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世界が聞いた声

その日、世界は神の声を聞いた。


神は言う。間もなく世界に魔王が誕生すると。

神は言う。魔王が世界を滅ぼすと。

神は言う。世界よ魔王を滅ぼせと。



エピソード  ベルフェル



「聞こえたか?」

先代の魔王が勇者に倒されて三百年。いや、それよりも遥か太古から魔族を統括してきた男、ベルフェル・フォーゲン・シュタッドは、側近であるベルオールに話し掛けた。


神の声、神託と呼ばれるものを聞くのは、人族やエルフ族だけとは限らない。


一定の種族の更に極一部にのみ、神託が下る事もあるが、この神託であっても、魔族が例外となる事はなかった。


種族の間で違う事があるならそれは、神の声を信じるか信じないかの割合に過ぎない。


そして、魔族はどちらかと言えば、神の声を信じる者が多かった。


「聞こえました」

「内容は?」

「間もなく魔王が誕生するが、魔王は世界を滅ぼす為、世界は魔王を滅ぼせと、そのような内容でした」


「私が聞いたものと相違ないな」

「如何されますか?」

「魔王は、我々魔族にとって絶対の存在である。が、魔王不在の300年。我々は何一つとして、不都合を被らなかった。寧ろ魔王存命の100年の方が、激動であり、魔族は絶対数を減らした」


魔王は絶対的な力を持ち、魔族を統べる能力もある。しかし、力があるが故に力任せの暴君として君臨する事がままあった。


頭の悪い暴君が描けるのは、魔族による世界統一ではなく、魔族や人族が戦争によって疲弊する未来だけだった。


魔族にとって魔王は絶対である。

しかし、魔族にとって魔王は必ずしも必要な存在ではなかった。


「世界の一部として、魔王を滅ぼすという事ですね?」

「あぁ」

「主君がお決めになられた事ならば、多くの魔族が賛同致しましょうぞ」

「打倒魔王を掲げて魔族からの賛同を得られるとなると、まるで私の方が魔王だな」

「主君こそ魔王に相応しいと、わたくしめは思います」

「はっはっはっ。滅多な事を口にするな。派閥はまだまだ完全にはまとめられてはいないのだからな」


ベルフェルは満足気に笑ってみせたが、慎重な、男でもあるため、部下の言動は制した。


魔王のいない今、ベルフェルが魔族の筆頭である事は間違いなかったが、ベルフェルと同等の力を持つ者は魔族にもいる。


かの者達は、魔王という座に興味はなさそうだったが、かの者達を次代の魔王に押し上げようとする魔族がいるのも事実だった。


特に武神ベリアルなどは、戦争の最前線で武勲を上げている事もあり、強さを慕う魔族からの信頼はかなり厚いものがあった。


上から命令するだけの頭でっかちな上司よりも、同じ釜の飯を食う、現場の叩き上げ上司の方が人気なのは、魔族の世界であっても変わりはしないのた,



「はっ。しかしとなると、魔王討伐はベリアル様が肝となりそうですね」

「ベリアルも部下に害が及ぶとなれば動く。そしてその部下は、ベリアルに害が及ぶとなれば動く。頭まて筋肉で出来ているような奴を動かすのは容易い事だ」



「魔王討伐ともなると、代償としてベリアル様やその部下はは、多くの命を散らしてしまうかもしれませんね」

「倒れるような事があれば、我々は一つの旗の元、一致団結せねばなるまいな」

「まさしく」


「はっはっはっ」

「ふふふふ」


魔王城にて、ベルフェルの笑いとその部下ベルオールの笑いが不気味に響いた。


策略化でもあるベルフェルは、魔王討伐を政治の道具としても、利用しようとしていた。



神が世界を滅ぼすと断言し、神託まてしたにも関わらず、ベルフェルは生まれたばかりの魔王など、ベリアルとその部下だけて.どうにか出来ると考えてしまっていた。



ただこれは、ベリアルとベリアル率いる魔族軍に対して、強い信頼を持つ表れでもあった。




エピソード ドラゴン




神は言った。間もなく世界に魔王が誕生すると。

神は言った。魔王が世界を滅ぼすと。

神は言った。世界よ魔王を滅ぼせと。



頭に響く神の声を聞き、人族の英雄であるドラゴン・ド・ドラゴニアは目を開いた。


日課である瞑想を邪魔された事に多少の不快感は覚えつつも、聞こえてきた神託は、心を高揚させるものだった。



相手を滅ぼすか相手に滅ぼされるか、戦いというのは常にそうあるべきだとドラゴンは考えていた。



しかし、そんな命のやり取りが出来る相手にドラゴンはここ数年会えてさえいなかった。


最後に命のやり取りをしたのは、さて、いつだっただろうか?


相手がベリアルという魔族の武人であった事は覚えているが、それがいつの事だったのか、ドラゴンは忘れてしまっていた。


あの男は強かった。


魔族である以上再びまみえる事はあるのだろうが、今の所その願いは叶っていなかった。


「魔王か楽しみだ」


だが今は、あの男よりも更に強いであろう魔王。

日々怠る事なく錬磨し、磨き上げた技が何処まで通じるのか早く試してみたい。


日々の瞑想に戻ろうとしたが、心の高揚は中々抑える事が出来なかった。


英雄と人々に称えられてはいても、まだまだ心は未熟であるらしい。


ドラゴンは思わず笑みを浮かべた。



「フォッフォッフォッ。まるで糞ガキのような顔をしておるな。ドラゴンよ」

「ビックリするので、突然現れないで下さい」


笑った所で、目の前にローブを羽織った老人が突然現れ、ドラゴンは嘆息した。


神託といい、目の前の老人といい、今日は人生の内でもかなり珍しい事が起こる。


「全然、ビックリしているようには見えんがの」

「何処かのエロジジイに、ポーカーフェイスを叩き込まれましたからね」


「フォッフォッフォッ。久々に会った師匠に対して口が悪いのう」

「師匠から見たら、俺はいつまでも糞ガキですから」


ローブを羽織った老人の名は、リーズ・リーフ・リール。


世界屈指の魔術師であり、世界で唯一大賢者の称号を持つ男である。


そして、ドラゴンを英雄と呼ばれる存在まで導いた人物であり、英雄ドラゴンが唯一勝てないと考える人物でもあった。


文字通りリーズの前では、ドラゴンは糞ガキなのである。


「そういう所は、確かに糞ガキかもしれんの。…じゃがそうじゃな、今のお主なら一矢くらい報いる事ができるやもしれんな」


リーズは瞳を妖しく光らせた後、長く蓄えられた髭を弄びながら口にする。


常人であれば見逃してしまう程の一瞬の輝きであったが、どうやら鑑定のスキルを使用したらしい。


スキル鑑定は、文字通り相手を鑑定するスキルであり、スキルレベルが高ければ高い程、対象を丸裸にする事が出来る。


ドラゴンはリーズの鑑定レベルがいくつかを知らないが、リーズであれば、限りなく高いレベルで所持している事は、容易に想像する事が出来た。


そんなリーズが一矢報いる事が出来ると言ったのだから、本当に一矢報いられる位には強くなっているのだろう。


ドラゴンはより強い自信を心に滾らせた。


「その一矢が、一矢必殺になるよう、精進させて貰います」

「わしを殺す気か?」

「はい」


魔術師はドラゴンの土俵ではないし、戦闘が面白いとも思わないが、リーズクラスとなれば話は別だった。


何よりどんな物語であっても、弟子は師匠を超えていくもので、それが恩を返すという事に繋がっていく。


「こわっ。もうお前の前には現れんとこ」

「で、今日は何をしにきたんですか?」


ドラコンという弟子が女であれば、毎日のように現れたかもしれないが、生憎とドラゴンは男であり、ドラゴンが男である以上余程の緊急事態でもない限りリーズが現れる事はなかった。


余程の緊急事態の予想は、十分付いてはいるが。


「神託を聞いたじゃろ?」

「はい。魔王が復活すると」

「復活ではなく誕生じゃ」

「はあ」


どっちでも同じだろ。とか思ったがドラゴンは黙って頷く。


年を取ると、若者の些細なミスも指摘したくなる。パワハラで職場を解雇になったおっさんが、町の酒場でそんな事を呻いていたが、つまりそういう事なのだろう。


「最近の若者は、ミスを指摘されるとすぐに不機嫌になりよる。酒場にいたおやじが嘆いておったぞ」

「最近の若者って言葉を使うと、最近の若者に嫌われるって事を、今度そのおやじに伝えてあげて下さい」


「わしが、おやじに会いに酒場に行くと、思うかの?」

「思いません」


酒場に行くなら、バニーガールや踊り子などの女目当てで、酒にすら興味がないのが、リーズという男だった。


「流石はわしの弟子じゃ。今度一緒に酒場に行くか?何でも奢ってやるぞい」

「で、魔王の誕生は師匠が動く程、マズイ事なんですか?」


女好きのリーズが、男であるドラゴンを英雄にまで育てあげた理由を知っているドラゴンは、脱線した話は無視し、無理矢理話を元に戻した。


ドラゴンはリーズを強さの面では尊敬もしていたが、性格面は一ミリも尊敬していなかった。


寧ろ、かなり嫌悪していた。


「ちっ。聡くなりよって。まぁ、かなりヤバいの。ワシの直感はバリバリに当たるからの」

「直感ですか?」


前は、わしには未来が見えるとか言ってなかったか?このじじぃ。


「予知でも直感でもなんでも良いじゃろ。一々細かいのぅ」

「はあ」


復活と誕生の指摘はしてきた癖に。

じじいが若者に嫌われるのは、こういう所なんだろうなと思い、ドラゴンは嘆息した。


「なんであれ、今度の魔王はかなりヤバい。わしもわしのハーレムの為にできる限りの事はしてみるが、保険は必要だと思っての」

「俺を保険に使うと?」

「わしのハーレム保険としては、ちと弱いが、お主はまだまだ若いからの。未来を憂えるという意味では、保険はピッタリじゃろ?あれは、心配や不安につけこんだ商売であるしの」


「はあ」

「て事で、お前は勇者になっておけ。厳密にはロストの国が抱えておる、勇者の武具一式を奪え。アレらは魔王に対する特効を持っておるからの。多少中身が弱くとも一矢報いる事が出来る。いや、お主であれば、一矢必殺で魔王を殺せるやもしれん。フォッフォッフォッ」


「俺に泥棒をしろと?」

「元々、ただのコソ泥ではないか」

「今は英雄と呼ばれてますよ」

「フォッフォッフォッ。であれば英雄として、堂々と貰いにいけば良かろう。世界に有事が起こる事は、世界が知っておるのじゃからの」


「まさかとは思いますが、師匠主体ではなく、師匠が使いじゃありませんよね?」


ドラコンはここ数年山に引きこもっていた。引きこもっていたが故に強敵とは会わず、引きこもっていたが故に強くなったと自負もしていた。


そんな引きこもりのドラゴンを呼び戻す為に、女という報酬でリーズを国王は操ったのではないかと、ドラゴンは疑った。


この男であれば、そんな事で簡単に動くからである。


「馬鹿かお主は、神託があったのはついさっきじゃぞ、わしが主体的に動いたに決まっておるではないか」

「あぁ、そうか。すみません」


確かに神託がきたのはついさっきの事で、時間的にドラゴンの予想は辻褄が合わなかった。


「わしの予知では、そうなる予定じゃがの」

「何か言いましたか?」

「いや、ワシは何事も手早く済ませる。仕事の出来る男という事じゃよ。フォッフォッフォッ」

「まぁ、いいですよ。元々後一月もすれば、山を降りる予定でしたから」


それが多少早まった所で何も問題はない。

問題があるとしたなら、氷山の長である氷龍の寿命が一ヶ月縮んでしまった事だろうか。


氷龍の寿命など、ドラゴンには関係ない事だが…。


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