華の想い
枝を集めて火を熾す。
光が漏れないように小さく、なるべく枝葉で周りを覆う。
「“絡新婦”がこんなトコまで追ってくるとは……抜かったね」
「きっとカルタ姐さんが追っ手を撒いてくれます。それまで隠れて……」
――カルタ姐さんの身が心配だけど信じるしかない
私がしっかりしなくちゃ……
クジャク様の体は病魔に蝕まれている。
かつての鉄火の女傑は、衰え見る影も無い。
「(だからこそ今、恩返しを……助けになりたいのに)」
ヤツメの家から逃げた私を下働きとして匿って、娘の様に可愛がってくれた日々の記憶にいつも心が救われる。
浅い呼吸で赤い着物の胸元がはだけ、汗が胸の谷間に伝う。自分が纏う汚れた着物でふき取るしかない。
「(安全な場所が見つからない……どうしよう)」
隠れたところで、此処は土地勘の無い山の中。
それにもう何日も、まともな物を食べていない。
――最後に食べた川魚と、まん丸のネズミ……おいしかったな
ラコウで商売敵の絡新婦に脅かされ、クジャク様の伝手で異世界に渡ってからも彼らは執拗に追ってきた。
ニホンで使えるお金も無い。誰かから盗むことをクジャク様は許さない。
国全体で食文化が貧しいラコウ。
肥沃な平地が少なく、穀物は育ちにくい。
主食は山でも育つお芋で、肉や魚は強力な魔獣蔓延る山海でしか手に入らない。
そんな国の、小さな貿易商の下働きとしては、いい暮らしをさせてもらっていたと思います。
貧しさには慣れてるけど……でもやっぱり……お腹がすいた。
「誰? 追手じゃあ、ないようだ」
「っ、クジャク様」
うかつでした。近くに誰かいる!
絡新婦の追手がもう!? カルタ姐はっ?
力の入らない体に活を入れ、必死に構える。
「それ以上、近づかない……で……」
「――そんな」
暗闇から歩いてきたのは黒髪で……暗い目をした男の人。
クジャク様と違い、私は翻訳式の刻印を体に入れていないのです。
彼が発する言葉が理解できない。
でも敵意はまるで感じない。暗い目で私を強く見つめている。
顔が熱い。とっても強い想いが、彼の眼から伝わった。
怖くない……年上の男の人。
――そんな人、初めて
安心出来る状況でもないのに、私の中の女が自分のみすぼらしさを恥じる。
「どうして、そんな目で私を見るんですか?」
私に触れようとした彼の手は、途中で力なく地に落ちる。
それでも目の前に蹲る男が私……リンカを見て泣いているのだと分かった時、触れたいという気持ちを抑えられなかった。
初めて触る、男の人の肌。心臓の鼓動が高鳴る。
彼は小さく、何かを呟いた。
「真理愛」
彼がなんと言ったのか、私にはわからない。




