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護衛と捜索


 「ふわぁぁぁ」

 「どう? 電車に乗ったの、初めてなんでしょ」

 「すごいねっすごいねっ、伽藍ちゃん!」

 「ふふん(……かわいい)」


 金色の瞳をめいっぱい見開き、感動するリンカの見る景色は次々と移り変わる。


 「(どうして君が得意げなんだ?)」

 

 ドヤ顔の烈剣姫に疑問を抱きつつ、列車の広い個室で“あかいくつ”と向き合う。

 

 「伽藍とは、私の魔導隊の上司が伽藍を養子に引き取ってすぐ……まだあの子が小さい頃からの付き合いなんです」

 「そんな前から」

 「妹みたいなものですね。義瑠土の二つ名持ちになって、まさか一緒に仕事をすることになるとは。まあ、あの子の努力と才能なら当然」


 「(身内の贔屓目がすごい。……いいお姉さんじゃないか、烈剣姫)」

 

 そう遠くない距離の移動であるが、列車に揺られるのは何処か新鮮な気持ちだ。

 霊園山には移動用列車の北星号があるが、景色は代り映えしなかった。

 

 あと(たま)に喋ったり飛んだりするし……やっぱりアレ列車じゃないかも。

 そもそも、北星号は人工魔である。


 「(とすれば、本物の列車に乗ったのは随分久しぶりか……虎郎(ころう)璃音(りおん)と、騒ぎながら乗ったっけ……愛魚(まな)ちゃんは…………俺達を見て困ってたな)」


 浮かぶ思い出を噛みしめていたが、それを邪魔する物がある。


 「はー! 日本の酒は飲むもの全部極上だねぇ」

 「このお肉がいっぱい入った弁当もうまいですよ。クジャク様もいかがです?」


 アルコール臭と香ばしいタレの香りが、俺を郷愁(きょうしゅう)から引き戻す。

 

 クジャクは健康を取り戻した体で、日本酒ワンカップの空き瓶を積み上げていく。

 それでいて、(ほとん)ど顔色を変えないのが恐ろしい。


 「さて……現地に着く前に、依頼について説明します」


 灯塚(ひづか)裕理(ゆうり)から、ついに仕事内容が明かされる。

 伽藍達は顔を引き締めこちらに向き直り、クジャクも酒を片手に意識を裕理へと向けた。

 クジャクの目線は窓に向いたままであるが、妙に様になっている。


 「今回手伝ってもらう任務は、護衛と捜索。盗まれた“ある品”を捜索し奪還、それまで依頼者である品の持ち主を守る事です」


 「…………? それは、魔導隊が動く必要がある程の……?」


 俺は疑問を呈す。

 初代魔導隊の時代ならいず知らず、現代の魔導隊は魔法災害・魔法獣害への切り札のような扱い。

 気軽に派遣されるような組織では無くなっている。


 「被害者がいるなら、事件の大小は関係ない」


 (しろがね)伽藍(から)は、さも呆れたという態度。

 彼女の正義感に(さわ)ったらしい。


 「まあ今の魔導隊は、自由に動ける組織で無い事は確かです。10年前の初代魔導隊がいかに機動力に優れ、魔法混迷期の治安維持に貢献していたか……自分が魔導隊に選抜されてから、身に染みるばかりです」


 ――彼らが今も健在なら……


 そう続けた裕理へ、伽藍が気色ばんで割り込む。


 「でも! “黒騎士”は生きて戦い続けてる! 裕理さんは彼のこと知ってるのに……伽藍に何も教えてくれない」


 「規則ですからね。彼の妨げにならない為に、情報は明かさない方がいいんです」


 黒騎士。

 かの人物は初代魔導隊における、黒牢事件唯一の生き残りであり、事件の凄惨さを世に伝える証人である。

 異名の由来は、初代魔導隊が装備した黒い鎧を着用し続け、世間に素性が明かされないことから浸透した。


 俺は鎧の下にある顔を思い出し、暗い感情を抱く。


 「(鋼城(こうじょう)……お前はいま、何をしてる……?)」


 それは悲しみや軽蔑、そして結局は自分の無力を呪う……一重(ひとえ)には表せない混ざり合った想いだ。


 「で、依頼人が居る場所に向かってるってワケだね。“ある品“ってのは?」


 脇道にそれた話を、クジャクが本題に戻す。

 そこの辺りは流石、輸入商を切り盛りした女傑であった。

 積み上げられた酒瓶の数に目を瞑れば、だが。


 「その品が問題なんです。魔法元年以降、魔力により日本由来の古い品々が力を持ち始め、特に強力な物は秘匿(ひとく)され封印を施されました。今回の品もそうです」


 裕理は神妙な顔つきで、捜索物の説明を始める。


 「あまりにも闇深い出自(しゅつじ)を持つ“ソレ”を、日本は古くから在る家系に秘匿と厳重封印を依頼しました。封印設備と情報抹消を全て国が請け負ってまで」


 国の意志として封印されるとは、相当な物だ。


 「土地の因果と結びつき、ヒトを呪い続ける呪物の移動にはリスクが伴い……もともとソレを封じてた家柄に管理を任せるしかなかった。しかし何処からか情報が洩れ、異世界の術を操る組織に盗まれてしまったんです」


 「――呪物」


 「事態を重く見た”上”が、もともと()()という組織を追っていた私に”奪還せよ”と命じたんです。盗まれた品の捜索と、それに協力していただく……元の持ち主の護衛を」


 「…………あー、しろ、はた」


 呪物に、白旗。思いもよらないタイミングで、目の覚める話が続くものだ。

 ……頬が引きつるのを怪しまれていないといいけど。


 「“白旗”……聞いたことある。魔法的価値の高い、異世界からの輸入品なんかを収集してる武力集団……だったかな。白い旗を掲げて、死者の蘇生を謳ってるなんて話。盗んだのもソイツらなんじゃ」


 白旗について聞きかじったことを思い出す伽藍。


 不思議な気分だ、追っ手を目の前にするのは。

 その旗を掲げたのは俺とシルヴィア。此処に居る誰よりも良く知っている。


 ―― ”白旗”。つまり【死停幸福理論】

 

 ……義瑠土や現魔導隊でも実態が掴めず、シンボルである少女が描かれた純白の旗をさして通称“白旗”と呼称されていた。

 それは組織と魔術式の名を兼ねる、死の運命へ復讐を誓う俺達の名である。


 まあ、それはいい。

 今は予想外の人物からもたらされた情報についてだ。


 「(思わぬところで、探し物に繋がった)」


 霊園山を出てからというもの、計画に必要な呪物の情報が手に入らなかった。

 しかし、此処にきての光明。


 そ知らぬふりをして、俺は窓の外を眺めるのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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