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魔王、勇者になる


コロシアムの中心にて、私は戦士らしく地面に剣を突き立て、格好いいポーズを取ったままその時を待っていた。


第123回武術大会も終わり、最後のセレモニーとして優勝者である私に、称号と兜の授与が行われるからだった。


この前には記者やアナウンサーによる勝利者インタビューもあったけど、そこはちょっと割愛。


うまく話せなかったからカットしただって?

そんな事はない…よ?


「大変長らくお待たせ致しました。只今より、優勝者であるモロゾフ・ゾラ選手への授与式を執り行いたいと思います!皆様盛大な拍手を!!」


アナウンスが終わると同時に盛大な拍手が送られ、リングの中心に赤い絨毯が投げ込まれた。


「ガレーン・ロスト王のおなーりー」


ラッパやドラムを使った派手な音楽が奏でられ、花火が打ち上げられる中、投げ込まれた赤い絨毯の中心をロスト王が護衛を引き連れながら歩いてくる。


二人兵士を挟んだ王の後ろには、露出の多いほぼ下着姿の女が何人も歩いており、先頭を歩く女の手には美しい兜が持たれていた。


赤い布の上に鎮座する美しい兜。

鑑定に頼らずとも、兜が普通でない事は一目で分かった。


私は鑑定に頼るから、勿論鑑定はするんだけどね。


勇者の(レプリカ)

本物を真似て精巧に作られた兜。特殊な貴金属は使用されておらず、特殊能力もない。


いや、偽物じゃねーか。

心の中のドヤリを返せバカヤロー。


「見事な戦いぶりであった。そなたには勇者の称号を与え、褒美として金貨1000枚を。そして、あらゆる魔を弾く聖なる兜を与えよう」

「ありがとうございます」


四天王が魔王である私にしたように、私は王に跪きながら礼をのべる。

社会人1年目であっても、私は礼節というとのを学び弁えているのだ。


ただ、王を見上げながら思った事は、見上げるよりも見下ろす方が好きらしいという事だった。


この王がイケメンか美少女だったら悪くないんだけど、私におじさん趣味はないのです。


「では、兜を賜わろうぞ」

「はい」


王によって、勇者の兜(偽物)が被せられる。

偽物なので、何も感じなかった。


魔を弾くとか言っていたし、本物だったら頭に衝撃が走ったりしたのだろうか。痛いのは嫌なので、そこだけは良かったと思っておく事にしよう。


「ゾラー似合ってるぞー」

「可愛いわ〜」


会場からは割れんばかりの拍手が送られる。


「…では、勇者モロゾフよ。人々の為、魔王討伐を託したぞ」

「はい」


モロゾフはやめて欲しいと思いながらも、私は返事をし、頷いた。




どうも。

勇者(仮)になった木陰ちゃんです。

なぜ、(仮)なのかって、なぜなら貰った兜はレプリカだし、勇者の称号とやらも頂いていないからです。


鑑定さんで自分を鑑定した結果、魔王は魔王のままでした。四天王みたいに、二つの役職があるわけではなく、ただの魔王。


なので、勇者(仮)ですらない。

勇者(自称)というのが本当の所である。


イタ過ぎるぜ。私。

なのに勇者として、魔王討伐の任務を国王の勅命で受けていたりする。偽物の兜しか貰ってないのに。


これって、滅茶苦茶体よく扱われてない?


だって私、玉座の裏に隠し通路がある事も、隠し通路の先に、勇者が装備する伝説の武具一式が仕舞われてる事も知ってますもん。


国王が私に勇者の武具一式を今後も一切渡す気ない事、知ってますもん。


実は裏で、ドラゴンに勇者の称号と、勇者の武具一式を渡そうとしてる事知ってますもん。


鑑定さんは偉大なのだ。

知りたくない事実ではあったけど。


ただ、ドラゴンを勇者にしたとしても、あの程度の強さだとベル…ベル…四天王にすら勝てないんじゃないかな。


四天王の名前が出てこなかったとか、そんなんじゃないぞ。いや、魔王たるもの時には過ちを認めるのも大切だ。


うん。忘れた。

四天王の名前なんて今や一人も覚えてない。


だって、長い間会ってないし。


例えるなら、小学校にいた印象のないクラスメートを名前までちゃんと覚えているのか?って話。


佐藤さんは四人いた記憶はあるけど、あの子はどの佐藤さんだっけ?


みたいな。


我ながら見事な例えじゃなかろうか。

はなまるをやろう。


「木陰は、やっぱり旅立っちゃうんだよね?」


私が心の中で大きな花丸を描いていると、神妙な面持ちでミーシャが聞いてきた。


閉会式を終えた今、私はミーシャと一緒に昼下がりのコーヒーブレイクを楽しんでいる所だった。


私が飲んでるのはココアで、ミーシャが飲んでるのはホットミルクなんだけどね。


「旅立つ?」

「木陰が勇者になったのは、魔王を倒すためでしょ?」

「そうだね」


なってはないけど。

でもそっか。私は魔王城から旅立ってここに来たけど、人族からすれば、この国こそが旅立ちの場所になるもんね。


出国の日を教えろって王も言ってたし、見送りという名の派手な演出を使って、国から強制的に追い出されたりするのかもしれない。


あれ?私のタイムリミット、もしかしてもうない?


私は出されたココアを両手で包み込みながら、考えた。


「やっぱり、旅立っちゃうんだね。大丈夫。止めないよ。それが木陰のすべき事だって私、ちゃんと分かってるから。だからうん。応援する」


止めてよ。

明日にも出ていかないといけないような雰囲気、作らないでよミーシャさん。


「でも、木陰は、みんなに盛大に見送られて出国とか苦手そう。あっ、もしかしてみんなが寝静まった頃を見計らって、黙って出ていこうとしてたりする?」


「してない」


この国で、のんびりのほほんと暮らしていきたいくらいなのに。


あーあ。


こんな自称勇者にしかなれないなら、大会になんか出るんじゃなかった。勇者の強さを知れた事は、収穫かもしれないけどさ。


「…木陰、私の事、忘れないでね」

「もちろん」


何?私、もしかして今晩にも出てかないといけない感じ?明日も明後日ものほほんとしていたいのに、本日お別れします。みたいな感じ?


「じゃあ、そろそろ帰ろっか。ゆっくり町を回って、ゆっくり夜ご飯食べて、ゆっくりお風呂に入って、ゆっくり寝ようね」

「うん」


ミーシャの提案に私は頷いた


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