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深夜の会議


 もう少しで日付が変わる時刻。

 義瑠土(ぎるど)所有施設の一室にて、俺は重い空気の中にあった。

 紅蓮の3人の他、(しろがね)伽藍(から)灯塚裕理(ひづかゆうり)、さらにフレイヤまで呼ばれている。


 「今日、上層部から連絡があり……私が呪物捜索から外され、謹慎処分を言い渡されました。不当に異世界人を搾取しているとの疑いが掛けられています。十中八九、犬神の手回しです」


 「犬神とあのラコウ人2人だけで、全部解決できるわけないっ。魔導隊と義瑠土を大規模に動かしてコミュニティに踏み込む気なの?」


 「最終的にはその必要があるでしょうが……まだ組織内部の調査段階だからこそ、私たちが少数で動いていたんです。無策で踏み込めば、いたずらに戦闘の被害を広げかねない」


 ――それに……


 裕理は更に不可解な点を挙げる。


 「それに現状、魔導隊でコミュニティへ武力突入する計画はありません。犬神からの調査進捗が全く無いようで……あの男、いったい何を考えているのか……」


 「……ともかく、あたし等の存在が迷惑掛けてるのは確かみたいですね。みっともない限りだ」


 「いいえ、クジャクさん達の仕事に此方(こちら)が助けられているのです。あなた方に責任はありません」

 「伽藍が安易に巻き込んだから……ごめんなさい」


 クジャクは頭を下げるが、裕理と伽藍もクジャク達に申し訳なさを感じている。

 

 元は俺への協力依頼を通して紅蓮が巻き込まれた形であるが、すでに彼女達は呪物捜索を担う仲間。

 裕理とクジャクは、互いの実力や人柄に信頼を置いていた。


 「犬神とやらの動きは、後ろでレンメイが糸を引いているに違いない。ヤツの動きを最後まで追えなかったのは、悔しい限りですがね」


 「レンメイとクジャクさんは、向こうで知り合いだった?」


 今まで詮索を避けていた裕理も感じていたことだ。

 ついにその疑問を伽藍がぶつける。


 レンメイとの因縁を正直に語ってしまえば、自分達の暗い来歴が暴かれるのと同義。

 しかしレンメイの持つ業、危険性を知らなければ……裕理たちは成す術無く殺されるだろう。


 「――……。」


 話せば裕理と伽藍の信頼を失う。

 紅蓮の女主人は、僅かに逡巡した。

 

 リンカの、友達との別れを惜しむような表情が心に刺さる。

 それでも彼女達の命には代えられない。

 リンカも気丈に頷き、カルタはフレイヤを見るが……すぐ目を伏せた。


 クジャクが口を開きかけた時、男の目くばせに気付く。

 双子による強襲の後、身分証の偽造にまで手を染め(かば)ってくれた墨谷七郎。


 「(旦那……ここまで来て隠し通すのは無理ってもんです)」


 クジャクも自分の出自に深く関わるレンメイの事は、七郎にも詳細を伝えていない。

 絡新婦の追跡から救ってくれた恩人であるが、娘たちの安全の為にも、背景の見えない男に全てを明かすことを躊躇ったのだ。


 「あの女はユイロウ=レンメイ。操黒糸術という、糸を用いた殺人術を扱う実力者だ。山海連邦国家ラコウの統治貴族、その半数から懸賞金が掛けられる手配犯でもある。密売、殺人代行と言ったあらゆる悪事に手を染める“絡新婦”の首領にして……日本で盗み取った幾つかの品を、例のコミュニティに持ち込んでる」


 だから教えてもいない絡新婦の情報と、誰も知らなかったコミュニティとの繋がりを平然と話す男に、女主人は驚きながら疑念を抱く。


 ――このお人は、本当に何者なのか?


 ただ、確かに言えるのは。


 ――リンカは……あたしの娘は、底の知れない厄介な男に懐いちまった


 母親代わりとして、娘が辛い思いをしないよう願うばかりである。


 ・

 ・

 ・


 「ヤツメ家によるレンメイの身分保障が嘘? コミュニティに盗品を売りさばいている……? 何処でそんな事を調べたのですか」

 「犬神は、騙されてる……?」


 裕理と伽藍が俺の言葉に懐疑的に言葉を返す。

 

 根拠や証拠の欠けた現状では、当然の反応。

 いくらレンメイを怪しく感じていても、荒唐無稽(こっけいむとう)な話にしか聞こえないだろう。


 では証拠から埋めていこう。


 「これはウィレミニア主導国家に記録されているレンメイの情報」


 全員の前に、異世界から取り寄せた情報……それを転写した書類を広げる。

 

 ……同系列の情報に“紅天女”の内容もあったが、これは伏せておく。


 俺がシルヴィアに頼んだ渡来歴の改竄(かいざん)と、紅蓮と絡新婦(じょろうぐも)の情報収集。

 シルヴィアは、工作できる場所に居る協力者へ指示したわけだ。


 改竄と情報収集……異世界に渡来可能な立場にある協力者の仕事には大きく助けられている。

 ()が望む報酬を、早く形にしてあげなければ。


 「書類自体はコピーですが……ゲート管理部と異世界国交省の認印が……あなた、何処からこれを……」

 「俺も義瑠土や帝海都に知り合いは居る。多少のツテはあるんだ」


 ――嘘は言っていない


 「これを知っていながら、魔導隊はレンメイと協力してるってこと? それじゃあ犬神が犯罪の片棒を担いでるのも同じ。魔導隊がそんな……そんな事をするワケないっ」 


 伽藍は書類を見て、‘信じられない’と表情を歪めていた。

 いくら性格に問題がある犬神でも肩書は腐っても魔導隊。少女の憧れを、再び墨谷が否定する。


 「騙されているのか……単純に丸め込まれているのか。犬神なら、ありえる」


 裕理はこめかみを押さえ、同僚の不始末を嘆く。


 「で、裕理さんとクジャクさんが調べた通り、コミュニティの活動拠点は……海に面した、ある企業所有の倉庫群。そこで撮った魔力干渉保護されたカメラの写真だ」


 書類の上に重ね広げたのは数枚の写真。

 倉庫群を監視している人工魔:逆柱。その一柱に埋め込んだ撮影機能で取られた画像である。

 レンメイの索敵能力を考え、随分遠方から取られた画像であるが、そこには倉庫群奥のビル前で堅気でない男達と話すレンメイの顔が写されていた。


 夜な夜な電信柱から有線でデータを取り出す男。客観的に見れば相当怪しい光景である。


 「まあ、やっと揃えた情報だけど……“あかいくつ”が魔導隊から除名される寸前の状況じゃあ、証拠として魔導隊に提示できないか……。そもそも公僕でも無い俺が集めた情報に、信ぴょう性が無いと言われればそれまで」


 「ですが、レンメイが信用ならない女である確証が持てました」


 「絡新婦っていう組織は、ラコウでは表向き貿易商を装っていた。……同じく貿易商であった紅蓮の商売敵……。それに、クジャクさん達はラコウに居た時から何者かの襲撃にあっていたそうだね」


 「……ええ、まあ……旦那にはお話ししていましたね」

 

 「長年の商売敵であった絡新婦レンメイと日本で再会……異世界の術を用いる黒装束の襲撃……偶然じゃないと思う」


 無論、クジャクも襲撃者が絡新婦であることは百も承知。

 これはクジャクとレンメイの関係を(ぼか)し、クジャクの身の上を隠す為の方便である。


 「ウチの呪物を奪い取ったのが黒装束のヤツらで……レンメイって女の人が怪しい所に盗品を持ってってる。絡新婦がウチを襲った犯人なわけ?」


 フレイヤも呪物強奪の犯人と絡新婦を結び付けたようだ。


 「じゃあ伽藍達でレンメイを捕まえればいい」

 

 「待ちなさい伽藍。クジャクさん達を襲った黒装束、フレイヤさんの家から呪物を奪ったのも黒装束……同一犯に思えますが、それらがレンメイの指揮下にあった確証が無いんです。それに、動こうにも私は謹慎中です。まずはこの証拠写真と書類をどう使うか…………今日はもう遅い時間です。明日、仕切り直して話し合いましょうか」


 裕理の提案で、その場はいったん解散。


 フレイヤも今日はカルタの部屋に泊まっていく。


 俺は今日も1人、コミュニティが根城にする倉庫群に向かおうと思ったが


 「旦那……お話があります。この後あたしの部屋にいらしてください。待ってますからね」


 クジャクに呼び止められ、彼女の部屋を訪れることになったのだ。


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