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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
2章ー紅天女の黒い華

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倉庫群へ


 「居ない、リンカ(真理愛)が何処にも」


 逆柱達との連携が上手くいっていないことは感じていた。


 普段からリンカ(真理愛)を彼らの眼に守らせていたが、今は完全に彼女を見失っている。

 逆柱に護衛を指示しているのに、まるで護衛対象を認識できないかの様な動作をするのだ。


 どうしてか理解らない。俺の目では、逆柱達に故障を見いだせない。


 ――当然である。原因は墨谷七郎にあった

  

 逆柱達は七郎の指示音声と、接触による魔力接続でイメージを読み取り、高度な条件分岐を処理して行動を判断する。


 だがここ最近、墨谷が発する指示音声も魔力による接続も、ノイズ塗れの支離滅裂なものが多くなっていた。

 そして昨晩のクジャクの問い。これが七郎と逆柱達の、致命的な齟齬(そご)の引き金になったのである。


 突きつけられた真理愛の死と、重ねられた哀れな少女の存在。七郎の心は混沌とした認識を揺蕩(たゆた)う。


 無数の逆柱達の中に少数存在する指揮官機は現在、管理者である七郎との接続が途絶えたと自己にて判断。

 七郎の管理下にあった影収納外全柱を率い、以前の隠れ家にて迷彩したまま停止している。

 

 もはや彼による再起動を逆柱達は受け付けない。

 いや正しくは今の墨谷七郎に、【死停幸福理論】の共犯者たる資格が無い。

 人としての狂気を棄て、獣に堕落しつつある彼には。


 「旦那っ! やっぱりあの子は居ないんですかっ?」

 「彼女が義瑠土の入り口付近で誰かと話していたのを見た人がいますっ。でもそれ以降は……」

 「くそっ。警戒してたのに、どうして」


 クジャクや裕理、カルタもリンカの行方を追っていた。

 クジャクは人目が多い義瑠土内で、ユイロウ流操糸術による警戒網が張れなかったことを悔やむ。


 「リンカ……!」


 烈剣姫は青い顔で友を案じ、カルタに至っては凶悪な目つきで戦闘準備に入る。

 すでに誰の仕業か、確信を持っているのだ。


 「クジャク様、行きましょう」

 「……! あたしは何を躊躇(とまど)っていたんだろうね。……レンメイに挨拶しに行こうか」


 「待ってください。まだレンメイが攫ったと決まったわけでは……」


 義瑠土を勇み足で出ようとするクジャクとカルタを、裕理(ゆうり)が留める。

 

 そんな彼女の携帯電話に着信が入った。

 

 この携帯電話は私物でなく、魔導隊に支給される社用携帯のような物だ。


 「なんですこんな時にっ」


 携帯の電源を切ろうとした裕理だが、画面に表示される名前を見て動きを止める。

 おもむろに通話ボタンに触れた。


 「……なんの用です」

 『ああ裕理ちゃん。謹慎とかお疲れー』

 「どの口が」

 『オレに舐めた態度とったからしょうがないよな。教育なんだよこれは。これに懲りたら“まとも“になれよ?』


 犬神康孝(いぬがみやすたか)からの着信。

 おおよそ理解できない、身勝手な言い分を半笑いで語っていた。


 「犬神……あなたと共に居たレンメイ、あの女は全く信用できません。理解らないのですか?」

 『はあ? なに嫉妬? 女同士の争いってやつ』

 「私達はレンメイが密売コミュニティと繋がる証拠を手に入れました。ラコウでの身分も虚偽の疑いがあります。……犬神……あなたも魔導隊員なら正しい判断を――」


 『それ“上”に持ってったら、今度は謹慎じゃ済まさなくするぞ』


 「犬神っ! あなた、まさか知ってて協力を!?」


 『知らねえよ。うるせえ。お前はオレに頭下げてりゃいいんだ。それだけの話なのに、要らないことしやがって……めんどくさっ』


 「――」


 予想以上の、犬神の救いようのない人間性に裕理は絶句。

 苛立ちを隠そうともしない犬神だったが、今回の連絡の趣旨を思い出し話を続ける。


 『そうそう、レンメイから伝言を頼まれたんだよ。“場所は分かってるんだろ赤髪の異世界人? 獣人混じりと、それに……陰気な目をした男も連れて来い”だってさ。お前らが捜してるラコウ人が大事なら、言う通りにした方がいいと思うぞー』


 「オマエっ、リンカを攫うのにも一枚噛んで……っ……レンメイが行ったのは誘拐です。そ、それを理解して言ってるんですか……?」


 『怪しい異世界人囲って謹慎になった女と、官僚の親父を持つオレ……どっちを上が切り捨てるか。よく考えろなっ? なっ?』


 そこで電話は切れた。

 

 「……」


 その場に居た全員が、怒りに体を震わせる。

 目の据わった烈剣姫。

 冷え切った顔貌(がんぼう)の紅蓮の2人。


 「ああああああああっ!!」


 携帯を床に叩きつけ、沸点を越えた“あかいくつ”が叫ぶ。

 

 今まで理性的に振る舞ってきた。妹分の伽藍の手前、模範としてあるべく。


 「ふー……」


 息を吐くと、自分でも驚くほど自然に覚悟が決まる。

 伽藍の憧れを汚し尽くす犬神など、もはや同僚でも何でもない。


 こちらが屈する理由なんてひとつも無い。


 「魔導隊の立場なんて、もう知りません。リンカを助けに行きましょう」


 全員が密売コミュニティの拠点に踏み込む覚悟を決める中……。

 

 墨谷七郎は殺意と、少女を再び失う恐怖で(はじ)ける心を必死に押さえつける。


 ――俺の腕の中にあった、冷たくて軽い彼女

   2度と“そう”してなるものか


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