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毒と双子(1)


 『七郎。贈られてきた丸薬の中身が分かりました』

 『流石……役に立ちそうだったかい?』

 

 ――残念ながら、これはウェレミニア三国同盟のモノではありません

   こちらの世界の…………

 

 「旦那? どうしたんです?」


 「…………いや」


 少し前のシルヴィアとの会話を思い出していたが、クジャクの声で我に返る。

 ここは街にある大衆的なレストランの中。窓際の席に、紅蓮の面々と共に俺は座っていた。


 異彩を放つ女性達に、周りの人間から好奇の視線が向けられる。

 異世界人の存在が周知されているとはいえ、実際に逢うことは稀。


 クジャクとカルタは帽子を被り、髪色や獣耳を隠しているが元々美人なので目立つことに変わりがない。


 特に血色が良くなりつつあるクジャクの妖艶な美貌が、飛びぬけて注目を集める。

 

 クジャクの検査を病院で終え、隠れ家に帰る途中にこのレストランに立ち寄ったのだ。

 個人経営の小さな病院で行ったのは血液検査や問診といった簡単なモノ。

 

 保険証も無く、別途で迷惑料を医者へ渡したこともあり、なかなかの出費となった。

 異世界人が病院に来た事を、行政へ知らせないようにする口止め料である。

 

 無用なトラブルは少ない方がいい。これから嫌でも、状況は荒れるのだから。

 

 「旦那……何から何まで、本当にありがとうございます。この御恩は必ずお返しします」

 「クジャク様。そんな事を言えば、この男がつけあがります。ナニを求められるか……」


 頭を下げるクジャクに、カルタが苦言を(てい)す。

 

 お前はさっき、すごい量の料理を頼んだばかりだろう。誰が支払うと思っているんだ。


 「……ぁ」


 リンカは姿勢を正し神妙にしているが、季節限定デザートの写真をチラチラと気にしている。

 先ほど果物が乗ったカラフルなパフェを、遠慮がちに注文していた。

 運ばれてくるのが待ち遠しいらしい。


 「検査の結果としては、肝臓等の内臓数値がすこぶる悪い。それ以上の内容を知るには要精検、と」


 「でも旦那。旦那に世話になってから体を休めることができ……随分楽になりました。もうこれ以上、世話になりっぱなしってのも……」


 「世話ついでに、話したいことがある」


 俺の言葉に、顔を引き締め佇まいを直すクジャク。


 「なんでしょう?」


 そこには数多(あまた)の鉄火場を乗り越えた女主人の(かお)があった。


 「あなたが飲んでる薬を、全て預かりたい」


 俺の要求に真っ先に反応したのは、やはりカルタ。

 運ばれてきたピザを頬張ろうとしていたところで、空気が変わる。


 ピザを皿に放り、爪と牙を俺に向けてきた。


 「オイ……! それはクジャク様に差し上げた薬だ。どうしてお前にやる必要がある?」


 この丸薬は異世界でカルタが仕入れたモノで、簡単に手に入らない貴重な薬だと言っていた。

 自分の仕事に泥を塗られたように感じ、怒っているのだ。


 カルタの威圧が支配する静寂の中、客の来店を知らせるベルの音だけが響く。

 剣呑(けんのん)な空気を打ち破ったのは、なんとリンカであった。


 少し怯えながらも、姉弟子へ意見する。


 「カルタ姐さん……まず七郎様のお話を……」

 「お前は甘いんだよ!! 得体の知れない男に(ほだ)されやがって」


 いよいよ語気が強まってきたカルタに身を強張らせるリンカ。


 「その薬はコッチじゃもう手に入らない貴重な――」

 「それが毒なんだよ」


 「は?」


 理解できないといった顔のカルタ。

 徐々に俺を馬鹿にするような表情に変わっていく。


 「……毒? そんなワケ無いだろう。クジャク様はもう何年もその丸薬を使ってる。それに、体を壊されてからラコウの医者や術師に診てもらった。けど、毒の証拠は見つからないって……」


 「仕入れ先が最近毒にすり替え始めたんだろ。それにこの毒はこっちの世界の物だ。だから異世界……ラコウじゃ特定できなかった」


 「そんなワケ……ちがう。……違います、クジャク様」


 血の気の引いたカルタが、震えながらクジャクを見た。

 

 クジャクは目を閉じ、考え込むように俯いている。紅蓮の主人として、何を信じるべきかを選んでいるのだ。



 「あら、バレてしまったのね」

 「バレる時はあっけないものね」


 

 気づけば、瓜二つの顔をした2人の少女が俺達の傍に立っていた。

 

 リンカとそう変わらないような年頃。

 肌の色はクジャクと同じく、きめ細やかに白い。

 髪を同じ長さで切りそろえ、服装まで暗い青色のドレスで統一している。

 

 しかし彼女達は、年齢に見合わない邪悪な笑顔で笑い合うのだ。


 蜘蛛が餌にひっかかった。

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