異世界エルフのスパルタ教育
男の娘ってイイですよね……。
息が切れ、汗が滝のように流れる。――どうしてこんな事に
「気合を入れろ! もう10週!」
気温が低いとはいえ、運動による熱は体の中に籠っていく。
線の引かれた広いグランウンドを、集められた魔法使い5人は死に物狂いで走っていた。
「も、もう無理……です」
「ダメよ愛魚ちゃんっ走ってぇぇぇ」
虎郎が死にかけの愛魚に、肩を貸し立ち上がらせる。
全員が必死になるのは、後ろから迫る鬼教官が恐ろしいから。
「 【水玉弾】 」
魔法の炸裂音が後方から聞こえた。
詠唱を省略した弱い水魔法だとニーナラギアール……ニーナ教官は言っていたが、とんでもない。
ボーリング玉と同じ重さの水球が降ってくるのだ。
地面に着弾した水球の飛沫ですら、当たれば驚くほどの衝撃を感じる。
初めて見る憧れの魔法は、俺達を追い立てる恐怖の鞭。
「あははははははははっ。さあっ死にたくなければ走れ!」
「「「「「もう嫌(だ)ぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」
今、5人の心は1つとなっていた。
5人全員が集められた初日。
異世界との外交官を始めとする大人達に、改めてゲートや魔導隊について説明された。
自分たちの身柄は国が預かる形となり、残念ながら帰宅が許されないとも。
アパートに1人残した祖母が心配ではあるが、そこは国の人間が上手く調整しているらしい。
「どちらにしても、君達は此処に留まるしかないんだ。時間は有効に使わないとな」
エルフの有無を言わせない笑顔を前に、俺たちは強制的に哀れな生徒にされた。
彼女を絶対者とした、女王の教室。
――アレは脅迫と言うんだ……。
結局のところ俺達に、彼女の教導を拒否する権利は……最初から無かったのである。
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体力づくりの後は座学。
普通、行う順番が逆じゃないか?
「いいか。ウィレミニアと違い日本では魔力が――」
魔法や魔力についての基本知識。
「魔法に適性の在る人間には、魂と肉体に魔力を流す回路がある。その魔力の道を使い肉体の強化を……」
身体強化の方法について。
「寝るな!!」
「ふがっ!?」
超えられない上下関係。
1ヶ月が瞬く間に過ぎていく。
ニーナ教官による教導、その中で毎日必ず行われる訓練があった。
5人をチームとした、戦闘訓練である。
「いいわね。今日こそあの尖り耳の鼻を明かしてやりましょ」
「異議なし」
「どうやって彼女の魔法を搔い潜れば……」
目の据わった虎郎に、俺も同じような顔をして返す。
鋼城勝也も、連日体に痣を作る魔法への対策に頭を悩ませる。
「や、やっぱり……まだ怖いかも」
「……フン」
鷲弦愛魚は戦闘への恐怖を拭えず、璃音は相変わらず慣れ合う気は無いと言った様子。
グラウンドの隅で行う作戦会議。
この訓練のルールは、教官であるニーナラギアールの背中を地面につければ合格。
身体強化と殺傷能力の無い訓練用の武器を使い、5人一斉にかかる。
「いつでもイイぞー」
すでに教官は杖のみを持ち、生徒らが動き出すのを待つ。
細身で非力に見える彼女の魔法と徒手格闘に、連日惨敗を喫しているのだ。
最初は軽装の教官に武器を向けることに戸惑ったが、その躊躇は必要ないと容赦なく分からされた。
虎郎は何となく選んだ、刃の潰れた直剣を気に入り愛用。
鋼城も同じく剣、それに1m程度の盾を構える。
鷲弦はなんと自前の弓を持っている。
可愛らしくピンク色に着色された、アーチェリーで使用する競技弓。
弓に付けられた名前は愛魚スペシャル。
彼女は、アーチェリー大会で優勝経験のある選手であった。
璃音も変わったモノを手に握る。
登山用のピッケルである。意外なことに登山が趣味らしい。
「(どうりであの過酷な体力作りに付いていけるわけだ)」
――むしろ俺の方が、体力面では負けているかもしれない。
彼は「野蛮なモノは持ちたくないね」と施設に用意された武器は選ばなかった。
自前の為ピッケルの刃は潰されていないが、彼には戦闘訓練への参加意欲が無い。振り回したところでニーナ教官に通用するかは別として……。
そう、彼。
初対面では女子だと思っていたが、彼は歴とした男子であったのだ。
施設に在る風呂で、大きな衝撃が俺を襲う。
璃音を女子だと思っていたと、つい口を滑らしてしまった程だ。
容姿のせいで女と思われることを嫌う彼は、それ以来俺に対して毒舌の当たりが強い。
自業自得だとはいえ、そこまで言うことは無いのではと、不満に思うこともある。
……自身が持つのは、盾と手ごろな長さの棒。
「(これは棍棒なのか……?)」
俺には、特に決まった得物があるわけでは無い。
様々な物を試し、試行錯誤していた。
「いくわよぉぉ!」
後ろで見ているだけの事が多い璃音を除く4人。
各々悲壮な覚悟を決めて、エルフの女戦士に突貫していく。
本日も叩きのめされるだけに終わった。
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