表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/321

同じ怒り


 ――初代の魔導隊なんて大した事してねぇだろ


 真理愛(リンカ)に手を伸ばした時、手首を捻じり切るか悩んだ。


 ――10年前に死んだ実験動物じゃねぇか


 人目なんて気にせず、頭を潰しておけば良かったんだ。

 そうすれば、こんな不快な言葉を聞かずに済んだのに。


 この男が、灯塚裕理(ひづかゆうり)の言っていた魔導隊。

 この男が、今の魔導隊。


 俺を寸での所で止めてくれたのは、怒れる烈剣姫の顔。

 虎郎を、璃音を、愛魚ちゃんを……仲間達の為に怒る彼女に、少しだけ救われる。


 俺達の目的に、なんの関係もない少女だと侮っていたが。

 今は彼女の、隣に立ちたいと思った。


 ・

 ・

 ・


 犬神康孝(いぬがみやすたか)は、烈剣姫の隣に立つ男の怒気に()まれている。

 灯塚裕理や赤髪の女に隠れ、気にも留めていなかった暗い瞳の男。


 分不相応にチヤホヤされる裕理や、ただ運が良いだけで実力を勘違いしてる学生に、立場を教えてやるだけのつもりだった。


 「う、うっぜぇ! 出しゃばんな、コノ……ッ……!」


 言葉が出ない。肺が押しつぶされるように苦しい。

 七郎の体から滲む魔力に染みた、途方もない重量の殺意がそうさせるのだ。


 犬神は腕を振り上げ、殴りかかろうとする姿勢で止まる。

 魔力による身体強化も、何処(どこ)ぞからの選抜者とは思えないほどお粗末。

 (しろがね)伽藍(から)の身体強化の方が数段上と感じる程であった。


 「犬神はん、構うことあらへん。こんな奴ら捨て置いてサッサと行きましょ」


 「は?」


 そんな重苦しい空気を消したのは、意外にもレンメイの一言。

 犬神も、言葉の意図を察せない。


 「こんな怪しい奴ら、上に報告して調べて貰った方がいいんちゃうん? あの赤髪……クジャクっちゅうんは、ラコウじゃスネに傷持った女やで。ヤツメ家お抱えのうちが言うんやから間違いあらへん」


 「なんですって……?」


 「待ちなよレンメイ。お前に言われたかないね、悪どい商売してんのはどっちだい?」


 レンメイの妙な言葉に困惑する灯塚裕理。

 クジャクも殺気立った気を収めず、蜘蛛を見据える。


 「あ、ああ! はは、そうな。おい裕理! お前が怪しい異世界人とつるんでるって、上に報告しとくからよ。覚悟しろな」


 「……もう報告して、承諾は得てます」


 「ああ? 勝手な報告上げんな。レンメイもこう言ってるし? オレから見たら調査が必要なんだよ。報告書上げとくからw」


 犬神とレンメイは言いたいことだけ言うと、強引に義瑠土支部から立ち去る。

 

 レンメイはクジャクとすれ違いざま、


 「密入国、ばれるワケにはいかへんのやろ? 仲良おぉしよなぁぁ」


 そう言い残し去っていった。

 仲良くする気など、毛頭ないだろう。おそらく刺客の襲撃も再開されるはずだ。


 「墨谷七郎……あなた、魔導隊が伽藍の憧れだって知ってるから、怒った……?」


 どこか期待するような目で、烈剣姫は墨谷七郎に問う。

 

 「(この男には、伽藍が黒騎士に逢いたいこと話したし……七郎は、どうしてか黒騎士を嫌ってた。初代魔導隊を馬鹿にされて、怒る理由なんて無いんじゃないの?)」


 ――だから、彼が怒ってくれた理由は……伽藍の為?


 「……単にあの男が気に食わなかっただけだよ」

 「ふ、ふんっ! 珍しく意見が合う」


 義瑠土支部が落ち着きを取り戻す中、裕理やクジャクの顔は険しい。

 特にリンカの表情は、思いつめたように暗かった。


 ・

 ・

 ・


 「(なんや犬神、この男。やっぱり、あんま役に立ちそうにあらへんなあ)」


 魔導隊が所有する移動車両の後部座席で、レンメイは冷めた目で犬神を見る。


 犬神はレンメイの隣に座り、先ほどの醜態を無かったことにして自慢話に興じていた。

 (おのれ)がいかに有能であるかを誇示しようと、ベラベラと口を回している。


 造り上げたラコウでの身分。それを使って魔導隊とやらに取り入ったのは成功だった。

 術への知識も乏しい日本人を、欺くことなど朝飯前。


 こいつが持ってる情報は、粗方吸い尽くした。

 少し誘ってやれば、犬神はすぐにうちの体に飛びつき夢中になっている。

 床の中で術を用いて心を操り、こいつの口から持ってる情報を全て話させたのだ。


 「(もちろん本人さんは、なぁんにも覚えてあらへん。術への抵抗も知らん……餓鬼と同じや)」


 魔導隊が持つ機密には、金になりそうな話がわんさか。

 手始めに価値が高そうな物をいくつか盗み、さっそく金に換えた。


 「(ラコウで長く商売するうちにも、手に余る呪具があったのには驚いたわぁ。アレはラコウじゃ金になるで)」


 心の中で笑いながらも、頭にこびり付くのは、先ほど義瑠土支部で在った陰気な男。


 「(……あの男、うちの操黒糸(そうこくし)を簡単に千切った……何者(なにもん)や?)」


 前に立ちはだかった、あの暗い眼をした男。

 あれがクジャクを助けている男らしい。

 

 ただの日本人だと高をくくっていたが、男が発した尋常ならざる気に()てられて、咄嗟(とっさ)に男の体に糸を(から)めていた。


 ――クジャクだけは、うちの糸に気付いてたようやが……。


 絡めた糸が指先に経験の無い重さを伝え、次の瞬間には何の動作も無く糸が千切られている。

 想定外の事態に驚き、一旦あの場を離れる選択をしたのは間違いでなかったはず。


 「クジャクめ……ナニをたらしこんだんや?」


 「オイ。だから、今日もいいだろ? な?」


 話を聞いていなかったが、犬神がスカートの下に手を伸ばし内腿をまさぐっている。

 すでに利用価値をあまり感じないが、犬神の持つ魔導隊の立場が何かと便利なのは確か。


 ――ま、捨てるんはクジャクを殺した後でええやろ

   この餓鬼絞るのも、なかなか楽しいもんや


 レンメイは妖艶に笑い、犬神の手をスカートの更に奥へ導いた。



読んでいただき、ありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけましたら、

『ブックマーク』と広告下の評価【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ