


何の基礎すらなかった。それでも、ドラゴンは反応すらできなかった。ステータス差は少なく見積っても5倍以上は離れていると考えていいかもしれない。


「人族の領域にない、お主がそれを言うのか」

「俺はまだまだ領域内ですよ」

「ふむ。だがそうなると彼女は一体何者なのか。人族と魔族の上と考えると、神以外にいないのだがな」

「そうだったとしても、俺は信じますよ」


寧ろそうでないと説明が付かない。ゾラは今まで会ってきた者中で最も強い。化物じじいのリーズよりも上た。そんな存在に名前を付けるとするなら、超常の存在として知られている神と銘打つのが一番簡単で説得力もあった。


ドラゴンは神と会った事はないが、ゾラが神なら、皆無だった信仰心が芽生える可能性すらあった。


圧倒的な強に憧れとカリスマを感じたからだ。


「どちらにせよ、我々側に付いてくれれば良いのだか…」

「そこは王の手腕で、俺に出来る事はありません」

「そうだな。彼女のせいで予定が随分と狂ってしまったが、ドラゴン、君には約束した通り勇者になって貰う。なので勇者の武具一式を持って、近い中に旅立って欲しい」


「ゾラに与えないのですか?」

「神を勇者に出来るか?」

「分かりました。ありがたく頂戴します」


質問を質問で返すなと思いながらもドラゴンは頷いた。

神を勇者に出来るかどうかは知らないか、少なくともゾラに、勇者の武具一式はいらないように思う。


ゾラの動向は王が見守るだろうし、渡すにしても今である必要はない。


「では、頼んだぞドラゴン。世界の命運は…お主に掛かっている」

「はい」


ゾラが現れる前であれば、本心から言ったであろう言葉を、王の言葉と同じ、3割程度で受け取めつつ、ドラゴンは頷いた。


世界の命運に興味はない。

ドラゴンの興味は今、ゾラに一撃を与える事に絞られていた。


一生を費やしても、届かない可能性のある底知れない化け物。そんな化け物を体感してドラゴンの心は躍っていた。


龍と対峙した時も、ベリアルと対峙した時も、勝てない者を相手にしながら心は躍っていた。


ガタリ…。


ドラゴンは、頭打ちしていた強さの天井が外れる音を聞いた。


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