表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/321

初代魔導隊(2)


 「2匹逃げるよ!」


 鷲弦愛魚(わしづるまな)の速射が、(またたく)く間に3匹の魔犬を射抜く。

 予想以上の数の魔犬が群れを成し、俺達を囲んでいた。


 ここはとある(けん)の森林公園。

 この公園の隣には過疎が進む村があったが、魔法元年以降の政策により村民は近隣都市へ移住。


 現在日本の生活圏ほぼ全てに、ゲート開通前から国が用意していた破魔結界が施されている。

 おかげで魔物の被害はごく少数に留まっていた。


 今回は廃村および森林公園に住み着く、魔獣化した野犬の群れを駆除する任務。

 予想以上の犬の数に苦戦しているが、危なげなく駆除は進む。


 「イヤになっちゃうわねえ!」


 虎郎の剣の一振りで、数匹の魔犬が切り裂かれる。


 高水準の身体強化によって、最強の攻撃力を生み出す虎郎(ころう)

 遠距離からの索敵と狙撃を行う愛魚(まな)

 堅実に前線で立ち回る鋼城(こうじょう)

 戦闘に参加しながらも、やや後方で部隊を戦略的に指揮する璃音(りおん)


 そして状況の変化に応じた役割を担う俺……墨谷七郎。


 主に行うのは前線の戦闘要員であるが、必要であれば陽動、救出作戦においては殿(しんがり)を務める。

 

 「(……璃音は頼みにくい役割を、俺に押し付けているだけではなかろうか?)」


 聞いたところで肯定されるだけだろうから、聞かないでおく。

 

 ――やだぁぁぁぁ!!


 「七郎! 子供の声だっ」

 「!? ここに人はいないハズだろ」


 俺達は少人数のみで構成された身軽な実験部隊。

 機動性を重視する為に国の指揮系統から半ば外れているが、支援は十分に受けている。

 この森林公園付近の土地にも事前に調査が入り、無人であるという確かな情報があったはずだが……。


 「声は南の方だっ。そう遠くない! 七郎、君が助けに」


 「いや待ってくれ」


 璃音の指示に鋼城が異議を唱える。

 

 「七郎が抜けると戦力に不安がある。不確かな情報で陣形を崩すのは……」

 「確かに声が聞こえたんだ。状況は一刻を争う」

 「魔犬が後ろの愛魚ちゃんにまで行ったらどうする!?」


 鋼城は、後方から的確に矢を射る愛魚を心配しているようだった。

 

 「(鋼城は愛魚ちゃんを気遣うことが多いな……?)」

 

 俺は魔犬を牽制する傍ら、頭の隅で思う。


 鷲弦愛魚のことに留まらず、最近は場をまとめる虎郎や璃音に、鋼城が異議を唱える場面が多い気がする。

 なにか、自分がリーダーになろうとする意欲というか……熱意のようなものを感じるのだ。

 意見交換をしている認識だったので、深く気にしたことは無かったが……。


 「確認して、すぐ戻る」

 「あ、おい!」


 俺は即決して南に駆けだしていた。

 

 「(この鎧……もう少し便利な機能を付けてくれないかなぁ……通信できるとか、方向が分かるとか)」


 疲労のせいだろうか。駆けながら心の中で自然と愚痴が零れる。

 黒一色にカラーリングされた鎧は、強度と機動性は素晴らしい。

 

 視界もヘルメットのバイザー越しとは思えないほど良好だが、それ以外の機能は無い。

 方向や人の気配は、強化された肉体の感覚に頼り探るしかないのだ。


 「……襲われてる!」


 魔犬の唸り声と血の匂いの先に、今まさに倒れた男が一人。倒れた男は木の棒を持ち、抵抗していた跡が見える。

 そして魔犬は、男の傍に居る子供に襲い掛からんとしていた。


 全力で地を蹴り、彼らに飛びかかる犬を蹴散らす。

 まずは犬の注意を全て俺に向けることが重要だ。


 殺させない。

 意思を込めた視線に、魔犬は後ずさる。


 「かかってこい!!」


 守りながらの戦闘。鎧に牙が刺さるが、冷静に1匹づつ倒していく。

 背中にずっと、幼い少女の視線を感じながら。


 ・

 ・

 ・


 逃げ出した魔犬も愛魚の矢が全て仕留めた。

 駆除が終わり、襲われた親子の救急搬送が行われる。


 「――ありがと」


 小さな少女は健気に俺達への礼を述べ、父親と共に運ばれていった。


 「どうしてこんなところに?」


 愛魚が少女を抱きながらそれとなく聞けば、“しゅぎょーで森にきた”と言っていたらしい。

 よくわからなかったが、父親に意識が無い為確認することは出来ない。


 ……最近の俺には、魔導隊という立場への疑問があった。


 なぜ俺達が魔導隊でなくてはならないのか?

 危険な目に合わねばならないのか。

 犯罪者とはいえ人を……傷つけなければならないのか。


 皆、同じような事を心の中で思っているだろう。


 「(それは人を守る為なんだ。俺達にしか守れない人がいる)」


 もういいだろう。充分やった。ただの学生に戻りたい。


 「(だがそうしていれば、今日の親子は守れなかったかもしれない)」


 幼い少女の“ありがとう”が、此処に居る全員の心に確かな火を灯す。

 見合わせる5人の顔は明るかった。


『ブックマーク』と★★★★★評価は作者の励みになります。お気軽にぜひ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ