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勝利への道筋

 

 「いいかい?作戦の(かなめ)はボクの作ったコレと――」


 グラウンドの片隅で、俺と璃音(りおん)を含めた5人は戦闘訓練の段取りを話し合っていた。

 ニーナラギアールの教導(きょうどう)を受け始めてから数か月が経過している。


 ――今日こそニーナ教官の背中を地につける 


 その意気込みで俺と璃音で考えた作戦を、実行に移すのだ。


 「しかしまあ、見違えたわね2人とも」

 

 「え?」

 「ん?」


 隣り合い作戦を詰める俺達を見て、虎郎(ころう)が冷やかすように笑っている。


 「仲良くなりすぎだ」

 「うん。ちょっとビックリしちゃった」


 鋼城(こうじょう)愛魚(まな)も同じような顔をしていた。


 「ディフェンスウォー好きに悪い人間イナイ」

 

 「アタシ七郎の将来が心配だわ」


 失敬な。ディフェンスウォーを統べるものは偏差値が上がって収入も増え彼女も出来ると話題なのに。

 対戦50戦目ぐらいで空から聞こえてきたんだ。璃音も聞いたって言ってた。

 

 「(結局100戦ぐらいしたか?)」  


 璃音と()(てっ)して行う盤上遊戯は、想像以上に楽しかった。本当に楽しかった。


 2日目の夕方に、教官と虎郎達に引きはがされるまで熱中していたのだ。聞けば璃音も誰かとプレイするのは初めてだったとか。

 互いに親近感が湧いた瞬間である。


 「七郎の言う通りさ。心配症なんだよパパン」

 

 「せめてママと呼びな」


 それ以来、璃音と俺は親友となった。


 「それでね七郎――」


 なったが……今度は逆に距離が近い。

 体が触れ合う近さにしゃがみ込む彼は、見た目が褐色ハーフの美少女という点を忘れてはならない。

 脳が混乱する。


 「(璃音は男)」


 外見を意識しないよう、無心となることが大事なのだ。


 「……七郎が時折するその顔は、なんだか(しゃく)に障るけど……まあいいよ。今回の作戦で重要なのは――」


 作戦を聞いた4人の視線が愛魚へと向く。


 「自信は無いけど……やってみるしか、ないよね」

 

 戦闘訓練――その合格条件はニーナ教官を地面に倒すこと。

 成功の鍵は愛魚の弓と、璃音が用意した秘密兵器に託された。


 ・

 ・

 ・


 ニーナ教官に挑み始めて、まだ一分も経っていない。


 「どうした! これではいつもと同じだぞっ。成長を見せてみろ! 失望させてくれるなっ」


 踊るように立ち回る美女の周りに風が渦巻き、魔法による水球が容赦なく放たれ続ける。

 必死に掻い潜り肉薄すれば、待っているのは一撃でこちらの意識を刈り取る格闘術。


 「(これだ……遠近共に隙が見つからない)」


 ―― 対人魔法戦では無詠唱が基本だ。覚えておけ


 ニーナ教官はそう言っていたが……魔法について少し学んだだけの素人でもわかる。

 アレは絶対に容易(たやす)くできる芸当じゃない。

 

 目の前に居る年若い美女が外見通りの年齢でなく、途方もない年月を生きる異世界人であることを自覚させられる光景だ。


 近接でも敵わない。魔法戦などもっての外。その条件で俺と璃音が導き出した答えはひとつ。

 

 「覚悟はいいね七郎」

 「ああ」


 俺は璃音の合図で、肉体強化の出力を今できる限界まで高め走り出す。


 「行け! 壁になってこい」

 

 「ちくしょおおおやってやらああああ」


 魔法を纏う彼女が予想だにしない方法で奇襲をかけること!

 作戦の第一段階、(おとり)としてニーナ教官へ突貫する。


 標的であるニーナラギアールは冷静そのもの。

 

 「(七郎が突っ込んできた!)」


 度重なる訓練で、幾度(いくど)か見た動き。

 しかし油断してはいけない。七郎は魔法の直撃による痛みと衝撃を心でねじ伏せ、私に迫ることが出来る男。


 戦いのない世界では稀有(けう)な才能……恐怖を上回る勇気、または狂気。

 七郎はその才能の多くを仲間を庇う際に見せていたが、今回は私だけを鋭く見据え直進していた。


 「(なにかある)」


 生徒全員の動きに違和感を感じ、距離を取り【水玉弾】の魔法を七郎へ放つ。

 複数の水魔法が着弾する飛沫が舞うが、七郎は止まらない。

 両手を大きく広げ組みつこうとしてくる。


 「私の肌に触れるには100年早い!」


 距離を見定め回し蹴りを放つ。しかし当たらなかった。

 七郎は突然猛進を辞め、体を屈めている。

 

 見えたのは、死角である七郎の背中に隠れ、距離を詰めていた射手の弓矢。

 回避が難しくなる近距離で放たれた矢が迫る。


 「だが見えていたぞ!」


 死角を上手く利用しているが、魔力の動きを見れば位置を追える。

 鷲弦の動き、そしてーー


 「(鋼城!!)」


 矢の飛来と同時に、横から剣を振りかぶる鋼城。

 ここまで完璧なタイミングで距離を詰められたのは初めてだ。連携が劇的に成長している。

 

 ――しかし、甘い


 息をするように纏っていた風の障壁を収縮させ、膨張。

 

 「きゃッ」

 「うわッ」

 

 矢と共に愛魚(まな)と鋼城の体が吹き飛ばされる。

 

 だが動かない影が正面に。七郎だ。

 

 「おおお!」

 

 魔力の動きから、自重を操作し風撃に耐えたことを察する。

 自重の操作は身体強化の基礎にして奥義ともいえる技術。


 ――さっそく使いこなすとは!


 教師としての感動は、攻撃の第2波により後回しになった。

 

 後ろから鹿波虎郎(かなみころう)の殺気。

 そして七郎の背中から控えめに飛び出す華奢な美少年。


 「(璃音・ウィズダム……連携を指示したのはお前か――。っ、!?!?)」


 少年の手から炎が燃え盛り始める。


 「(――あり得ない)」


 火の属性魔法。5人には決して扱えないハズの攻撃魔法が投げられようとしている。

 予想できなかった光景に思考が止まる。

 反射的に、魔法障壁の展開へ意識を集中せざるを得ない。


 「(風の障壁を散らさなければよかっ……ッ)」


 再び至近距離から放たれる愛魚の矢。

 たまらず構築途中の風障壁で打ち払う……しかし、これでは魔法攻撃に対して丸裸だ。


 「(しまった。風の障壁の消費を誘うために……この為に至近距離で矢を――)」


 それにあの火魔法はなにかおかしい。熱を感じないのだ。

 強制的に割かれる思考と、前後にいる鹿波と七郎による突撃。

 

 「おらあああああッ」

 「喰らいなさあああい!」


 「(さば)ききれない――!!」


 …………。


 「……まいった。合格だ」


 地面に髪を広げながら押し倒されるニーナ教官。

 彼女から伝えられる、5人の勝利宣言を聞き俺は横に倒れこむ。


 「ヤッタわね愛魚ちゃん! 見事にやってのけたじゃない!」


 嬉々とした虎郎が鷲弦をハグした。

 作戦の要の愛魚が不安げであったことを、虎郎は内心心配していたのだ。無理をさせているのではと。


 「バッチリ決まってたわよマーナちゃんっ! そーれっ」


 しかし見事彼女はやり切った。

 虎郎は愛魚を抱え、喜びのまま愛魚を宙へ放る。


 ーーきゃあああっ!?


 多少おふざけの空気が含まれるが、俺や鋼城、璃音も便乗して2人の元に集まる。


 「「愛ー魚ちゃんっ愛ー魚ちゃん」」

 

 「ボクの作戦のお陰なんだが?」


 ーー降ろしてくださいぃぃ


 思い思いに俺たちは作戦成功の喜びを分かち合う。

 しかし、ニーナ教官は今回の作戦の……璃音が使った魔法について納得できていないらしい。


 「璃音・ウィズダム。お前の使った魔法はなんだ? お前たちは属性魔法の適性は無いハズ……いや、そうだ……あの火球には殆ど魔力が――」


 「その通り。アレは魔法じゃない、実験的に魔術式と機械工学を組み合わせたプロジェクターなんだよ」


 「ぷろじぇくた?」


 「つまり異世界人の意表を突く為だけに造った、おそらく世界初の魔導具だってことさ」


 璃音がニーナ教官へ話す種明かしを聞きながら、俺は改めて頭脳明晰な友の才能の広さに感嘆する。

 

 「(まったく……機械工学の分野にも明るいなんてなぁ。吸収した魔術知識を、瞬時に市販の電灯に組み込むとは……凄すぎる)」


 彼の身体強化の才能は、きっと肉体強度でなく脳の処理能力に対してのモノなのだろう。

 機械工学と魔術論理を融合させ、小さな火種を大火のように見せる手品をやって見せたのだ。


 「よくやった。やはりお前たちは優秀な生徒だ。これなら前倒しで魔導隊の鎧を着せても問題なかろう」


 「……鎧?」


 物騒な単語に、嫌な予感を感じる。


 「そうだ、忘れたのか? ここでの教導はお前達を魔法部隊に仕上げる為。日本政府肝いりの計画と聞いているぞ。私は友好国(ニホン)の依頼で協力しているに過ぎん」


 ――とは言っても、存外熱が入ってしまったことは認めるが、な


 教官は立ち上がり、名残惜し気に俺達を見つめる。


 「ウィレミニアの魔鉱と、日本の鉱物を融合させた素材で作られた鎧だ。お前たちの為の特注品だぞ。アレがあれば日本で発生する魔物程度ならビクともしまい……私が保証しよう。――学んだことを活かし、人々を救ってこい。活躍を期待している」


 今日この時を以て、俺達はニーナラギアールの魔法教室から卒業を言い渡される。

 

 次に俺達5人を待っていたのは、鎧により個人を明かさない条件での世間への露出。

 ニーナ教官と過ごした帝海都の施設が、どれだけ巧妙に現実から隠された場所であったかを痛感する。

 発表された魔導隊という存在へのメディアの騒ぎようは激しく、混乱したままカメラフラッシュの雨を浴びたことしか覚えていない。


 日本は魔獣や不死者の発生により混乱した時代を迎えている。

 テレビのニュースで知っていたが、自分達がその対策の矢面に立つなど、本気で考えてはいなかったのだ。 


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