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③地方公務員の談

 その日、中学の同級生で、職場の市役所では後輩になる谷川君が声を掛けてきました。

「───なあ、竹山。ちょっと付き合ってくれよ」

 と。そして私は、休憩室へ連れて行かれました。



 私の母方の祖母は、住職さんの娘だったそうです。そのせいなのか、私は人並み以上に霊感がある様で、中学のときも色々と相談を受けていました。そして、その日の谷川君からの相談も、そんな内容でした。


 とある空き家に心霊的な噂が有るそうです。その噂とは、その家が祟られていると言うもので。なんでも、一度解体業者が入ったそうなんですが、呪いの祭壇の置かれた部屋に入ると、霊障にあうそうです。

 それで二度行くと軽い事故に遭い。三度行くとかなり危険な事故に遭い、実際に亡くなられた方も居るそうで、その業者の従業員は、どんどん辞めていってしまったそうです。


 それ以前にも女子高生が悪戯をして祟られたとかもあったそうで、そんな祟られるなんて噂が業界で広まると、その物件に手を付ける業者が居なくなってしまい。所有者から処分の相談を受けた谷川君が、私のところへ泣き付いて来た様です。



 ですが、私は税務課です。「担当じゃない」と言ってやると、住宅課の谷川君はしょんぼり肩を落としました。そもそも、私はお祓いとかはよく分からないので、相談されたところでなんの力にもなれません。

 これで厄介な相談を取り下げてくれると思ったのですが、谷川君は、

「焼き肉···ケーキ···ビール···寿司」

 と、魔法の呪文を唱えました。



 私は谷川君と件の物件を見に行ました。確かに如何にもな雰囲気を醸し出して居るお家です。そして確かに“居る”お家でした。

「竹山···どうだ?」

 私は谷川君に、感じたままに「湿っぽい」とか「カビ臭い」、それと「拒んでる感じ」と答えました。

 すると谷川君は、私の話なんか気にも留めなかったようで、鍵を取り出して玄関に向かって行きました。

 私は声を止めようと声を掛けたのですが、

「1回だけなら大丈夫だって!」

 何でしょうか、癇に障る無責任な台詞でした。



 谷川君は私が居るせいか強気になってしまった様で、何の躊躇も無く玄関の鍵を開けました。

 その瞬間です。私は溺れた事が無いので違うかも知れませんが、一瞬溺れた様な感覚を覚え、咽てしまいました。

「竹山?! 大丈夫か?」

 谷川君は特に影響を受けなかった様で、私の心配をしてくれました。


 そして、きっとここの霊は水に関わるモノなのだと、その時確信しました。

「竹山···やっぱり、止めるか?」

 谷川君は私に起こった霊障を見て、ようやく怖気づいた様ですが、「大丈夫、これくらいならまだ平気」と、そこからは私の方がリードして行きました。



 玄関に入ると、まるで水の中に入った感覚を覚えました。私の感覚的なモノで、上手く説明出来ないのですが、当然呼吸は出来ていますし、視界は明るく音も聞こえていますが、何かフィルターが掛かっている様な、手足が重く、何かが纏わりついているような、自分の感じている事が現実では無い···そんな感じでした。



 家の中は足跡でいっぱいでした。玄関から右側の足跡が多かった事から、業者の方も左は嫌だったのでしょう。

「竹山···左側、空気が···なんか可怪しい···淀んでる?」

 谷川君がそう感じるのも無理はありませんでした。だって左側、直ぐそこに居たのですから。


 それは形が曖昧で、多分頭の様なものが高いところにあって、谷川君を見下ろして、「帰れ」と言っているようでした。

 私は恐る恐るそれを見上げました。「気付いているぞ」、「見えているぞ」と、そう思念の様なものを飛ばす感じで語りかけると、それの顔が私の目の前に、一瞬で移動して来ました。


 鼻先が触れるか触れないか、そんな位置にピタリと付け、二つの黒い眼孔が、私の心を覗いてきました。

 私はひたすら聞きました。「何か、やり残した事はあるか?」と。


 霊は素直です。そう聞けば未練を語るか、引き摺り込もうとするかの、だいたい二択です。後者の場合は逃げますが、ここの霊は前者でした。


 それはズリズリと、ついて来いと言っているかの様に、家の左側の奥へ進んで行きました。

「竹山···なんか、床に跡が出来てる気がするんだが···?」

 竹山君はそう言いますが、実際に跡が付いているなんて事は無く、谷川君もそれの気配を感じているだけです。

 私はそれを追いかけました。谷川君はついて来るのを躊躇していましたが、一人が怖くなったのか、直ぐに追い掛けて来ました。



 そして、私達は例の部屋の前に立ちました。

「何だよこれ? ···これが呪いの儀式なのか?」

 谷川君はそう言いました。確かに祭壇に掛けられた白の布には、腐ったお供え物の汁が、おどろおどろしく染み込んでいて、お神酒が入っていただろうグラスは、カビが生えていて、見た感じは呪いの儀式でした。


「何だ? 喉が渇く···」

 祭壇の裏から此方の様子を窺っているそれにあてられたのか、谷川君も私も喉が渇きました。

 谷川君は水分を摂ろうと、バッグからペットボトルを取り出したのですが、「待って! 谷川君、飲んじゃ駄目!」、私はそう叫び、谷川君を止めました。

「え? ···うわっ! 虫が···!!」

 谷川君は驚いてペットボトルを落としました。ペットボトルの中には、いつ入ったのか線虫が湧いていたのです。


 まさに祟りと言った感じでしたが、私はようやく気付く事が出来ました。

 そこに居た···いいえ、いらっしゃったのは、神様···。たぶん、井戸の神様···水神様です。


 私達は水神様を祀っていた祭壇を清掃する事にしました。布の染みは取りようがありませんので、干乾びたお供え物を捨てて器を拭き、庭で花を摘んで供え。取り敢えず二拝二拍手一拝で御挨拶をして、その日は逃げる様に帰りました。



 それから私と谷川君とで、定期的に御参りをする様にしました。そして祭壇の奥の中庭に、枯れ井戸が有るのを見付けました。

 きっと水神様は、水を守りたかっただけなのでしょう。でも、あのまま放って置いて犠牲者が増えていけば、何れは本当に祟神になっていたかも知れません。

 私には神様を供養? 鎮める? なんて事は専門外なので、今は谷川君が専門の方を捜しているところです。

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