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魔法使い達(ただし脳筋に限る)


 「それでね、あの綺麗な流れ星は、魔力が日本に入り込んだ光だったらしいのよ」

 「魔力……う~ん」


 自分と同じように気を失った鹿波虎郎(かなみころう)は、3日ほどで目が覚めたらしい。

 詳しいことまでは知らないと言っている虎郎であるが、6日も寝ていた俺に比べれば得ている情報に大きな差がある。

 

 病院で目が覚めてから精密検査の毎日であったが、今は首都である帝海都のどこか……場所が伏せられた施設を2人で歩く。

 

 この数日間テレビのニュースも「魔法」「異世界」「歴史的瞬間」というキーワードで埋め尽くされていた。

 

 自分達に起こった事への推測、魔法、互いの出身など……俺が検査を終えるまで、気さくな虎郎とはいろいろなことを語りあった。

 聞けば彼女は年上。

 敬語を使おうとしたが、彼女自身から「年上だからって敬語なんていーのいーの。もう運命共同体ってヤツなんだからっ」と断られたので、肩の力を抜き話している。

 

 ちなみに虎郎の精神(性別)は女性であると本人からしっかり説明されたので、こちらも間違わず接するつもりである。


 「ここネ」


 時折スーツや研究職然とした服装の大人達とすれ違う。

 彼らに好奇の目で見られつつ、歩いてきた廊下の突き当り……その扉の前で足が止まる。


 「アタシは一度来てるけど……今日はアタシ達と同じのが全員集まるらしいから、チョット緊張するわね」

 「……虎郎が緊張?」

 「ほっほぉーどういう意味かしらぁ」


 ……俺の気が張り詰めていることを察して、気安く振舞ってくれているのだろう。

 ここ数日彼女には助けられてばかりだ。


 「……ありがとう」

 

 「! ……んふふ、まっ助け合っていきましょ」


 扉へノックを数度行う。


 ――どうぞ、入ってくれ


 落ち着いた、それでいて言い表せない力を(まと)う若い女性の声で返答があった。

 声に驚きながらも扉を開ける。


 室内には階段状の高低差がり、そこへ真新しい机が段々に設置されている。いつか写真で見たような、大学の教室のような風景。


 机には既に数人が着席している。

 しかし室内で最も存在感を放つのは、先ほど聞こえた声の主。


 ハッキリとした目元、整った鼻筋、翡翠(ひすい)を思わせる色の長髪。

 なにより長く尖った耳の形。


 「揃ったな。この世界で最初の、魔法使いの卵たち」


 彼女の種族名はエルフ。

 異世界ウィレミニア三国同盟から来訪した、美貌の魔法使いであった。

 

 「さあ、席に座ってくれ。君たちが此処に集められた理由を説明しよう」


 虎郎と共に、適当な席に着く。

 部屋に入ってすぐは気づかなかったが、最後方の席に公務員や公僕らしき人々が並んでいた。

 彼らの重々しく厳重な様子と、()()()()()()()人種であると、一目で理解できる女性の存在。


 正直半信半疑であった、異世界との接続という大事件が一気に自分の中で現実となる。


 「さて――」


 ファンタジーの中にあった存在が、翻訳魔法を用い、現在の状況をひとつひとつ語る。


 彼女は ニーナラギアール=フォールルーン と名乗った。


 一週間程前にウィレミニア三国同盟と日本を繋ぐゲートが開いたが、実は数年前より世界間には魔法通信技術による国交が存在したこと。


 ゲートを繋ぐ為に必要な、日本に存在する要石(アンカーポイント)が偶然俺達に強い魔法適性を与えたこと。

 今後、日本に急速に広がる魔力と……魔物の存在。

 その魔物に対抗するべく、魔導隊という実験部隊を設立する計画のこと。

 ここに居る5人を、その魔導隊として育成するというのだ。


 「君達には、いち魔法使い以上の活躍が2つの世界から期待されている……しかし、急な重い期待に戸惑うことだろうが、安心していい。あくまで君たちは予定外の嬉しい誤算に過ぎない。本来魔法による問題は、我々国同士が考えるべきモノだ。気負う必要は無い」


 「当然だね。病院に縛り付けておいて、追加で怪しい部隊計画への強制参加とか……ボクの優秀な頭脳を以てしても、眩暈(めまい)を覚えていたところだよ?」


 さも自分の知性に自信があるといった(げん)の美少女が、エルフの女性へ皮肉気に言葉を投げる。

 最後列の、おそらく国防に関わる人々が若干慌てている。

 異世界人への遠慮のない物言いに、冷や汗をかいているのだろう。


 「ふふ……威勢がいいことだ。まあ、急すぎる話なのは認めよう。まず互いを知ることが重要か」


 ――君達はチームになる予定なのだからな


 そうしてエルフのニーナラギアールは、前列に座る最初の魔法使い達に自己紹介を促す。

 おのずと全員の目線が交わった。


 「よ、よーし」


 自身を(はげ)ます、少女の小声が聞こえる。

 若干目が隠れる位置で前髪を切り揃えた彼女が、勢いよく席を立つ。

 

 「わ、鷲弦(わしづる)愛魚(まな)っていいますっ! あっそのっ……皆さんのお名前を、伺っても…よろちッあぁぁ嚙んじゃったぁ」


 強く噛んだ舌を押さえて涙ぐむ、鷲弦(わしづる)と名乗った少女。

 噛んだ舌が心配であるが、緊張しているのが自分だけでないことが分かり、妙に安心する。


 「鹿波虎郎よーぅ。カナちゃんって呼んで」

 

 「あー…。墨谷七郎、といいます」


 自己主張の激しい虎郎と、当たり障りのない俺の挨拶に大きな反応は無い。


 「璃音(りおん)・ウィズダム。……ま、ボクは慣れ合う気無いから」


 中性的な可愛らしさを持つ美少女。

 あまり愛想のいい性格ではないらしい。頬杖をつき、わざわざ顔を()らし名乗る。


 勝手に彼女へインドアの印象を持ってしまうが、よく見れば健康的に日焼けしたような肌色をしている。

 アウトドア派なのか、名前からしてハーフの血が影響した物なのか。

 正直、あまり仲良くなれそうに無い。


 「そう言わないでくれ。聞いたろう? 皆でチームにならなきゃいけないんだ。鋼城(こうじょう)勝也(かつや)だ。よろしく」


 笑顔で自己紹介した、善良そうな好青年。

 彼はこの状況にかなり前向きらしい。


 「それで、だ。ニーナラギアールさん」


 鋼城勝也は正面に立つエルフの女性に、待ちきれないと言わんばかりに魔法について質問を行う。


 「いったいどんな魔法を教えてくれるんだ? 空を飛べたりするんだろうか?」

 

 「フン。幼稚だなあ」


 興奮気味の鋼城勝也に、璃音・ウィズダムの冷めた言葉が()る。


 「魔法だよ魔法。現代のエネルギー社会に革命が起こせる代物(シロモノ)だ。電力や燃料に代わる途方もない価値がある。それを誰よりも先に手に入れられることを、まず喜ぶべきじゃ無いかい?」

 

 魔法という存在には、あの美少女も並々ならぬ興味を持つらしい。


 「というわけで……どんな素晴らしい魔法が使えるんだい? 大量の火や水を自由に操れるとか!」


 知的を自称する美少女は前のめりになり、結局鋼城勝也と同じような質問をしている。


 「(……あんたが一番楽しみにしてるじゃないか)」


 俺は喉まで出かけた言葉を飲み込む。

 だがどうしてだろう。なぜ2人の質問で、ニーナラギアールの顔が憐れむように曇るのか?

 

 「あー……。期待を裏切るようで悪いが……残念ながら君たちに()()()()()魔法の適性は無いんだ」


 「は?」

 

 ハーフ?美少女の顔が固まる。俺も不可解な気持ちになった。


 「じゃあ世界で最初の、魔法使いというのは……?」

 

 俺も、今度は自然と言葉が漏れてしまう。


 「君達にあるのは、魔力による身体強化の適性だけなんだ……他の才能は限りなくゼロ。事前の検査で、それがハッキリと示された」


 “ごんっ”


 力の抜けた璃音の(ひたい)が、机にぶつかる音が響いた。


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