黒少女ONステージ
ガラス張りのビルが、太陽光を反射させていた。
「ほわああ……カルタ姐さんっ、綺麗な建物がいっぱいです!」
「この国に忍び込っ……観光でゲートを渡ってから、忙しくて余裕なかったもんなぁリンカ」
「イヤ改めて見ると、ラコウの街並みとは比べ物にならないよ」
盗まれた呪物の管理者にして、捜索の依頼者が待つ都市へ着いた一行。
此処は国内で中規模程度の都市であるが、ビルや百貨店が立ち並び、紅蓮の面々には物珍しく映るらしい。
「首都の帝海都は、もっと栄えているよ」
「これよりまだ大っきな街があるのか!?」
カルタが俺の言葉に驚く。
その後ろでは、リンカと伽藍が親し気に話していた。
可憐な烈剣姫と闇色の少女が仲睦まじくする光景は、クジャクも顔を緩める微笑ましさがある。
「ねえ今度一緒に帝海都を……あ、案内しよっか?」
「いいんですか、伽藍ちゃん」
「う、うん!遊びに行こっん˝ん……案内する。でもゲートを通ってきたとき見なかった? 帝海都の街並み。それに、魔法学島からどうやって移動したのよ?」
「あー……。リンカ達はゲートを潜ってすぐ、車で帝海都を出たんだよ。ラコウ人の渡来は珍しいから、注目を避ける為に」
「ふん……墨谷七郎、あなたが言うと胡散臭い……でも確かに、目立ってはいるみたい……ね」
烈剣姫の目線が周囲に向けられる。
道行く人々の視線は明らかに、異国の美女たちに釘付けであった。
「さっさと指定された場所に行く。裕理さんもそのうち合流するはず」
“あかいくつ”灯塚裕理は到着早々、「近くの義瑠土支部へ挨拶してきます」と一時的に別行動を取っている。
俺達は先んじて、呪物捜索の依頼人と合流を果たすべく移動を始めた。
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「そしてさっそく逸れたわけだが」
俺と紅蓮、銀伽藍が指定の場所に移動すると、見えてきたのは丸い屋根の建物。
イベント開催用の野外施設に見えるが、場所を見るにそれこそが指定された目的地のようだった。
怪しみながら会場に入ると、突然大勢の人々が大挙し一行を押し流す。
――なんだこれぇぇ
――ちょっとっ! 通し、て
あっという間にクジャクとカルタ、烈剣姫が人垣の向こうへ。
俺はリンカだけを辛うじて、迫る肉壁から守る事に成功した。
だが人ごみによって会場の裏方近くに流されたところで、ついに逸れてしまう。
――七郎様。私は大丈夫です!
すぐに合流しますからぁぁぁぁ!?
そんな悲鳴みたいな声を上げ、リンカは人ごみの影に紛れていった。
「(危険は無いと思うが……早く見つけ出さないと)」
若干焦りながら、リンカの所在を探る。
クジャクやカルタ達は人垣くらい簡単に飛び越えられるだろうが、目立つことは本意では無いはず。
派手には動けないだろう。
「なんで手を放してしまったんだ」
リンカの手を握り潰さないよう、手に込める力を加減していたこともあるが……。
意識が突然薄れたような感覚があった。
眠るような、諦めるような……受け入れがたい感覚。
「俺はいったい何をして」
『み ― んなーーー! 来てくれてアリガトーーー!!!!』
自問自答は、大音量の声にかき消された。
七色に光る照明。発光と暗転を繰り返すステージ。
「え?」
ステージ奥の壁に、ツインテールとスカートを広げるシルエットが映し出された。
それと共に流れ始める、音楽
『まじかる☆ぱぁうわぁぁーーズキュッと注入!!』
「ぐ、お、ぉ……このリズムは……!?」
俺はこのイベントがどんなモノなのかを察した。
覚えがある。
会場を包む熱気と、ステージ上の甘ったるい世界観に。
爆音と共に全ての照明が明転し、紙吹雪が舞った。
『まじかる☆フレイヤッッ 降・臨 ! ! みんないっしょに踊ってねー』
――ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!
――フヴヴヴヴレェェイヤちゃあああああああん!
――ふひょおおおおおお天使でござるぅぅぅ
――課金させてぇぇぇ。何処に? ここよ!
――俺のカツラの下に万札ねじ込むのやめてぇぇぇ!
魔法少女まじかる☆フレイヤ ~友情のデュエットは永遠に~
イベント名がスクリーンに映ると同時に、阿鼻叫喚の有様で会場が揺れる。
熱狂する客席とは対照的に、俺の心は虚無。だがさらに信じられない光景を目の当たりにした。
『一緒に魔物と戦おうっ♪ 連帯保証でユニゾンパワー♪』
『ま、まじかるっリリダークっ 堕天!』
衣装で着飾った闇色の美少女が、ステージに舞い降りる。
「なんで??」
絞り出された声は、躍る客の熱気に埋もれていった。
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