毒と双子(3)
「あはははははははは」
「うふふふふふふふふ」
割れるガラス。衝撃音。
戦いの舞台は、街のはずれまで移動していた。
人気の少ないシャッター街が、かつてない喧騒に包まれる。
「ちくしょおぉっっ馬鹿にしやがってぇぇ」
カルタの投げる式符が、壁や地面に当たると着火し爆発した。
素早く、そして惑わすように移動する双子はどこ吹く風。
冷静さを欠くカルタを嘲笑い続け、暗器と醜い使い魔へと変じる式符の投擲により優位に立つ。
レストランで双子が飛びかかってきた瞬間。紅蓮の面々と七郎は、窓ガラスを破り外へ飛び出した。
七郎がラクラ、ナクラへ拳による突きを放つが、双子の体は幻の様に掻き消える。
かと思えば、双子は4人にも8人にもその数を増やし現れる。
意表を突く目くらましと、同時に襲い掛かってきた黒装束の刺客達。
周辺にいた無関係の歩行者があげた悲鳴を皮切りに、それぞれ分断されてしまったのだった。
街中での騒ぎは大きくなるばかり。
レストランから遠くない廃ビルの屋上では、クジャクとリンカが黒装束の集団に囲まれていた。
2人は消耗していた依然と違い、刺客が囲む輪の中に堂々と立つ。
「あの妙な双子の姿が消えた……やっぱりこっちはハズレだね」
「では、カルタ姐さんと七郎様が……!」
リンカの動揺を隙と見て、刺客達が刃物を構え迫る。
リンカは最も突出した刺客のひとりを狙う。
刃による突き込みを避け、足を刺客の首に絡め、捻じるようにして地面へ叩きつけた。
すぐに跳び上り、クジャクの隣へ。
――ああ。本当に久しぶりだ……。こんなに気分が良いのは
赤熱した糸が躍り、空気が灼ける。
刺客達は足を止めた。
情も、恐怖も無い人形が、目の前の光景を見てたじろいでいるのだ。
「リンカ。じっとしてな」
「は、はい!」
赤い線が“ふわり“と舞ったかと思えば、刺客達の体をすり抜けるようにして静かに消える。
黒装束を待っているのは両断と発火だった。
悲鳴も許さず炭と化すほどの高温が、切断面から体内へ広がる。
艶やかな赤髪に炎を揺らし、美しく佇むクジャクの姿。
「ふふ。ご愁傷様」
リンカはかつての天女復活の兆しを、満面の笑みで喜んだ。
・
・
・
「それ♪」
ラクラの式符が、不規則に並んだ歯を鳴らす使い魔へと変じる。
噛みつかれる寸前でカルタは爪で打ち払った。使い魔は煙と共に破れた符に戻る。
返報とするカルタの爆符はラクラにひらりと躱され、建物の壁を煤で汚すのみ。
「(使い魔たちはいいっ! ヤバイのはっ……)」
「いい加減学びなさいな、おバカさん」
「! ぐ、ああああああああ」
背中側から肩に刺さった、ナクラが投げる針の如く細い暗器。
また意識の隙を狙われた。
襲う激痛は、経験したことが無い激しさ。
こうした荒事で傷を負ったことは1度や2度ではない。痛みには慣れているカルタでも、叫び動けなくなる程の苦悶。
「ぐうぅ…………これも、毒、かぁ」
「ええそうよ。拷問用の特製毒。お気に召して?」
「あははっかわいそーう」
「くそっ……ぐ……。くそぉ……アタシのせいでクジャク様を苦しめたのに、ケジメもつけられないで、こんな……」
涙が出てきた。情けない。
こんなヤツらに、いいように弄ばれるなんて。
「無能な部下を持って、クジャクもガッカリしてるでしょうね」
暗器を持つナクラが”にんまり”と口元を歪める。
そうだ。アタシには何の才能も無かった。
クジャク様に拾われてからも覚えが悪くて、たくさん迷惑を掛けた。
それでも見捨てないでくれたクジャク様に、恩返しがしたくて必死に努力したんだ。
「もうひとりの小娘……あっちの方が、まだ遊びがいがありそうね。あなたもしかして、紅蓮でいちばん弱い?」
暗器を指で遊びながら、双子の片割れはアタシの心の弱みを的確に突いてくる。
リンカ……あいつがクジャク様に拾われてから、アタシはいつも才能の差ってヤツを見せつけられる。
最初は小さな妹が出来たみたいで嬉しかったさ。出来る限り世話も焼いた。
リンカがアタシやクジャク様の事を、本当の姉や母の様に慕っていることもわかってる。
でも成長するにつれて……リンカの出来の良さをクジャク様が褒めるたびに、心が不安で一杯になった。
術も符なしでは扱えない、獣人の血由来の力しか能の無いアタシには……もうクジャク様には、笑いかけて貰えないんじゃないかって。
いつの間にかリンカには、必要以上に虚勢を張るようになってた。
だからクジャク様が喜ぶ薬を仕入れた手柄は、アタシの小さな誇りだったのに……。
「ふ、う……ぅぅぅぅ」
「あら泣くの? 泣くのね? 泣いちゃうの? うふふふふふふっ」
強がりで固めた心が、痛みで脆く崩れていく。
笑い蔑む少女の声が、楽し気に興奮を帯びてきた。
悶えるように内股を擦り合わせる。
「ふふっ、ふふふふふふふ。ラクラどうする? もうちょっと遊んじゃう?」
片割れから、返事が無い。
「ラクラ?」
さっきまでそこに居たのに。音もなく姿が消えている。
「はぁっ?」
「……?」
ナクラは眼前の獣人女の術か何かと疑い、カルタを睨んだ。
しかしカルタもまた、突然の状況に呆然としている。
「(こいつの仕業じゃない)」
すると離れた薄暗い路地の先で物音がひとつ。
張り詰めた神経のまま、ナクラが音の先を見る。
そこには意識を失い、涎を垂らしながら脱力したラクラ。
そのドレスを掴み無造作に持ち上げながら、此方を見る暗い瞳があった。
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