魔王VS英雄ドラゴン
「第123回武術大会、第一回戦モロゾフ・ゾラVSアーク・アルデバランの戦いを開始します!青龍の門より登場するのは、モロゾフ・ゾラ!」
アナウンサーに紹介され、私は美人戦士の状態で堂々と青龍の門から姿を現した。
招待状を受付に渡した時も、何一つとして咎められなかったけど、もう少しこう疑いの目とか送くっても良くない?
とか、思ったりする。
大体私、モロゾフって顔じゃないでしょ。超美人だし。
「かわいい~。ゾラーこっち向いてー」
「…」
ゾラなら結構合ってそうな気がした。
「朱雀の門より登場するのは、アーク・アルデバラン!」
「アーク!!」
「アルデバラーン!」
「アークてめぇに賭けたんだから、勝てよこらーっ!」
男からの野太い声援を受ける男、アーク・アルデバランが朱雀の門より登場し、2メートルはあろうかという巨大な体躯で私を見下ろした。
町中であったら、絶対に目を合わせたくないと思える位、目が血走っている。偏見だけど、息も臭そうだ。
見た目で不採用確定とはい、とりま、君の履歴書を見せて貰おうかな。
アーク・アルデバラン
戦士
レベル36
HP2063
MP0
TP3860
力1050
魔力0
素早さ101
防御力1809
器用さ18
スキル
物理強化レベル4
物理耐性レベル3
連続斬レベル3
人族最強を決める大会に出場している事と、応援するファンが多い事からも分かる通り、人族の中ではまぁまぁ強い部類には入りそうだった。
ただ、当然のように私の相手ではない。
アークの強さが100倍になったとしても、片手でポンです。
薄々気付いていたけど、私ちょっと強過ぎ。
魔王なのに、ゲームバランスが心配になっちゃうよ。
ここがゲームかは知らんけど。
なんであれ、あんまり目立ちたくもないし、どうやって倒そうかな。
「それでは、試合開始です!
「はぁあああっ、連続斬り!」
試合開始の合図と同時に、美少女で見た目弱そうな私に向かって、アークが容赦なく斬り掛かってくる。
男女平等は素晴らしい事だけど、ちょっとは躊躇えよ。とか思いながら私はそれを難なくかわしてみせる。
見た目はか弱くともステータスはか弱くない為、攻撃は止まって見えた。ここで隙だらけの腹にパンチを撃ち込めば、勝利確定なんだけど、殴ったら確実に死してしまうので、私は鎧に守られた胸の辺りを軽く押し出した。
瞬間、アークの体がふわりと宙に浮き、場外に吹き飛んでいく。魔王のステータス高過ぎぃ。
「じょ、場外。カウントを開始します!」
「おぉー」っという歓声があがり、カウントが開始される。
試合にリングアウト負けはないが、リングの外はダウンと同じ扱いであるため、10カウント以内に、リングに戻る事が出来なければ負けになる。
鑑定した結果、何とか生きてはくれている。ただ、死んではないというだけで、戻って来られるだけの気力や体力は残っていなさそうだった。
HP3だし。こんな瀕死でピンピン動けるのは、ゲームの世界の住人だけだ。
「ナイン、テン。勝者モロゾフ・ゾラ選手!!」
予想した通りアークが戻ってくる事はなく、私はあっさりと一回戦の勝利を決めた。
その後も二回戦、三回戦、準々決勝、準決勝とあっさりと勝ち進んでいき、気が付けば決勝の舞台に私は立っていた。
「レディース&ジェントルマン。長きに渡る武術大会もついにこの日がやってまいりました。朱雀の門より、文字通り無傷の五連勝。最強の美少女戦士モロゾフ・ゾラ!今だに剣すら抜いていない少女は、まさかあの龍騎士相手にも剣を抜かないのか、要注目です」
「ゾラー。応援してるぞ」
「ドラゴンにも勝ってしまえ~」
「ゾーラ、ゾーラ」
朱雀の門からリングに上がる。
三日間の激闘によって、私は結構人気者になっていた。どれくらい人気かというと、勝利しても全然賭け金が増えない位には人気だった。
一回戦で、あっさりと派手に勝ってしまった事が問題だったらしい。
アークって、ドラゴンに次ぐ優勝候補だったんだって。
「青龍の門より、人族最強といえばこの人。屠った龍は星の数。ドラゴン・ド・ドラゴニアの入場です。世界最強のこの男も文字通り無傷の五連勝中。得意の槍捌きを見せてすらいません。流石に決勝では槍を抜くのか、要注目です!」
「ドラゴーン」
「竜王。ゾラの服を破れるのはお前だけだー。男の夢を託したぞー」
「きゃー。龍騎士様~」
青龍の門より、人族最強の男が姿を現す。
強さの程は、ハッキリ言って分からない。
なので今日も今日とて鑑定です。
さぁ、貴方の履歴書を見せて頂きましょうか。
ドラゴン・ド・ドラゴニア
龍騎士
レベル65
HP60500
MP150
TP50010
力49600
魔力380
素早さ38300
防御力37700
器用さ35500
スキル
龍斬レベル6
龍撃レベル6
龍炎レベル5
龍殺レベル5
パッシブスキル
槍術レベル9
武器適性レベル8
毒耐性レベル1
呪耐性レベル1
精神レベル5
集中レベル4
予測レベル4
予感レベル4
EXスキル
限界突破
可能性
英雄
加護
人類最強というだけあって確かに強い。
スキルの数もかなりの量だ。
でも、残念ながら私の敵ではない。精々四天王レベルで、私に魔法をぶちかましてきた糞じじぃの方が遥かに強かった。
ただ、ドラゴンが人類最強という事は、あのじじぃは何なのだろう。
気持ち悪い開示のせいで最後まで鑑定しなかったけど、あのじじぃは人族じゃなかったりするのだろうか。
うーん。分からん。
分からんし、分かる必要もないか。
じじぃに思いを馳せる程、時間の無駄な事はないしね。
「それでは、試合開始です!」
試合が開始される。
私は剣を構える事なくぼー立ちし、ドラゴンは背中に背負っていた槍を手に持った。
ドラゴンが槍を手にした瞬間「おーっ」という歓声が会場から沸き起こる。
実況の言葉が正しければ、ドラゴンはたった今、大会において初めて武器を手にした事になる。
ドラゴンのファンであれば熱狂するのも頷けた。
なんというか、武器を持ったドラゴンの姿は、素人目に見ても様になっていた。
「剣を抜かないのか?」
ドラゴンが言う。
私は剣の素人だし、剣を抜いても強くなるどころか、弱くなる位だけど、弱くなるのであれば、抜いた方が良いのではないかとも思った。
レベルを上げて物理で殴るって言葉もあるけど、柔よく剛を制すって言葉もある。
龍騎士ともあろう者が、まさか素人の剣撃を喰らうわけないよね?
私はドラゴンの挑発に乗り、剣を格好良く構えてみせた。
私が剣を構えた瞬間、会場から割れんばかりの歓声が起こる。
決勝まで武器すら振るわず、無傷で勝利してきた者同士が、互いに武器を持ち睨みあっているのだから、興奮するなと言う方が無理な話だった。
「龍撃」
ドラゴンが槍を下から薙ぎ払うようにして振るう。龍の姿が見えたような気もしなくもなかったが、私にとってはただの薙ぎ払い。
足を少し下げるだけで、簡単にかわす事ができた。
「龍斬」
薙ぎ払われた槍が、今度は下に叩きつけられる。
それも私は足を一歩動かすだけで回避した。
「龍殺」
続いて叩きつけられ、リングを削った槍が、私の心臓目掛けて、真っ直ぐに突き出された。
これも足の一歩で避けられると感じたが、どう体を動かしたとしても、槍の先端は私の心臓を捉えていた。
龍殺
龍の堅牢な皮膚に護られた心臓すら貫く、龍騎士最強の刺突攻撃。狙われたら最後、例え空間を捻じ曲げたとしても、その先端は心臓に届くだろう。
中々のチート攻撃。てか、武術大会で美少女相手に繰り出す技じゃない。
こんな絶世の美女を殺そうとするとか、正気ですか?
まぁ、当たった所で死にませんし、そもそも当たりませんけど。
私は飛んできた槍の先端を、力任せに剣で叩き落とした。
見た目がカッコイイという理由だけで選んだ、切れ味皆無の鉄の塊が、槍の先端を圧力だけで捻り潰し、リングに埋める。
スキルを使ったわけではないが、周囲には風が巻き起こり、リング上では爆音と共に砂埃が舞った。
世の中の正解は、レベルを上げて物理で倒す。
力こそパワーなのだ。
ドラゴンの槍を粉砕した私は、優しくドラゴンの体を蹴り飛ばした。
そして、リングの上に戻ってこれないよう、拘束のスキルを発動させた。
「ド、ドラゴン選手リングアウト。カ、カウントを開始致します。ワン、ツー、スリー…」
心なしか、今までの試合よりも遅いカウントがスタートする。
会場も静まり返っている。
ドラゴンも倒してしまえと、試合前には何人か口にしていたが、本当にはドラゴンの敗北など望んでおらず、受け入れてもいないようだった。
決勝なのに、バトルオッズは私が100倍でドラゴンは1・2倍だもんなぁ。
人族最強は伊達じゃない。
でも、勝ったのは人族最強じゃなく、魔族最強の魔王様なのです。
「ファイブ、シックス、エイト…」
本当にカウント遅い。
心なしなんかじゃなく、確実に遅いし、更に遅くなってもいる。
私がダウンでもしようものなら、めちゃくちゃ早くカウント数えるんじゃないか?この審判。
それはそれで、ちょっと見てみたい気もした。
「龍炎」
カウントがナインに差し掛かった所で、赤い炎が天を舞い、空からドラゴンが落ちてきた。
拘束のスキルは解けていないが、ドラゴンの手には先端の尖った小石が持たれており、そのままスキル「龍殺」を発動してくる。
どう避けたとしても、小石の先端は私の心臓を目掛けて飛んでくる事が決定したわけだが…。
「キック」
蹴り飛ばしてしまえば関係ない。
私はさっきよりも、少しだけ力を加えてドラゴンを蹴り飛ばした。リングアウトしたドラゴンの身体が、地面を削り、壁にめりこむように突き刺さる。
力の加減って、ほんと難しい。
でも仕方ないよね。自分、不器用ですから。
多くのステータスがめちゃくちゃ高いくせに、器用さのステータス、めちゃくちゃ低いんだよね。私。
「ド、ドラゴン選手再びリングアウト。カ、カウントを開始します。ワン、ツー、スリー」
先ほどとはうって変わり、普通か、寧ろ少し早いくらいのカウントがされる。
審判は長年の勘から、ドラゴンの勝利を諦めたらしかった。
会場からも同じように諦めの空気が漂っている。
「ナイン、テン。しょ、勝者モロゾフ・ゾラ選手」
審判から私の勝利が宣言される。
歓声はなかった。
しかし、少しの間を開けてから多くの歓声が会場を包み混んだ。
私への歓声ではなく、駆けつけた救護班の手を借りる事なく、立ち上がったドラゴンが、天に向かって拳を突き上げたからだった。
人族最強は例え負けたとしても、英雄であるらしかった。




