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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
夜話ー前

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シクルナ・サタナクロン


 雨が窓を叩く音がする。だんだんと雨足が強くなっているようだ。


 この帝海都にある建物は四方を海に囲まれており、風を遮るものが無い。土地自体が出島の様な、海の埋め立て地になっているからだ。整地されたのは最近の話であるが、今や此処は日本の中枢。

 

 ゲートによる異世界国交の中心地、後に魔法学島と呼ばれる場所である。


 そんな島内にある政府施設……観葉植物と照明が並ぶ廊下で、鋼城勝也(こうじょうかつや)幼い少女に施設を案内するハメになっていた。


 「これは何かしら、カツヤ」

 

 「ええと、サタ……ナクロン?」

 

 「あら、ちゃんと名前でよんでちょうだい? シクルナ、ですわ」

 

 ――ああ、うん。……シクルナちゃん

 ――はいっ


 「(懐いてくれるのは嬉しいよ……だけど愛魚(まな)ちゃんの目が……)」


 廊下の角を見ると、虎郎(ころう)璃音(りおん)が顔だけ出してこちらの様子を見ている。

 さらに2人の顔の後ろから、愛魚ちゃんの顔が覗く。なんだか自分と幼い少女の関係を、応援しているような表情だ。


 「(ちがうんだ……愛魚ちゃんが思うような仲ではないんだ……)」

 

 数日前、魔導隊は帝海都に呼び出された。

 

 召集を掛けた者は、初期の教導以降、会う機会の無かった異世界外交官や魔導隊計画の担当者達。

 彼らは、2人の異世界人を魔導隊へ引き合わせた。

 2人はノルン神教の信徒を名乗り、日本と神教の融和を目的に来訪したのだという。


 1人は中年の男性で、名をロームモンド・ミケルセン。

 白いローブを着て身ぎれいにしており、眼は眠たそうに半分閉じられていたが、穏やかそうな印象。


 もう1人がいま、手を掴んで引っ張りながら案内をせがむ少女……シクルナ・サタナクロンだった。

 彼女は上流階級を思わせるフリル付きの動きやすいドレスを身にまとう。


 どういう訳か、シクルナには初対面で気に入られてしまい案内役を仰せつかってしまった。

 数日間なかなか放してくれず、ずっと魔導隊で面倒を見ているような状態……ロームモンドという男性は挨拶以来姿を見ないので、少女をどうすべきか聞くことも出来ない。

 保護者ではなかったのか?


 「ちょっとカツヤ! ちゃんときいてちょうだい」

 

 「あっごめん。何かな」

 

 「わたしをずっと見てくれないとイ・ヤ。レディーをエスコートできるなんて名誉なことなのよ?」


 子供のままごとのような連れ添い。正直疲れるが、問題なのはそこじゃない。


 腕に抱き着かれながら進むと、愛魚ちゃんが居る廊下の角にたどり着いてしまった。

 

 「……ふんっ。このひとはわたしのモノですわっ」

 「う、うん…………?」


 シクルナは、愛魚ちゃんがどうも気に入らないらしい。

 会うたびに腕を強く握られ、勝ち誇ったように彼女に宣言するのである。


 子供のすることだと分かっていても、なぜか愛魚ちゃんに罪悪感が湧いて……なにより彼女に、自分とシクルナちゃんの仲を気にする素振りが無いことに苛立ちを覚える。

 

 想いも伝えていない現状で、不満を感じる資格はないけど……でも、どうしてもモヤモヤする。

 愛魚ちゃんは、オレが魔導隊を引っ張れる男になれれば……少しは意識してくれるだろうか。

 意識してほしい。

 悩みは(つの)るばかりだ。


 「……むう! カツヤったら、またわたし以外を見て……!」


 シクルナは相変わらず不満げだった。


 ・

 ・

 ・


 「なーんなのかしらねアレ」

 「シクルナ・サタナクロン……仕入れた情報では、あの子はノルン神教の枢機卿の娘らしい」

 「そうなんだ。偉い人の娘さんなんだね」


 鋼城とシクルナが通り過ぎた後、虎郎(ころう)璃音(りおん)愛魚(まな)の3人は(さき)の彼らについて話す。


 「愛魚ちゃんはいいのぉ? あのシクルナって子に目の敵にされてるわよ」

 「う、うん。でも理由が分からないし……それにシクルナちゃんはまだ子供だから」

 「勝也も罪な男ね。……本命にはまだ遠いのが、ちょっとかわいそうかしら」

 「?」


 どこか訳知り顔の虎郎に、愛魚が首を傾げる。


 「でも勝也がロリコン趣味に走るなら、アタシが縛り付けてでも止めなくちゃね」

 「……ああ……虎郎の亀甲縛りの出番ってわけかい。縛る手が早すぎて手品にしか見えないあの」

 「きっ……亀甲……わぁ」

 

 愛魚は顔を赤く染めた。


 魔導隊が今まで相手取ってきた中には人間も含まれるわけだが、虎郎は悪人を亀甲縛りで緊縛し、吊るし上げるて捕縛するのだ。

 縛る手際は神がかっており、誰にも手の動きが見えない。


 なぜそんな技術を持つのか……皆で虎郎に聞いたことがあるが……


 「ひ・み・つ」


 と、彼女は供述している。


 「(そこで話は終わらないのさ)」


 哀れなのは七郎。

 彼は亀甲縛りで吊るされた男達を見て“別にこの縛り方じゃなくてもよくない?”と真っ先に口を滑らせた。


 「(ボクだって思ったさ。至極当然な感性だ)」


 でもね、縛っている虎郎の顔をよく見るべきだったんだよ。触れない方がイイ事もある。


 それから七郎には数日間、虎郎による亀甲縛りのレッスンが行われた。レッスン期間の七郎は見てられなかったね。

 

 ”「亀さん亀さんおしりんりん」”


 ……みたいな意味不明な言葉を、焦点の合わない瞳でずっと呟くんだよ。

 虎郎も満足そうに声高らかに笑って……。


 よほど辛かったらしい。

 レッスンが終わると、七郎はその期間の記憶を失っていた。


 だけどね……以降七郎は人間を縛る時、必ず亀甲縛りで縛るようになったんだ。

 その手の動きは、信じられないほど鮮やかで――……。


 「どうかした璃音? 震えちゃって」

 

 「…………いや、なんでもないさ。ところで七郎は? 姿が見えないね」

 

 「七郎ならアタシ達の夜食作ってるわよ。肉体労働には支給のお弁当じゃ足りないのよねー。教導の宿泊所と同じような調理スペースがあってよかったわぁ」

 

 「七郎くんの料理、すごくおいしいよね。……た、食べ過ぎないようにしないと」


 確かに七郎の作る料理は絶品ばかりだ。家での料理担当は彼だったらしい。

 同居する人間はさぞ幸運なことだろうね。


 「へぇ、それは楽しみだ。何を作るんだろうね」

 「叉焼(チャーシュー)煮てたわよ」


 1時間後、ボクらは亀甲縛りで煮られた豚肉と向き合うことになった。



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