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魔王と国と町娘

転移で移動した先は、村というより町だった。しかも町の中心にバカでかい城が聳える、城下町というやつだ。


魔王城からは万里眼を使っても見えなかったから、ここは私の知らない未知の場所という事になる。


未知とか怖い。てか私は自宅に転移したはずだぞ?

なんでこんな、よう分からん城の前に来てるのよ?


『さて、なぜでしょうね』

「やったなシーちゃん」


やりやがったな。

子供の就職活動に介入する母親かよ。

こんな会社に応募した覚えないよかーさん!!って気分。私は、そんな気分味わった事ないけど、まさか異世界でその味を知るなんて。


知った感想としては、胸糞である。


『起こったものは、怒ったところで仕方ありません。さっさと諦めて行動してください』

「シーちゃん、友達ができたら真っ先にリストラするから」

『出来るといいですね。と・も・だ・ち』

「きーっ」


ムカつく。

でも、怒りなんて無意味。

アンガーマネジメントを極めている私の怒りはすぐに中和され収まった。


精神スキルが働いてるだけだけどね。


という事で、冷静になった私は改めて辺りを見渡した。まったくもって知らない場所。でも大丈夫。私には未知を知に変えてくれる鑑定さんが付いている。これさえあれば、城だろうと町だろうと穴の場所まで丸裸。自分やお母さんの知らない所まで、丸見えなんだから。


という事で鑑定発動!

まずは城からスケスケにしてやんべ。


ロスト城


ユグド歴144年に建てられて以降、現在まで約1000年の間形を保つ世界最古の城。

城主は何度も成り代わり、現在はガレーン・ロスト14世が所有している。

玉座の間の後ろに秘密の階段があり、階段を降り扉を開けると、勇者のみが装備する事を許された、武器防具一式が揃っている。


魔族領から最も離れた位置にある事もあり、城に常駐する兵士の連度は低い。


相変わらず凄い情報をさらりと乗せてくるね鑑定さん。


伝説の武器防具一式か。ちょっと興味あるし、ささっと侵入して奪ってしまうのはありかもしれない。


「あなた、もの凄い美人さんね。城をじっと見つめてるけど、異国から国王に招待された踊り子さん?」

「えっ?」


私に話し掛けてきたのは、町人Aって感じの普通のお姉さんだった。でも、見た目の感想なんて全然役には立たないので、取り敢えず君の履歴書を見せて貰ってもいいかな?


ミーシャ・ムゥ

手伝い


レベル4

HP22

MP0

TP30


力11

魔力0

素早さ9

防御力11

器用さ180


パッシブスキル


因果レベル3


昼は食堂で働き、夜は踊子をしつつ、病気がちの母親を養う心優しい娘。なんの因果か厄介な事に巻き込まれがち。自身の不幸を嘆かない強さと優しさを持つ。

白馬に乗った王子様が迎えに来てくれると信じていたが、少し諦めかけている。座右の銘は今日を生きる。


「私の顔をじっと見て、どうかした?もしかして、汚れとか付いちゃってた?嫌だなぁもう」


ミーシャはごしごしと頬の辺りを服の裾で拭った。


「あなた、いい人そう」


私は静かに呟いた。


美しくてクールな見た目をした女の話し方は、静かでミステリアスだと相場が決まっている。


コミュ障だからぼそりと呟いたわけじゃない。私はキャラクター性を大切にする女なのだ。


ほんとだぞ。


「いきなりね。まぁ、悪い人ではないかな」

「わたし、人を見る目、あるから」


鑑定さんの前では、どんな事でも透け透けよ。下着の色からほくろの数まで、ばっちこいです。


じゃあ書けって?

魔王へのセクハラは極刑ですよ。


「ふーん。因みに私は人を見る目はないかも。よく騙されちゃうし、変な人にも絡まれやすいんだ。友達にはトラブル体質だって言われてる。だから誰も一緒に旅行とか行ってくれないんだよね。お金ないから行きたくても行けないんだけどね。ははは…」

「そう」


因果のスキルのせいなんだろうけど、ちょっとかわいそうかも。もしかして、行く先々で殺人事件に巻き込まれる、某少年探偵みたいな感じなのだろうか。


でも流石にあれは、因果レベルカンストしてそう。あれがレベル3だった、10はどないやねんってなるし。


「あっ、ごめんね愚痴ちゃって」

「大丈夫」

「あなたもいい人そうね。見る目のない私が言っても、説得力ないかもしれないけど」

「ありがとう」


私は魔王だしいい人ではないけど、言われて悪い気分はしなかった。


「それで、あなたは何しにここに来たの?外の人ではあるよね?そこまで綺麗だったら、絶対噂になるはずだし。やっぱり城に招待された踊り子なの?」

「…」


ん?そういえば、何しに来たんだ私。

シーちゃんにハメられた事は確定してるけど、なんのためにここに落とされたのか、全然知らんのだけど。


おーいシーちゃん?

心の中で問い掛けたところで、シーちゃんからの返事はない。あんにゃろめ、また何処かに行きやがったな。


「ごめん。言いたくなかった?」

「別にそういう…」


「ハハッ頂き!」

「キャッ。ちょっ泥棒」


私が言い訳をしようとした所で、一人の男がミーシャの手元から鞄を引ったくって逃げていった。


なんというありがちな展開。

これも因果のなせる技か。


などと思いながらも私は、スキルの拘束を泥棒の男に向かって発動した。


知ってるか?

魔王からは逃げられない。


とか、言ってみちゃったりして。


拘束によって、泥棒の男はその場に倒れ地面と熱いキッスをかわす。


めちゃくちゃ痛そうだが、自業自得、

私は悪くない。


「はい、取り返した」


泥棒の男から鞄を回収し、ミーシャに差し出す。


「ありがとう。あなた凄いのね」

「そう?」


知ってる。

知ってるから相手を殺さないよう、攻撃にならない技で絡めとったわけだしね。

普通に攻撃してたら、あの男は冗談抜きに百万回は死ぬ事になる。


私のステータスはマジで洒落にならん位高いし。


「うん。凄い。だから分かっちゃった。あなた大会を彩る踊り子じゃなくて、大会の参加者でしょ」

「…」


えっ、そんなの知らんし違うよ。


「沈黙は肯定と受けとるわ。大丈夫誰にも言わないから。参加がバレたら悪い人に命を狙われる位には、危険な大会だものね。私だって一市民としてそれ位知ってるわ」

「そう」


「でも、そっか。私応援する、強くて美人とか憧れちゃうもの。えっと…そう言えば名前、聞いてなかったね。私の名前はミーシャ・ムゥ。ミーシャって呼んでね」

「わたしは木陰」


この見た目とは、解離の激しい和風な名前です。偽名を使ってもいいけど、名前まで変えると前世との繋がりが本当にゼロとなるため、さすがにそれは寂しい気がした。


私が病む事なく明るく元気でいられるのは、あくまで精神スキルによる、ドーピング効果だし、センチメンタルにはなるのです。


「木陰、変わった名前ね」

「そう?」

「ごめんなさい。あくまでこの町ではって話。外には外の常識があるものね」

「うん」

ミーシャは本当にいい人だった。


「それで、木陰、もし宿とか決めてなかったら家に来ない?外の話とか凄く興味があるの。それに秘密を言いふらさないよう見張ってた方が、木陰も安心でしょ」

「いいよ」


言いふらされても何も困らないけど、断る理由も特にない。

外の話については、うーん。

まぁ、何とか誤魔化すとしよう。


就活によって培われた技術によって、私は真顔で嘘を付く事を得意としていた。厳密には1割の真実を10割に盛って話す事が得意なんだけど、この際どっちでもいいでしょ。


「ならついてきて。それとも先に町を案内しましょうか?会場の下見とかしたいかもだし」

「じゃあ、そっちで」


町を見て回るつもりではいたので、案内は結構助かる。

美味しい物とかも食べてみたいし。あれ?そういえば私、こっちの世界に来てからまだなんにも食べてなくない?


飲まず食わずで何年も元気に生き続けられるとか、魔王の体すげーな。

  



ミーシャに町の案内してもらっている中、パッシブスキルなんじゃないかって位、自然に発動させてしまう鑑定を私はなんとかオフにした。


理由は、ミーシャの説明と鑑定結果が微妙に違う為、正しくは◯◯ね。そんな事も知らないの?(メガネくいくい)みたいな、私の中にいるモンスターがあばれそうだったから。


このモンスターのせいで、私は幼少期に沢山の友達を失くした経験を持っていた。人と話す事が怖くなった、いわゆるコミュ障の原因はこのモンスターにあるんじゃないかって、私は思っている。


マウントウザっ、キモって、言って離れていったケイちゃんとアンちゃんの顔、今でも忘れないもん。


学ぶ事は大事だけど、知識マウントは駄目絶対。


「…じゃあ、次は酒場に案内するわ。木陰は未成年だろうけど、冒険者といえば酒場が定番だものね。今は昼間で少し閑散としてるけど、夜には踊子とかもいて結構賑わうし、料理も得られる情報も美味しいって、評判だったりするのよ」


「ミーシャもここで踊ってるの?」

「えっ、ど、どうして?」

「…綺麗だから」


履歴書を覗いて知ってるとは言えないので、私は何とかいい感じに言って誤魔化した。

綺麗と言われて悪い気のする女なんて、この世にいないのだ。


「そ、そうかな」

「うん」

ほらね。


「ちょっとした手伝いで、たまに、ね。じゃ、じゃあ次行こう次。すぐ裏が武術大会も開かれるコロッセオだから」


ミーシャは顔を赤らめたまま私の背中を押し、入ったばかりの酒場を後にした。



酒場の裏にあるコロッセオは、案内されるまでもなく巨大で目立っていた。

コロッセオに掲げられた第123回武術大会という横断幕も、その目立ち方に拍車を掛けている。


コロッセオ近くの掲示板には、伝説の大会開催。勇者の称号は誰の手に!という煽り文句と共に、巨大なドラゴンの絵とそれに立ち向かう青年の絵が描かれていた。


「知ってると思うけど、今回の大会は勇者を決める大会ともあって、商品も出場者も豪華。なんてったって勝者には勇者の称号と共に、勇者の兜が与えられるからね。まぁ、だからこそ優勝者は半分決まってるようなものなんだけど」

「そうなの?」


「うん。この大会には龍騎手様が出場するの。若くして人族最強と呼ばれる方だから、それこそ、魔王でも連れて来ないと勝てないと思う。知ってる?魔王が復活したって?」

「うん」

だって、ここにいるし。


「そっか。やっぱり噂は本当だったんだ。でも、そうじゃなきゃ勇者選出の大会なんて開かれないよね…」

「…」


なんか今、聞き捨てならない事を言わなかった?勇者を選出?勇者って魔王と同じで、ぽっと人族から生まれるんじゃないの?


少し見てみるかな。

鑑定発動。


第123回武術大会。


2年に一度開かれる格式高い武術大会。魔王が誕生に伴い、世界一の強者を決めると同時に、魔王に対抗する勇者を選定する大会として運用される事となった。

出場するには、一つ以上の武功もしくは武功者からの推薦状が必要。

勝者は勇者として、ロスト国の膨大なバックアップの下、魔王討伐に向かう事となる。

英雄達よ今こそ世界の為に立ち上がれ!


鑑定結果を見て、私は少しばかり考えた。


世界一強い人族を勇者にする。

確かに利には叶ってる。そして、魔王である私にとってこれは、物凄くチャンスなのではなかろうか。


私が勇者になっちゃえば、魔王が勇者で勇者が魔王なわけだから、突撃勇者のBANご飯みたいな感じで、魔王城突然の訪問に怯えなくても済むじゃん。


まっ、魔王城はもうないんだけど。

鑑定した結果、あのクレーターの中に沈んだんだよね魔王城。沈んだというか、消し飛んだ。いや、消し飛んだというか、消し飛ばした?


兎にも角にも、魔王城はもうないのです。


「でも木陰なら、もしかしたら龍騎士様にも勝っちゃったりしてね。流石にそれはないか」

「頑張ってみる」

「うん。応援するね」

ミーシャはにこりと笑ってみせた。


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