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英雄の帰還④


青く澄んだ大空に燕が舞う姿を眺めながら、ドラゴンは「ふぅ」っと息を吐いた。


ドラゴンが息を吐いた理由は、今の状況に対してのものだが、過去を思い出しての事でもあった。


ドラゴンはアルミリアを離れ、人族最西の地であるロストを目指し移動をしていた。


ロスト王から呼び出しを受けた事が最大の理由にはなるのだが、この呼び出しには明らかにリーズの影があった。


リーズは個人でありながら、ロスト国と対等な同盟関係にあり、政治にすら口を出せる立場を持っているからである。


そもそもリーズが一枚噛んでいなければ、王がわざわざドラゴンを呼び出す事はないし、王はドラゴンの居場所すら把握していないはずだった。


リーズが直接言いに来ない事にも腹が立つが、大人達が集まり、自身を巻き込む形で悪巧みをしようとしている所にも、ドラゴンは腹が立った。


悪巧みというのは、あくまでドラゴンの予想でしかないのだが、アルミリアでは一切聞かなかった、魔王誕生の噂を今し方聞いた事で、予想は確信に変わってしまっていた。


ドラゴンが今いるエンダーの村は、人族領最西であるロストと人族領最東であるアルミリアの丁度中間に位置している。


アルミリアやここまでの道中、噂の一切を聞かなかったという事は、この噂が人族の本丸側から噂が流れてきた事を意味しており、政治的な動きがあった事を疑うのが筋だった。


魔族にも神の声が聞こえていたなら或いは…。

魔族と人族が裏で繋がっているという、陰謀論はよく聞くが、流石にそれは疑い過ぎかと、ドラゴンは浮かんできた考えに頭を振った。


「どうかしたの?ドラゴンさん」

「いや」


魔王の事をはじめ、聞いてもいない村の噂をぺらぺらと話してくる女、アローラにドラゴンは一言だけ言葉を返す。


視線は相変わらずアローラではなく、どこまでも澄みきった空に向けられていた。


「そういえば、この前こんな事もあったのよドラゴンさん…」


どこまでも無関心で、打っても響かない人間を前にすれば、諦めて離れていきそうなものなのだが、アローラは止まる事なく話を続ける。


雑音があっても、物事に集中出来るよう訓練しているとはいえ、雑音というのはやはりないに越した事はない。


因みにドラゴンはアローラに名乗った覚えはなく、名を聞いた覚えもなかった。


例えるなら森で遭遇する魔物のように、いきなり目の前に現れ、マシンガントークという攻撃を繰り出してきたわけだ。


これが魔物であれば、槍で払っておしまいなのだが、流石に人族の女を槍で払うわけにもいかなかった。


魔物より遥かに鬱陶しいし、魔物より遥かに邪悪な顔をしているのだが、ドラゴンは理性的だった。


これはリーズという最低な糞じじぃに鍛えられたお陰でもある。どれ程性格に難があれど、あのじじぃに比べれば、子猫のように可愛く見える。


アローラは、ふてぶてしいボス猫にしか見えないが。


「…で、そこの主人が酷くてね、隣町のフーラと不倫してるのよ。フーラていうのは隣町のパン屋なんだけど、あそこのパン屋この前食中毒を出してね…」


一つの話から話が鎖のように繋がり連鎖していく。どういう頭をしていたら、畑で採れた野菜の話から魔王誕生の話になり、パン屋の食中毒の話に至るのか。


ドラゴンが持つ予測スキルであっても、予測するのは不可能だった。

まったく論理的ではないし、意味不明過ぎる。


話の8割を聞いていないから、きちんと聞いていれば、予測を立てられた可能性も0ではないが、そんな事をするのはまさにスキルの無駄使いといえた。


「…で、兵士になる夢を諦めたらしいのよ。勿体ないわよねぇ。でも、ゴブリン軍団の…」

「いい話を聞かせて貰った。お礼にこれを」


放っておいたら一生話続けるんじゃないか?と思い放っておいた結果、本当に一生話し続けそうであった為、ドラゴンはアローラの話を遮り、手に金貨を握らせた。


正直こちらが報酬として金貨を貰いたい心情ではあるのだが、英雄であるドラゴンは金に一切困ってはいなかった。


どれくらい困っていないかというと、面倒を金で解決する事が癖ついてしまっている位だ。


ステータスが人族では群を抜いている事もあって、下手に武力行使をすると相手が死ぬ為、これはドラゴンなりの処世術でもあるのだが…。


「いいの?こんなに。悪いからもっと凄い事を話しちゃおうかしら」

「もう大丈夫。俺も急がないといけないので」


ドラゴンはアローラから離れ、逃げるように村を後にした。





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