魔王の疑惑
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ミーシャと朝まで語らい合い、気が付けば朝になっていた。
魔王になってからというもの、飲まず食わずでも平気で生きていけるし、睡眠を取らずとも体は常に絶好調だった。
でも、食べるのが好きだから、食事があるなら喜んで食べるし、眠る事も好きだから、ベッドがあれば5秒で入眠する事もできる。
なので、朝まで語り合った後今、ミーシャと普通に朝食を食べていたりする。
今日もこんな風に一日が始まって、終わればいいなと考えながら…。私は、旅立ちたくないのである。
ミーシャの目のには大きなくまがあるから、私が粘り過ぎるとミーシャが倒れそうではあるけど。
昼間は私の応援をして、夜は踊り子として働いていたミーシャは、ここ数日間あまり睡っていなかった。
モロゾフ君から奪ったお金を私に賭けさせたから、金銭にはかなり余裕が出来たと思うけど、ミーシャは良い子なので突然仕事を辞める事をしなかった。
私がいつ出で行っても見送れるよう、見張ってもいるから、ミーシャを安眠させるには、私がさっさと出て行かないといけなかったりする。
うぅ。出て行きたくないでござる。
私は基本引き籠もりで、実家のような安心感が大好きなのだ。
「たのもー。たのもー」
私が頭の中で葛藤していると、扉が二度叩かれ声が響いてきた。ノックの際、鎧が擦れるような金属音がした為、少しだけ嫌な予感がする。
「朝早くに誰かしら」
「城の兵士かな」
「たのもー。たのもー」
「取り敢えず行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
ミーシャを見送り、私はサンドイッチを噛り、ミルクを口にした。前世では牛乳を飲むとすぐにお腹が痛くなったのだが、魔王の体は腹痛知らずだった。
来訪者はエル・ロロという名のしがない一般兵士だった。本人曰く、私の近辺警備を王に命じられた為、ここにやってきたらしい。
警護など勤まらない貧弱ステータで、何が警護出来るのかは分からないが、鑑定を使って真相を覗いてみるに、私という存在が一体何者なのかを探る為に派遣されたようだった。英雄ドラゴンですら歯が立たず、国宝の鑑定石による鑑定すら受けつない私には、神疑惑すら浮上しているみたい。
偽物を渡したり、勇者の称号を与えなかったのは、神を勇者に据えるわけにはいかないという、王様なりの配慮もあったらしい。
的外れな疑惑ではあるけど、ファインプレーではある。魔王を勇者にするわけにはいかないもの。
でもこれ、もしかしなくてもシーちゃんの介入があったりする?私が勇者になると、シーちゃんにとっては不都合だろうし。
『していませんよ 』
「うわっ」
ビックリ。
いきなり音もなく現れるんじゃない。てか、心を読むな心を。
『木陰ちゃんが私に、あらぬ疑いを向けていましたので』
「向けてないよ」
小声で反論してみる。
確かに向けたし、これからも一生向け続けるけどね。だってシーちゃんは、鑑定を受け付けない謎存在だし、心を読むし、超怖いもん。
あれ?
これ、まんまロスト王から見た私じゃない?
なるぼど。王は私が超怖いのか。
納得。
「驚かせてまい、申しありません」
「いや、別に」
エルに驚いたわけじゃないし。
驚くタイミングも変過ぎたでしょ?
「目障りですが、束の間、よろしくします」
「うん」
なんか、この子話し方変じゃない?
緊張してんのかな。
ちなみに、エルは女の子である。顔は鎧を着けてるから分かりません。
「木陰ちゃんに護衛なんて、いらないと思いますけど?」
「木陰?誰だべか?」
ミーシャの正論に、エルからも正論が返ってくる。てか、この子、めっちゃ訛っとるやんけ。
「勇者様の本当の名前です」
「ほえ~。いい事聞いたべ。メモメモ」
「それで、どうして木陰ちゃんに護衛が必要なんですか?」
「そんだら事聞かれてもおらはしんねぇべ」
「木陰ちゃん、こんな事言ってるけど、いいの?絶対におかしいし、王様に文句を言うなら、私も手伝うよ?」
「王に文句を言うと、ミーシャに良くない事が起きそうだから却下。それに悪人じゃなさそうだし、いいんじゃない」
「むぅ」
私の言葉に、ミーシャは不服そうに頬を膨らませた。
でも、因果が発動したら、折角手に入れたお金を没収されたりしそうだし、何より私は、エルという存在がかなり使えるのではないかとも考えていた。
「では、よろしくます。木陰殿」
「よろしくます」
エルが頭を下げ、私も頭を下げた。
エルが多分仲間に加わった。
戦力0の足手まといだけど。エルに合わせれば、例え旅立つ事を強制されても、ゆっくり旅な出来るし、話相手も出来てハッピーだ。
ミーシャは私の旅に、付いてきてくれそうな感じ0だしね。
という事て、私がゆっくり旅している間、人族のゴタゴタは頼みましたよ勇者ドラゴンさん。
私は心の中て、今頃勇者になっているドラゴンにエールを送った。




