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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
2章ー紅天女の黒い華

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模擬戦(2)


 伽藍(から)(やいば)を横凪ぎに振り抜く。少女の重心は不動であり、切っ先は無駄な力を伝えずピタリと止まった。


 「やっぱり、随分と成長しましたね。伽藍」


 相対しているのは七郎でなく、“あかいくつ”の裕理(ゆうり)


 双方共、体を温める程度の動き。

 (はた)から見れば見事な攻防だが、本人たちからすれば唯のウォーミングアップである。


 「犬神が連れていた異世界人……リンカと同じラコウ人でしたね」

 「なにか、クジャクと因縁がありそうだった」

 「しかし、クジャクも ‘昔、ちょっとした仲違いが……’ としか教えてくれませんし」

 「レンメイ……多分、あの人強い。それに信用できない」


 伽藍の切り上げを、紙一重で見切り(かわ)す裕理。


 「ええ……。何にせよ、コミュニティを相手にするには武力が必要です。備えるに越したことはっ、ありませんっ」


 裕理の紅い魔力を纏った回し蹴り、伽藍は魔力を纏わせた刃で受けた。


 「2人共、すごいです」

 「…………」


 俺とリンカは、2人の演武に似た打ち合いを眺めていた。

 

 リンカの顔は俺の足元の高さにある。

 縦に開脚し、(もも)が辛うじて地面に触れない状態を維持していた。

 

 柔軟な肢体。

 そうかと思えば、リンカは足の力だけで飛び上がった。

 

 俺の背を越えない程度の高さで、小さく体を畳み宙返り。

 地面に足が付けば、普段のたおやかな立ち姿となっている。


 「? し、七郎様……なにか、変でしたか?」


 一連の動きを見ていた俺の視線に、リンカは照れながら困惑したように聞いてくる。


 「……いいや、リンカもすごいね」

 「えっ、あっありがとう、ございます」


 ――明らかに、裏家業の体捌きにしか見えないことは……黙っておこう

 

 「もういい?」


 いつのまにか烈剣姫が、憮然(ぶぜん)とした顔で立っている。


 「あっごめんなさい伽藍ちゃん。裕理さんも、お待たせしました」


 「大丈夫、待っていませんよ。やっぱり体を動かすのは、いい気晴らしになります」


 「伽藍の準備は出来た。七郎……今度は霊園山義瑠土(ぎるど)みたいには、いかないんだから」


 俺達の居るグラウンドは義瑠土保有の施設なだけあり、相当な広さがある。

 砂が広がる地面は平坦。見晴らしのいい場所だが、他の利用者の人影は見えない。


 伽藍の持つ剣の切っ先が俺に向けられている。


 ーーいつでも始められる

 

 少女の好戦的な表情が、そう物語っていた。


 「(剣…………剣かぁ……)」


 先ほどの伽藍の剣捌き。確かに美しいと感じた。


 だが黒牢の記憶にある、最も残忍で恐ろしい絶剣。

 あの絶望感には遠く及ばない。

 結局、最後まであの剣には勝てなかった。

 変異した肉体の強度と再生力ですり潰し、何とか地中に叩き返したのだ。


 それも幾百、幾千と肉を刻まれながら剣筋を覚えたことで、成し遂げた一勝(いっしょう)


 最早あの殺戮姫(さつりくひめ)は、俺の剣の師とも言える。


 思い出す。憎い仇、彼女の絶技と足運びを。

 (おど)るような剣舞が、自由自在に血しぶきを生む様を。


 「(しろがね)伽藍(から)……折角だ。俺の知る最も強い殺人剣、その一端(いったん)を教えてあげよう」


 「あなたの剣? あの分厚い黒剣でしょ?」


 烈剣姫の言葉を受け、両手を隠すように背中に回した。

 裕理やリンカも含め全員の死角になる背中の影から、2本の直剣を【(アケ)】から受け取る。


 「魔法? 隠し持っていたんですか?」

 「あの黒い剣じゃない? ……相変わらず、手品みたいに武器を取り出す」

 「綺麗な、剣……」


 裕理は、七郎が剣を取り出すことに驚いた様子。

 伽藍は油断なく男を見据え、リンカは取り出された剣の装飾に目を向ける。


 握られた2本の直剣は、それぞれ剣の質に差があった。


 一本は細身であるが、豪華な装飾が見て取れる。柄や刃の根元にはめ込まれた魔宝石が、剣の持つ高い価値を伝える。

 全体的にくすんでいるが、所々元の輝きを示す光沢が見て取れた。

 高貴な人物が持つことこそ、相応しいように思える。


 もう一本は何の変哲のない直剣。装飾も、とびぬけた魔力もない頑丈なだけのロングソード。

 遊びのない実直な刃である。


 「その剣って、異世界のモノ? いったいどんな剣なの?」

 「さあ? 俺はソレを知らない」

 「自分の持つ剣の事くらい、知って(しか)るべき」


 烈剣姫の言は(もっと)もであるが、持ち主が語ることなど決して無いだろう。

 彼女は不死者として破格の存在であったが、正気なんてものは何処にも無かった。


 出来る事なら、2度と土から蘇らないで欲しい。


 「そうだ、リンカも一緒にかかって来ていい」


 「っ、舐めすぎだ」

 「……わかりました」

 「リンカっ!?」

 「伽藍ちゃん。七郎様のお言葉に甘えましょう? 私が伽藍ちゃんに合わせます」

 「――ああもうっ、わかった。好きにしたらっ」


 墨谷七郎の意識が、夜の剣戟(けんげき)へと沈んでいく。


 あの恐ろしくも美しい、殺戮姫と同じ構え。


 突然共闘することになった少女2人は、七郎の暗い瞳に射抜かれ、同じように息を呑む。


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