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 「いや~(うち)の問題に巻き込んでごめんね?」


 フレイヤ役だった少女が、ひとりがけの椅子に座り笑う。


 イベント会場から場所を移し、義瑠土(ぎるど)保有のホテルと訓練所を兼ねた施設を俺達は拠点としていた。

 

 「詳しい事は伽藍もまだ聞いてない。裕理さん……呪物っていったいどんな物なの?」


 「それについては、当事者に聞いた方が早いですね。自己紹介をお願いしても? 地蔵堂さ――」


 「ストープッ!! 本名は可愛くないからNGィっ。ここはひとつ、魔法少女フレイヤちゃんってことで♪」


 「……まあ、本名で無くても護衛には支障ないでしょう」


 「じゃあフレイヤ。その呪物について聞かせてくれるかい? なぁにあたし達も故郷じゃね、そういった頼み事をこなしてきたんだ。頼りにしていいよ」


 クジャクが自称魔法少女に呪物について説明を求めると、フレイヤは表情を沈ませゆっくりと語り出した。


 「盗まれたのは、ウチの家で代々守ってきた……ううん、二度と外に出さないよう仕舞込んできた物なの」


 でもウチのパパが、じっちゃんから管理を引き継いだばっかりの頃ね。

 異世界ゲートが繋がってから、家の中で変なことが起こり始めたの。

 

 蛇口から沢山髪の毛が出てきたり、人間の爪くわえたネズミがそこら中走り回ったり……あはは、ありきたりなホラー映画みたいに。


 じっちゃんはすぐに仕舞い込んでるソレの仕業だって気づいて、テレビでやってた義瑠土にすぐ連絡した。


 でもチョーっと遅くて、日本と異世界両方の呪いの専門家が家に来た頃には、家族親類が原因不明の高熱で病院送りにされてたけどね。


 ウチなんて40℃の熱出しながら、病院で夜な夜な白目剥いて走り回ってたんだって。

 四つん這いで。記憶ないけどw


 で、家の蔵とか諸々が改造されて封印されてから、異変は収まったのね。


 しばらく何事も無くて、ウチもフレイヤ役のオーディションに受かって順風満帆って時に、強盗に入られた。

 義瑠土から交代で派遣されてた監視員の人も倒されて、蔵の中身が根こそぎ持ってかれたのが最近ってワケ。


 フレイヤが説明にひと段落つけると、灯塚(ひづか)裕理(ゆうり)が話を補足する。


 「実際記録上では、フレイヤさんの家は二百年以上前にこの呪物の管理を引き受けています。その管理が成されるまで、呪物を生み出した村の人間半数が原因不明の病や事故によって死亡、となっていました」


 ――しかも、生き残った村人の家系ですが……現在存続している家はありません


 「これが義瑠土が記録している呪物の(いわ)れです」


 「待って……呪物を生み出した村? どういう意味?」


 伽藍(から)が青い顔をしながら裕理に問う。

 リンカは固まっているカルタの袖を掴んでいる。


 「……古い書物や記録には……いえ、あまりに凄惨な話なので仔細は省きます。ただその呪物は“箱”の形をしていて、中身は人間の一部です。時代が生んだ差別や迷信によって、村の総意で殺された被害者の」


 「ソレの名前はね」

 

 おもむろにフレイヤが口を開く。

 

 ――“コトリバコ”っていうの


 ・

 ・

 ・


 「襲ったヤツの目星は?」


 俺は呪物を奪った犯人の話を聞く為、重い空気を破る。


 「黒ずくめの格好をしたヤツラだって聞いた。ウチや家族は全員(いえ)に居なくて、ケガとか無かったけど。封印を監視してた義瑠土の人は大ケガしたって」


 「呪物の行先はある程度追えました。そういった魔法由来の品を、不正に取引するコミュニティに流れている可能性が高い。……最近、そのコミュニティが妙に活発なんです。勢いづいているというか」


 「黒ずくめ……そういえば、俺達を襲ってきた異世界人はどうなった」


 「…………」


 裕理の顔が曇る。半ば予想していた反応だ。

 正体を知っている紅蓮の面々も、結末を察しているが何も言わない。


 「これは他言の無いようお願いしますが、留置所で全員死亡していました。いま義瑠土ではとんでもない大騒ぎです」


 「はあ!? 死んだって……うそ」


 流石の烈剣姫(れっけんき)も、空いた口が塞がらない。


 「全員? 双子は?」

 「全員です。突然苦しみだして、病院に搬送されましたがあえなく……しきりに許しを請うていたとか。あの双子になにか?」


 「いや……」


 どうやらあの双子も操り人形であったらしい。

 おそらく本人達にも、自覚は無かったのではないだろうか。


 「ふぅぅぅ……。胸糞悪い話だね」


 クジャクの額に青筋が浮かぶ。そのやり口に心当たりがあるのだろう。


 「正直、呪物強奪の件と皆さんを襲った者達に私は繋がりを感じていました。同一犯なのではないかと。結局、証拠は全て無くなりましたが……。なので当初の予定通り、私たちはコミュニティへの潜入によって呪物を捜索したいと考えています」


 「潜入……? いくら何でも危険だろう。義瑠土と魔導隊の主導で大掛かりに踏み込めばいい」


 「コミュニティには企業や大規模な暴力団系組織が多数参加してます。あまり大きく動けば、市民を巻き込む戦闘になりかねません。彼らも魔法使いを抱え込んでますから」


 灯塚裕理の言葉に、俺は魔導隊時代を思い出す。

 火炎魔法に高い適性を持った男1人が、詠唱知識も無しに魔法で周囲を焼く様を。

 

 魔法使いが絡めば、必然慎重になるのは仕方ないことか。


 「その為にあなたを雇った。せいぜい働いてもらうから」


 烈剣姫のありがたい期待に、俺は諦めを込めて息を吐いた。

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