表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/119

英雄の敗北

「誰もがこの時を待っていた。ロスト国に男の名を知らぬ者は一人もいないでしょう。帰ってきた英雄。ドラゴン・ド・ドラゴニアが青龍の門から登場です!!2年という空白期間を経て、この男がどれ程の高みに登ったのか、刮目して見ましょう!!」


「ドラゴーン!!」

「我が国の英雄!!」

「期待してるぞー」

「キャー!!」


アナウンスがされ、会場にドラゴンが登場すると同時に、割れんばかりの歓声が響き渡った。


静かな場所で過ごしてきたドラゴンにとって、耳を覆いたくなるような騒音だったが、久々に浴びる歓声に心は高揚していた。


五月蝿いが、悪くない感覚だ。

そして。


ドラゴンは背中に背負っていた龍殺しの槍を抜き放ち、会場の中心に突き立てた。


カーンという大きな響きと同時に、空気がビリビリと張り詰める。会場を包みこんでいた歓声は一瞬で消え去り、音の一切ない静寂が訪れた。


観客を支配する感覚がドラゴンは好きだった。


「いい戦いにしよう」


静寂が包む中、ドラゴンは爽やかに名も知らない対戦相手に声を掛けた。


「は、はい」


会場とドラゴンの雰囲気に呑まれた対戦相手が、呑まれたまま、好青年のような返事をする。


駄目だな。と、ドラゴンは思う。

雰囲気に呑まれてしまう事は、百歩譲って仕方無いが、憧れのスターを見る闘争心の欠片もない瞳は駄目だ。


これでは、ドラゴンが同じ強さしか持たないハッタリの英雄であったとしても、この青年は勝てないだろう。


「そ、それでは試合開始です!!」


試合開始の合図がされる。

ドラゴンは動かず、対戦相手も動かない。


「掛かって来ないのか?」

「…」


ドラゴンの質問に対戦相手は答える事はなく、ドラゴンはやれやれと頭を振ると、対戦相手にゆっくりと近付き、首元に手刀を落とした。


対戦相手の身体が、ぐらりと揺れリングに倒れる。


「し、勝者、ドラゴン・ド・ドラゴニア!!目にも止まらない早業での勝利です」

「うおぉおおおおお!!」

「ドラゴーン!!」

「キャー!!」


ドラゴンへの勝利宣言がされ、会場が再び湧き上がる。

強さを見せるには、十分な気もしなくはないが、これだけで優勝となると、いくら目立ったとしても、消化不良な大会になるのは間違いなかった。


ドラゴンは目立つ事も好きだが、強者と命を賭けた闘いを好むバトルジャンキーでもあった。




危惧した通り、槍を手に握る事もなく片手一本でドラゴンは大会を勝ち抜いていった。


大会期間中は、特級のホテルにもきちんと案内されたので、文字通り片手間な大会よりも、その後にある風呂や料理の方が、ドラゴンはずっと楽しみになっていた。


地下から湧き出した源泉掛け流しの温泉は、心にも身体にも染みるし、一流のスキルを持った料理人が時間と手間を掛けて作った料理は、最高の一言。全身を包み込んで離さないベッドは、山にはない堕落と怠惰を味合わせてくれる。


そこにむふふなサービスもあるのだから、まさに特級の名に恥じないホテルだった。


「あのじじぃの気持ちも分からなくはない。が、俺はあのじじぃとは違う」


ドラゴンは引き締める必要もないだろうが、緩んでいた頬と気を引き締め、決勝の舞台に上った。


そこで待っていたのは、ドラゴンが望んでいた好敵手の姿だった。


強いと、一目見た瞬間にドラゴンは直感した。

気が付いた時には、槍に手を掛け構えてもいた。


攻撃が当たるイメージが湧かない。

こんな感覚を受けたのは、リーズ以外では初めてだった。


こんな化物が、魔族ではなく人族の中にいたなんて。


ドラゴンはニヤリと口元を綻ばせると、スキル龍撃を発動させた。

龍属性に特攻を持った薙ぎ払いの一撃だが、手加減は一切していない。当たれば上位の魔族の腕すら斬り落とす一撃だった。


さぁ、どう出る?


ドラゴンは刮目して、対戦相手である女戦士を見ていたが、女戦士は龍撃の発動とほぼ同時に、安全圏に回避行動を取っていた。


目で反応したには早すぎ、勘で反応したには鋭すぎる動きだった。


それでも、ドラゴンは度重なる戦闘経験から流れるように次の攻撃に移行する。放たれた技は龍斬。龍の硬い鱗すら斬り裂く一撃である。


しかし龍を斬り裂く一撃も、まるで分かっていたかのように女戦士はあっさりと躱す。


剣の持ち方構え方に体捌き。すべてがド素人のようなのに、何一つ攻撃が当たらないし、当たる気配すら感じない。


槍を手にした時と同じように、気が付けばドラゴンは本能で、龍殺しの異名を手にする事になった必殺の刺突攻撃、龍殺を繰り出していた。


龍殺は体捌きでどうこう出来る技ではない。さぁ、どう防ぐ?


瞬間何かが弾ける音がした。

間もなくして、全身に鋭い痛みが駆け巡り、身体の自由が奪われるのを感じた。


何が起きたのかサッパリ分からない。


全身が痛く、縄で縛られたように身体の自由も利かない。


何が起きたのかはサッパリだが、身体の感覚から何が起きたのかは予測する事はできた。


恐らくは強い打撃攻撃を受けた後、拘束のスキルを使われた。拘束はじじぃの十八番たがらよく分かる。


そしてその対応策も。

拘束は手の自由までは奪われない。


ドラゴンは地面の砂を掴み、スキル龍炎を発動させた。ドラゴン唯一の魔法スキルでもある龍炎は、文字通り手から炎を発生させる。槍に炎を纏わせる事で、槍の攻撃力を上げるスキルでもあるが、魔物の肉を食べる際に、かなり重宝するスキルでもあった。


手の平から打ち出された龍炎によって空を舞い、炎で溶かし、握力によって固めた砂を持って、龍殺を発動させる。


これで、ただ打ち上がっただけでも、落下点は女戦士の心臓という事になる。


そして、ドラゴンはハッキリと見た。

不器用な体捌きから、恐ろしい速度で繰り出された蹴りを。


魔族ベリアルの最大攻撃よりも遥かに重い一撃によって、身体が吹き飛び、意識が混濁する。


間違いなく、何のスキルも使っていないただの蹴りだった。しかも、道端に転がっている小石を蹴って遊ぶ子供のように、ただただ適当な蹴り。


そんなので、戦闘不能になるような、大ダメージを負うなんて、あり得ない。


遥か遠くの方で10カウントの声が聞こえ、勝者の名な告げられる。モロゾフ・ゾラ。持っている美貌に似つかわしくない、男のような名前だ。


だが、覚えた。

次は、次こそはその身体に一撃を入れて見せる。


満身創痍の中で起き上がったドラゴンは、決意を乗せた右腕を天高く掲げて見せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ