①女子高生の談
お昼休みに友達のジュンと話をしている時でした。「午後の授業ダルい〜」の流れから、ジュンがSNSの画面を見せて、唐突に話を振ってきました。
「ねえケイコ、これ見た? この空き家、心霊写真が撮れるんだって!」
そんな事を言ってきたので、私は「加工してるんじゃない?」と、疑いました。
「そうかも知れないけど···本当かも知れないじゃん!」
かも知れない時点で望みは薄いですが、ジュンはその話を盲目的に信じている様でした。
私が一向に信じようとしないでいると、ジュンが「実は···」と、勿体ぶってから言いました。
「···3年A組の不登校になった先輩居るじゃん···あれ、呪われたんだって!」
私が「それがマジならマジで駄目じゃん」と返すと、
「マジ。私、今日行くけど、ケイコも来るでしょ?」
私は「···マジ?」と我が耳を疑いました。
「マジ!」
と、ジュンに追い打ちを掛けられ、ジュンの事が心配になった私は、仕方無くついて行く事にしました。
放課後。ジュンの後を追って自転車を走らせ、辿り着いた大きな空き家の庭は草ぼうぼうで、投げ捨てられたゴミが散乱していて酷い有り様でした。
そして余りにも古びた家の様相に、「マジかも」と思いましたが、窓ガラスが割れている所が有り、心霊写真や動画も「やはり風や動物の仕業では無いか」、とも思えて来ました。
呪いを信じている割には、ジュンは呆れる程にノリノリで、早速スマホを取り出し撮影を始めました。
ブロック塀からの顔を覗かせ、ジュンは家に向かって左側にスマホを向けました。私はジュンの頭越しに画面を覗きましたが、写っているのは、ただのボロ家でした。
家の左側の撮影に飽きたジュンは、撮影箇所を右にずらして行きました。そして、スマホのカメラが、近代的な改修をしてある玄関を捉えたとき、私達は有り得ないものを見てしまいました。
「···開いてるよね?」
と、ジュンが聞いて来たので、私は同意を返しました。
実はずっと開きっぱなしなのか、前の撮影者がこじ開けたのか、まだ普通に所有者が出入りしているのか、理由は分かりませんが、スマホの画面に写る玄関には、少し隙間が開いていました。
私達は足元から玄関までを目で追いました。しかしそこには草が踏まれた跡が有りませんでした。それは、ここ最近は誰も家に出入りしていないと言う事の、紛れも無い証拠でした。
「ちょっとだけ! ちょっと見るだけだからさ!」
私の制止も聞かず、ジュンは好奇心のままに草むらに踏み込んで行きました。
私もジュンを追って玄関に着くと、扉はピタリと閉まっていました。
私は何か寒気がして、ジュンに帰ろうと言いましたが、ジュンはドアノブに手を伸ばしながら言いました。
「閉まってたら諦······」
ジュンは言葉の途中で固まりました。
玄関には鍵が掛かっていませんでした。そしてそれは駄目だと分かっていても、冒険心には勝てず、私達は家の中に入ってしまいました。
お邪魔しますと挨拶をして、私達は玄関に入りました。床は埃だらけで、靴を脱いで上がろうとは思えませんでした。
私はそのまま玄関で待つ事にして、ジュンは「ごめんなさい」と先に謝ってから、土足で家に上がりました。
ジュンが玄関から左に行って少し経つと、突然「ガタン!!」、「バタバタ!!」と、大きい物音が聞こえ、私は咄嗟に家に上がり、物音がした方へ走りました。
玄関から左に向かい、縁側に沿って右に曲がったその先に、私はジュンの姿を見付けました。
ジュンは助けを求めている様な、何か悶えている様な、溺れている様な。苦しんで首を抑えてみたり、手足をバタつかせてみたり、挙句の果てには、まるで井戸の底からよじ登ろうとしているかの様に、壁を引っ掻いていました。
「ジュン! ジュン、しっかりして!!」
私がジュンの元へ駆け寄ると、ジュンが開けたのか元からなのか、部屋の障子が開いていました。
私は部屋の中を見ました。そこには雛壇の様な階段状の台に、白い布を掛けた祭壇の様なものがありました。
何かの儀式かと思い、私はついその祭壇に興味を引かれてしまいました。
そこには花瓶と枯れた花、腐って干からびた野菜の様なものが有りました。
そして祭壇の一番下。布が垂れた隙間を見た瞬間。空気がじめっと重く纏わりつく様になり、私はそこから、ナニカが這い出して来るのを見てしまいました。
背筋がゾッと寒くなり、プツプツと鳥肌が立ちました。
「ジュン! 逃げる! 逃げるの!!」
私は恐怖から、無我夢中でジュンを引き摺り、玄関を飛び出して、急いでドアを閉めました。
ガチャガチャガチャガチャ!!
と、私がドアノブを放すか放さないかのタイミングで、ドアノブが激しく動きました。
私は鍵を閉めていません。なのに鍵が掛かっているのか、ドアは開きませんでした。
私はただ真っ直ぐ立って、玄関のドアを見たまま放心していました。
「ゲホッ···ガボッ!」
「ジュン!?」
私が声のした足元に目を向けると、ジュンが濁った水を吐いていました。
私は無事でした。でも、ジュンは、水を怖がる様になってしまい、まともな生活を送れなくなってしまいました。
アレは何だったのでしょうか? 何か細い、枝の様な···腕···? そうです。きっとあの家には、沈められて殺された女性の幽霊が取り憑いているんです。