表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/320

黒少女ONステージ


 ガラス張りのビルが、太陽光を反射させていた。


 「ほわああ……カルタ姐さんっ、綺麗な建物がいっぱいです!」

 「この国に忍び込っ……観光でゲートを渡ってから、忙しくて余裕なかったもんなぁリンカ」


 「イヤ改めて見ると、ラコウの街並みとは比べ物にならないよ」

 

 盗まれた呪物の管理者にして、捜索の依頼者が待つ都市へ着いた一行。

 此処は国内で中規模程度の都市であるが、ビルや百貨店が立ち並び、紅蓮の面々には物珍しく映るらしい。


 「首都の帝海都は、もっと栄えているよ」

 「これよりまだ大っきな街があるのか!?」


 カルタが俺の言葉に驚く。

 その後ろでは、リンカと伽藍(から)が親し気に話していた。

 可憐な烈剣姫と闇色の少女が仲睦まじくする光景は、クジャクも顔を(ゆる)める微笑ましさがある。

 

 「ねえ今度一緒に帝海都を……あ、案内しよっか?」

 「いいんですか、伽藍ちゃん」

 「う、うん!遊びに行こっん˝ん……案内する。でもゲートを通ってきたとき見なかった? 帝海都の街並み。それに、魔法学島からどうやって移動したのよ?」


 「あー……。リンカ達はゲートを潜ってすぐ、車で帝海都を出たんだよ。ラコウ人の渡来は珍しいから、注目を避ける為に」


 「ふん……墨谷七郎、あなたが言うと胡散臭い……でも確かに、目立ってはいるみたい……ね」


 烈剣姫の目線が周囲に向けられる。

 道行く人々の視線は明らかに、異国の美女たちに釘付けであった。


 「さっさと指定された場所に行く。裕理さんもそのうち合流するはず」


 “あかいくつ”灯塚(ひづか)裕理(ゆうり)は到着早々、「近くの義瑠土支部へ挨拶してきます」と一時的に別行動を取っている。


 俺達は先んじて、呪物捜索の依頼人と合流を果たすべく移動を始めた。


 ・

 ・

 ・


 「そしてさっそく(はぐ)れたわけだが」

 

 俺と紅蓮(ぐれん)(しろがね)伽藍(から)が指定の場所に移動すると、見えてきたのは丸い屋根の建物。

 イベント開催用の野外施設に見えるが、場所を見るにそれこそが指定された目的地のようだった。


 怪しみながら会場に入ると、突然大勢の人々が大挙し一行を押し流す。


 ――なんだこれぇぇ

 ――ちょっとっ! 通し、て


 あっという間にクジャクとカルタ、烈剣姫が人垣の向こうへ。

 俺はリンカだけを辛うじて、迫る肉壁から守る事に成功した。

 だが人ごみによって会場の裏方近くに流されたところで、ついに(はぐ)れてしまう。


 ――七郎様。私は大丈夫です!

   すぐに合流しますからぁぁぁぁ!?


 そんな悲鳴みたいな声を上げ、リンカは人ごみの影に紛れていった。


 「(危険は無いと思うが……早く見つけ出さないと)」


 若干焦りながら、リンカの所在を探る。

 クジャクやカルタ達は人垣(ひとがき)くらい簡単に飛び越えられるだろうが、目立つことは本意では無いはず。

 派手には動けないだろう。


 「なんで手を放してしまったんだ」


 リンカの手を握り潰さないよう、手に込める力を加減していたこともあるが……。

 意識が突然薄れたような感覚があった。

 眠るような、諦めるような……受け入れがたい感覚。


 「俺はいったい何をして」

 

 『み ― んなーーー! 来てくれてアリガトーーー!!!!』


 自問自答は、大音量の声にかき消された。

 

 七色に光る照明。発光と暗転を繰り返すステージ。

 

 「え?」


 ステージ奥の壁に、ツインテールとスカートを広げるシルエットが映し出された。

 それと共に流れ始める、音楽


 『まじかる☆ぱぁうわぁぁーーズキュッと注入!!』


 「ぐ、お、ぉ……このリズムは……!?」


 俺はこのイベントがどんなモノなのかを察した。

 覚えがある。

 会場を包む熱気と、ステージ上の甘ったるい世界観に。


 爆音と共に全ての照明が明転し、紙吹雪が舞った。


 『まじかる☆フレイヤッッ 降・臨 ! ! みんないっしょに踊ってねー』


 ――ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!

 ――フヴヴヴヴレェェイヤちゃあああああああん!

 ――ふひょおおおおおお天使でござるぅぅぅ

 ――課金させてぇぇぇ。何処に? ここよ!

 ――俺のカツラの下に万札ねじ込むのやめてぇぇぇ!


   魔法少女まじかる☆フレイヤ ~友情のデュエットは永遠に~


 イベント名がスクリーンに映ると同時に、阿鼻叫喚の有様で会場が揺れる。


 熱狂する客席とは対照的に、俺の心は虚無。だがさらに信じられない光景を目の当たりにした。


 『一緒に魔物と戦おうっ♪ 連帯保証でユニゾンパワー♪』


 『ま、まじかるっリリダークっ 堕天(フォールン)!』


 衣装で着飾った闇色の美少女が、ステージに舞い降りる。


 「なんで??」


 絞り出された声は、躍る客の熱気に埋もれていった。

読んでいただき、ありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけましたら、

『ブックマーク』と広告下の評価【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ