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模擬戦(3)


 「リンカ……戦えるの?」

 「足手まといにはなりません」

 「じゃあ……2人同時でいいなんて、調子に乗った七郎に思い知らせてやろう」

 「思い知らせるなんて、そんな……でも……頑張ります」


 伽藍(から)が下段に剣を構えると同時に、リンカが‘ふわり’と横に移動した。

 七郎の斜め後ろ、視野外に位置取る。


 少女2人がタイミングを合わせ攻め掛かろうとした時、七郎は奇妙な動きを見せる。


 両の手に剣を持ったまま脱力。

 上半身が地面に向かい落ちていく。


 しかし、男の腰から下は動かない。踵が微かに浮くのみ。


 七郎にとっては仲間の仇。

 剣筋も、足運びも、人外の可動域を駆使した斬撃も。


 ――彼女を倒す為に、俺は血眼になって学んだのだ

   真似ることぐらい、造作もない


 「(なに、あれ?)」


 奇怪な構えに警戒心を抱く伽藍であるが、七郎の次手を見逃すまいとする。

 研ぎ澄まされた意識は、低い姿勢で七郎の足を払いに行く黒影(リンカ)を捕らえた。


  “ふぉん”


 剣が風を切る音。

 

 リンカは七郎の足が消えると、細身の刃だけが首筋にそっと当てられたのを感じる。


 「あ、……?」


 思わず自身の細い首を(さす)るリンカ。


 伽藍は総毛立つ心を受け入れないまま、剣を握り斬りかかる。

 

 伽藍は見ていた。そして恐怖してる。

 以前、霊園山で見た墨谷七郎の戦い方。技術とも呼べない、埒外の膂力でねじ伏せる戦術。

 

 それとは異なる、別種の人外の動きだ。


 「はあっ!」


 一文字の横薙(よこな)ぎ。歪みない剣の軌跡は、光るような残像を見る人の目に残す。

 だが線上に七郎の体は無い。


 「――っ?」


 男の首が目の前にある。その体は、肉など付いていないように軽やかに宙に在った。

 襲い掛かってくるのは、正確無比にして無限不規則の乱撃。


 「つ、あ!?」


 伽藍の握る剣が絡めとられるように弾き飛ぶ。

 低い姿勢で後ろに跳び退(すさ)る少女。


 ――目の前に居るのは、墨谷七郎じゃない


 空中から再び着地した七郎の上半身は、空虚すら感じる不気味な脱力のまま。


 「それは、誰?」


 烈剣姫の目には、七郎の体に別の姿が幻視として重なり始める。

 七郎の鬼気迫る、最も強い殺人剣とやらの再現。


 剣士として達人の域にある伽藍は、自身の経験や直感で、再現の先に居る痛ましい姿を感じているのだ。


 肌どころか筋繊維すら持たない白骨の上半身が、流水の如く滑らかに剣を振るう。

 逆に下半身には重みを感じる。女性用の鎧を着る、スマートな重厚さ。


 骨の体、その首の上には、見たことの無い美しい顔が…………。


 「これでも、実物の足元にも及ばない」

 「……ハッ」


 墨谷七郎の再現が止まる。同時に伽藍の幻視も()んだ。


 「あの(おぞ)ましい殺戮姫(さつりくひめ)に…………俺は勝てなかった。でも君の剣なら、いつか彼女に勝てるようになるかも」


 透けて見えた幻視が本当に実在したモノなら、剣の持ち主は不死者なのではなかろうか。

 それを“悍ましい”と表現するのは、七郎らしくないと言える。

 

 ――屍鬼すら尊厳あるヒトとして扱った男が、悍ましいなんて言い切る存在って、なに?


 伽藍は考えるも、答えは見えそうに無い。


 「……伽藍をあしらえる程の実力なんて……驚きました」


 半ば呆然とした様子で灯塚裕理(ひづかゆうり)が呟く。裕理の体には、気の昂りと呼応するように魔力が満ちていった。


 「私も一戦、お願いします」


 七郎と裕理の目線がぶつかる。

 “あかいくつ”の所以、紅色の魔力がブーツを覆い回転を始めたその時。


 スーツの内ポケットに仕舞われた携帯電話が鳴った。


 「…………すみません」

 「…………どうぞ」


 しまらない空気。

 伽藍とリンカは、既に模擬戦の反省会に夢中になっている。


 「で、リンカ。さっきからすごい……なんというか、戦い慣れた動きしてない? 説明しなさい。ほら」

 「あ、や、やめて伽藍ちゃんっ、あ、はははっつ!」

 

 伽藍がリンカの脇をつついている。

 少女二人が平和にじゃれ合っている中、グラウンドには焦ったような声が響きわたった。


 「な……この件の担当から外れる!? 魔導隊からも除名になるかもしれないって……どういうことです!?」


 電話口に叫ぶ裕理。


 どうやら、俺達の立場を危うくする問題が起こったらしい。

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