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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
2章ー紅天女の黒い華

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毒と双子(3)


 「あはははははははは」

 「うふふふふふふふふ」


 割れるガラス。衝撃音。

 戦いの舞台は、街のはずれまで移動していた。

 人気の少ないシャッター街が、かつてない喧騒に包まれる。


 「ちくしょおぉっっ馬鹿にしやがってぇぇ」


 カルタの投げる式符(しきふ)が、壁や地面に当たると着火し爆発した。

 素早く、そして惑わすように移動する双子はどこ吹く風。


 冷静さを欠くカルタを嘲笑(あざわら)い続け、暗器と醜い使い魔へと変じる式符の投擲(とうてき)により優位に立つ。


 レストランで双子が飛びかかってきた瞬間。紅蓮の面々と七郎は、窓ガラスを破り外へ飛び出した。


 七郎がラクラ、ナクラへ拳による突きを放つが、双子の体は幻の様に()き消える。

 かと思えば、双子は4人にも8人にもその数を増やし現れる。

 意表を突く目くらましと、同時に襲い掛かってきた黒装束の刺客達。


 周辺にいた無関係の歩行者があげた悲鳴を皮切りに、それぞれ分断されてしまったのだった。


 街中での騒ぎは大きくなるばかり。


 レストランから遠くない廃ビルの屋上では、クジャクとリンカが黒装束の集団に囲まれていた。

 2人は消耗していた依然と違い、刺客が囲む輪の中に堂々と立つ。

 

 「あの妙な双子の姿が消えた……やっぱりこっちはハズレだね」

 「では、カルタ姐さんと七郎様が……!」

 

 リンカの動揺を隙と見て、刺客達が刃物を構え迫る。


 リンカは最も突出した刺客のひとりを狙う。

 刃による突き込みを避け、足を刺客の首に絡め、捻じるようにして地面へ叩きつけた。


 すぐに跳び上り、クジャクの隣へ。


 ――ああ。本当に久しぶりだ……。こんなに気分が良いのは


 赤熱した糸が(おど)り、空気が灼ける。


 刺客達は足を止めた。

 情も、恐怖も無い人形が、目の前の光景を見てたじろいでいるのだ。


 「リンカ。じっとしてな」

 「は、はい!」


 赤い線が“ふわり“と舞ったかと思えば、刺客達の体をすり抜けるようにして静かに消える。


 黒装束を待っているのは両断と発火だった。

 悲鳴も許さず炭と化すほどの高温が、切断面から体内へ広がる。


 艶やかな赤髪に炎を揺らし、美しく(たたず)むクジャクの姿。


 「ふふ。ご愁傷様」


 リンカはかつての天女復活の兆しを、満面の笑みで喜んだ。


 ・

 ・

 ・


 「それ♪」


 ラクラの式符が、不規則に並んだ歯を鳴らす使い魔へと変じる。

 噛みつかれる寸前でカルタは爪で打ち払った。使い魔は煙と共に破れた符に戻る。


 返報とするカルタの爆符はラクラにひらりと躱され、建物の壁を(すす)で汚すのみ。

 

 「(使い魔たちはいいっ! ヤバイのはっ……)」


 「いい加減学びなさいな、おバカさん」


 「! ぐ、ああああああああ」


 背中側から肩に刺さった、ナクラが投げる針の如く細い暗器。

 また意識の隙を狙われた。

 襲う激痛は、経験したことが無い激しさ。

 

 こうした荒事で傷を負ったことは1度や2度ではない。痛みには慣れているカルタでも、叫び動けなくなる程の苦悶。


 「ぐうぅ…………これも、毒、かぁ」


 「ええそうよ。拷問用の特製毒。お気に召して?」

 「あははっかわいそーう」


 「くそっ……ぐ……。くそぉ……アタシのせいでクジャク様を苦しめたのに、ケジメもつけられないで、こんな……」


 涙が出てきた。情けない。

 こんなヤツらに、いいように弄ばれるなんて。


 「無能な部下を持って、クジャクもガッカリしてるでしょうね」


 暗器を持つナクラが”にんまり”と口元を歪める。


 そうだ。アタシには何の才能も無かった。

 クジャク様に拾われてからも覚えが悪くて、たくさん迷惑を掛けた。

 それでも見捨てないでくれたクジャク様に、恩返しがしたくて必死に努力したんだ。


 「もうひとりの小娘……あっちの方が、まだ遊びがいがありそうね。あなたもしかして、紅蓮(ぐれん)でいちばん弱い?」


 暗器を指で遊びながら、双子の片割れはアタシの心の弱みを的確に突いてくる。


 リンカ……あいつがクジャク様に拾われてから、アタシはいつも才能の差ってヤツを見せつけられる。

 

 最初は小さな妹が出来たみたいで嬉しかったさ。出来る限り世話も焼いた。

 リンカがアタシやクジャク様の事を、本当の姉や母の様に慕っていることもわかってる。


 でも成長するにつれて……リンカの出来の良さをクジャク様が褒めるたびに、心が不安で一杯になった。

 術も符なしでは扱えない、獣人の血由来の力しか能の無いアタシには……もうクジャク様には、笑いかけて貰えないんじゃないかって。


 いつの間にかリンカには、必要以上に虚勢を張るようになってた。

 だからクジャク様が喜ぶ薬を仕入れた手柄は、アタシの小さな誇りだったのに……。


 「ふ、う……ぅぅぅぅ」

 

 「あら泣くの? 泣くのね? 泣いちゃうの? うふふふふふふっ」


 強がりで固めた心が、痛みで脆く崩れていく。

 

 笑い蔑む少女の声が、楽し気に興奮を帯びてきた。

 悶えるように内股を擦り合わせる。


 「ふふっ、ふふふふふふふ。ラクラどうする? もうちょっと遊んじゃう?」


 片割れから、返事が無い。


 「ラクラ?」


 さっきまでそこに居たのに。音もなく姿が消えている。


 「はぁっ?」


 「……?」


 ナクラは眼前の獣人女の術か何かと疑い、カルタを睨んだ。

 しかしカルタもまた、突然の状況に呆然としている。


 「(こいつの仕業じゃない)」


 すると離れた薄暗い路地の先で物音がひとつ。

 張り詰めた神経のまま、ナクラが音の先を見る。


 そこには意識を失い、涎を垂らしながら脱力したラクラ。

 そのドレスを掴み無造作に持ち上げながら、此方(こちら)を見る暗い瞳があった。


読んでいただき、ありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけましたら、

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