初代魔導隊(1)
魔導隊として活動し、はや1年。
これまで魔獣の討伐を主な戦闘経験として積んできた。
魔導隊の黒鎧にも細かい傷が増えてきたが、大きな破損は無い。この鎧のおかげで、魔獣の牙から何度救われたことか。
今は、魔犬の群れが目撃された縣まで大型車で移動している最中。
「ふふ~ん」
虎郎が愛用の剣と鎧を磨きながら鼻歌を歌っている。
俺は彼女の鼻歌をBGMに、璃音と盤上遊戯に勤しんでいた。
戦況はこちらが劣勢。
「七郎は一発逆転のロマンを追い求め過ぎなんだよ。もうボクの勝ちは揺るがないね」
「う~ん」
困った。本当に逆転の目が見つからない。
「そういえば墨谷。この前の休暇で家に帰ったんだろ? どうだった?」
「あ、アタシも気になってた」
愛魚の隣に座る鋼城と、手入れを止めた虎郎が俺の里帰りについて聞こうとする。
彼らが俺の帰省という、つまらない内容に興味を持つのには理由がある。
「…………相変わらず、祖母には俺が服役中だと思われてたよ。“今度の仮釈放はいつだい!?”……だってさ」
「くっ……あははははははははは」
鋼城と虎郎は大爆笑。璃音も笑いをこらえきれず、愛魚ちゃんも噴き出す始末。
だから言いたくなかったんだ。
俺達の近況は、家族にも詳しく説明されていない。
魔導隊として活動していることは伏せられ、適当な国の活動に従事していることになっているのだ。
魔導隊となってから、情報を漏洩しないことを条件に全員一度家に帰され、家族と再会している。
しかし俺の祖母は、なぜか俺が逮捕され刑務所でお勤めしていると思い込んでいた。
国の説明役はきちんと妥当な理由をでっち上げ祖母に説明したが、祖母は俺が捕まったのだと思い込んでしまったのだという。
「(俺はそんなに、ナニカしでかしそうだったのかい? ばあちゃん……)」
和気あいあいとした空気。
これは上辺だけのものだ。自分達なりの息抜き。
本当は皆疲れ切っている。
度重なる戦闘、不死者を処理した際の人殺しに似た罪悪感。
……人殺し……そう、俺達が相手取るのは魔物だけじゃない。突発的に魔法への適性を得て、それを悪事に利用する人間への対処も仕事。
魔法への奇跡的な適応力の高さで、詠唱知識も無しに火炎魔法を街中で放つバカもいた。
考えてもみて欲しい。
身体検査や金属探知機にも引っかからない丸腰の人間が、突然火炎魔法と言う手りゅう弾を握る。
国もこういった魔法による犯罪には手を焼いているのだ。
市民に犠牲者を出した魔力適応者……第2世代魔法使いで構成された武装集団を制圧した時から、俺達の心は暗い。
「……はぁ、久々にこんな笑ったわ。ありがとね七郎」
「こんな喜べない感謝ある?」
もうすぐ魔犬の群れが目撃された土地に着く。
俺達は無理にでも笑いながら、到着までの道行が楽しい時間となるよう努めた。
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